閑話 とある日の劉吉
暮らす場所を陳留に移したとは言え、劉吉は寺に居た頃と変わりない生活をしていた。
朝目覚めると、寺の住職に頼んで作って貰った霊帝であった父劉宏と母宋蓉の位牌に御祈りをした。
それを四半時ほど行ってから朝食を取る。
朝食を食べている最中に、自分付きの侍女が話し掛けてきた。
「皇女様。本日はこの後、地元の名士の奥方様が参ります」
「ああ、今日はそうだったわね」
侍女に言われて、劉吉は朝食を食べる手を速める。
陳留に封じられた曹昂との誼を深めようと、名士達は文を送る。
曹昂は忙しい為、相手を碌にする事が出来なかった。
その代わりとばかりに、劉吉が応対していた。
皇女であった為か社交の経験があるので、文読み、伝えるべき事は曹昂か適切な者に伝える。
どうでも良い物は報告もせず、見なかった事にして処分する。
他にも陳留に暮らしている名士の奥方を招き、社交しつつ情報収集と曹昂の支援を依頼したり、名士の奥方の話から、様々な情報収集など行っていた。
朝食を取り終えた劉吉は直ぐに侍女の手を借りて身支度を整える。
皇女として恥ずかしくない衣装を纏い、その衣装に見合う佩玉、耳飾り、簪、首飾りで自分の身体を着飾る。
「とても良く御似合いです。皇女様」
「ええ、とても御似合いです」
着替えを手伝ってる侍女達は劉吉の姿を見て称える。
「ええ、ありがとう」
侍女達が褒めてくれるので、何も言わないのは失礼だと思い礼を述べる劉吉。
「皇女様。そろそろ」
「ええ、分かったわ」
自分付きの侍女が名士達の奥方達が居る部屋に向かうように促すので、劉吉は立ち上がった。
そして、侍女達を連れてその部屋へと向かった。
部屋の前に着くと、女性達の話し声が聞こえて来た。
劉吉が部屋に入る前に自分付きの侍女が部屋に入った。
「皆様、皇女様が参りました」
侍女がそう告げると、話し声がピタリと止まった。
静かになった所で劉吉が部屋に入った。
部屋に入ると、年齢層はバラバラであったが着飾った衣装を纏う女性達が座席から立ち上がっていた。
劉吉が用意されている上座に座っても、その女性達は座らずそのまま立っていた。
「どうぞ、お座りを」
劉吉が座る様に促すと、女性達は座りだした。
そして、女性達の中で一番年齢の高い者が劉吉に一礼した。
「皇女様。本日はお招きいただき感謝申し上げます」
他の女性達もその女性に倣うように一礼する。
「私も皆様とお会いする事が出来て嬉しく思います。今日は楽しい一日となりましょう」
劉吉がそう言って手で合図を送ると部屋に侍女達が入り、劉吉と名士の奥方達の座席に料理の盛られた皿と湯呑を置いて行く。
皿に盛られた料理は底が深い器で白い物体に黒い液体が掛けられていた。
匙も一緒に置かれているので、それで掬って食べろという事だろう。
「皇女様、これは豆花ですか?」
女性の一人が訊ねて来たので、劉吉が答える前に自分付きの侍女が近付いて何事か囁いた。
「ええ、そうです。甘く味付けされております」
劉吉から料理の名前を聞いた女性達は匙を取り掬った。
匙が白い物体に当たると、スッと入って行く。
そして、それを掬い口の中に入れた。
「まぁ、何て滑らかなのっ」
「私は豆花を食べた事がありますが、これほど滑らかではありませんでしたわ」
「そして、この黒い液体が甘くてとても合いますね」
女性達は豆花の食感と味に耽溺していた。
この豆花とは、簡単に言えば豆腐だ。
だが、豆腐よりももっと柔軟な食感を持ったゼリー状となっている。
本来であれば、石膏で固められるのだが、其処は曹昂が臧覇に依頼して、にがりを作って貰い、それで作ったのだ。
その為か、石膏で作るとややざらざらとしている食感が、滑らかな食感となっていた。
「流石は皇女様です。これ程、美味しい豆花など初めて食べましたわ」
「そう言って頂けると助かります。用意した甲斐があるというものです」
劉吉が微笑んだ。
その後は女性達が好きに話し合いを始めた。
劉吉も話に混じり、相槌を打ったり曹昂を支援して貰うようにと遠回しに伝えたりしていた。
その夜。
名士達の奥方達の話し合いが終わり、夕食を食べ終えた劉吉は寝室に居た。
そろそろ眠りに着こうかと思っているところに、曹昂が訊ねて来たと侍女が告げてきた。
(今日は御渡りに来ないと思っていたのだけど……)
そう思いつつ身なりを軽く整えた。
程なく、曹昂が部屋に入って来た。
「皇女様。夜遅くに失礼します」
「ささ、どうぞ。こちらへ」
曹昂が部屋に入ると、劉吉は手で自分の隣に座る様に促した。
曹昂は劉吉の隣に座ると、劉吉は曹昂の方に顔を向けながら訊ねた。
「今日はもう来ないと思っていました」
「ははは。ここのところ、皇女様と話をしていないと思い、こうして参りました」
「まぁ、そこまでしなくても良いでしょうに」
劉吉は曹昂の誠実さに嬉しそうに笑った。
「夫婦になったのですから、これぐらいはしませんと」
「そうですか……」
曹昂の言葉に劉吉は頬を赤らめた。
そして、二人は床を共にした。
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