この名前は
数日後。
都が完成した祝いとして宴が開かれた。
朝廷に名を連ねる重臣達だけでなく献帝陛下も臨席するという豪勢な宴となった。
曹操の直臣、親戚だけ参加している訳ではなく、他州の有力者にも出席する様に促した。
袁紹、馬騰、劉表、劉璋、劉虞、士燮といった者達は重臣を代理として送り込んできた。
呂布と袁術は、色々と理由を付けて誰も送り込まなかった。
その席に曹昂は劉吉と共に出席していた。
これには内外に二人の仲の良さを示すという意味と曹操と献帝は外戚になったという事を見せつける為でもあった。
上座に座る献帝陛下。その近くに座る曹操の側には、曹昂と劉吉の姿があった。
仲良く話す二人の姿に、宴に集まった者達は曹操の権威が増すなと思った。
「皆々様方。今日このめでたき日にお越しいただき、誠に感謝の一言。天子が住まうに問題無き都を作る事が出来たのも、全て天が望み給うとした事。天子がご健在であられる限り、漢帝国は安泰と言えましょう。それを祝して、献杯いたしましよう」
曹操はそう言って酒が入った盃を掲げて、上座に座る天子を見る。
宴に参加している者達も同じように、盃を持ち盃を掲げた。
「陛下の御世が永久に続く事を願い、万歳」
「「「陛下の御世が永久に続く事を願って」」」
曹操の言葉に続くように皆が言い終わると、曹操が盃に口を付けて酒を飲んだ。他の者達もそれに続くように酒を飲みだした。
そして、音楽が鳴り始め宴が始まった。
膳に置かれる料理一つ一つが、この日の為に用意した山海の珍味であった。
皆、それらの料理に舌鼓を打っていた。
そして、膳の料理が無くなると、今度は菓子が運ばれてきた。
曹昂が以前、劉吉達に試作したウ・ア・ラ・ネージュが運ばれてきた。
皆、その料理を一目見るなり唸り声を挙げていた。
「むぅ、白い玉の下に黄色い液体が敷かれているな」
「この白い玉の中には緑色と赤い物が混ぜられているな」
「そして、この黒い液体は何だ?」
皆初めて見る物という事で、興味半分警戒半分で料理を見ていた。
初めて見る物という事で、皆食べるのを躊躇していると、曹操が匙を手に取り白い玉を掬い口に運んだ。
「…むっ、何だ。この料理はっっっ⁉」
一口食べるなり、曹操は目を限界まで開いて驚愕していた。
「美味いっ、のだが噛んでいく内に、消えていく。まるで雲か霞を食っているかのようだ。それでいて、白い玉に混ぜられている干した果物の味と苦みと甘みだけ口に残っているっ。何だ、これは? 美味すぎるっ」
曹操はその料理をもっと食べたいと思ったのか、匙を動かし続けた。試食をしていなかったので、純粋に料理の味に驚いていた。
動かし続けた事で、料理は直ぐに無くなった。だが、曹操は使用人にお代わりを持ってくるように命じた。
曹操が食べて美味いと言うので、他の者達も匙を動かした。
「何だ、これはっ」
「本当に雲か霞を食べているかのような食感だな」
「しかし、後味で確かに甘みと苦みと酸味が入り混じった余韻だけ残っているぞ……」
皆、その料理の食感に驚きつつ味も堪能していた。
献帝も匙で掬い口に運ぶと、その味に驚いていた。
「朕はこれ程の料理は初めて食べる。曹操よ」
「はっ。陛下」
「この料理は何と言うか分かるか?」
「はっ。此処に居る我が息子がこの料理の事を知っておりますので、息子にお聞き下され」
曹操がそう言うので、曹昂は食べる手を止めて頭を下げた。
「面を上げよ。曹子脩よ」
「はっ」
献帝が頭を上げて良いと言うので、曹昂は頭を上げた。
「曹子脩よ。この料理は何と言うのだ?」
「はい。陛下。この料理は卵の泡雪仕立て。カスタードを添えてという料理名になります」
「そのかすたぁど?というのは、何なのか分からぬが、この白いのは卵だと言うのか?」
「左様にございます」
曹昂の返事を聞いて、皆どよめいた。
この白い玉が卵で出来ると思っていなかったという反応であった。
「ふむ。これ程美味な料理は初めて食べる。これ程の料理を作る事が出来る者を義兄に持つ事が出来て、朕は嬉しく思う」
「勿体なきお言葉にございます。陛下」
献帝のお褒めの言葉に曹昂は頭を深く下げて答えた。
その後、宴は恙無く終わった。
それから数十日後。
曹操は司空府を開いた記念という事で、宴を開いた。
今回は自分の権勢を多くの者に見せつける為か、有力者というよりも名士を広く呼び集めた。
宴が始まる前に、曹昂は宴に参加する者達の名簿を見ていた。
「父上も自分の権威を示す為に、此処までしなくても良いものを」
名簿に書かれている名前を見ても、名士と言われても曹昂にはどんな人なのか分からなかった。
とりあえず、どんな人が来るのか名簿を見ていると、驚くべき名前があった。
揚州廬江郡。左慈元放。
出身地と名前と字を見た曹昂は思わず二度見した。
「え、えええ……」
その名前を見た曹昂は、驚いた声を上げた。
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