完成
それから更に数日後。
州牧の仕事をしている曹昂の元に文がやって来た。
「……やれやれ、舅殿も大変だな」
曹昂はやって来た文を読むなり、嘆息した。
送り主は袁術であった。
文には豫洲から送られる税に喜びつつも、劉表が先の戦いの損害がまだ回復していない。いずれ、自分が治めている郡に攻め込むかも知れない。その時は親族の誼で援助をして貰えるだろうかとも書かれていた。
他には、呂布を迎えたが領内で横柄な振る舞いをしているので、ほとほと困っていると書かれていた。
(劉表が攻め込んできたら、援軍を出さないと後で何と言うか分からないからな。その時は誰を出そうかな。まぁ、その時が来たら考えるか)
今日明日の事ではないと判断した曹昂は、それ以上考えるのは止めた。
そして、仕事に戻ろうとしたら、また文が届いた。
「今度は何かな……むっ」
届けた者から文を受け取り広げ、目を通した。
最後まで読むと曹昂は喜んだ顔をした。
「ようやく出来たか。さて、劉巴と蔡邕にも声を掛けておかないとな」
曹昂は二人に出掛けるので付いて来る様にと命じつつ、護衛も準備させた。
数刻後。
この間来た溜め池に曹昂と劉巴、蔡邕の他に董白まで付いて来た。
曹昂が何で付いて来たのか訊ねると、暇だから付いて来たと言ってきた。
曹昂は董白は口が堅いから良いかと思い、これから見せる物は口外しないと約束させた。
そして、曹昂達が溜め池に着くとこの前来た職人達が既に居て、準備を済ませていた。
側に焚火が焚かれていたが、董白からしたら何をしているのか分からなかったが、前に作業を見ていた劉巴達は何かに使われるのだろうと、直ぐに分かった。
「これは州牧様」
職人達の中で一番年上の男が、曹昂を見るなり一礼した。
「首尾はどうだろうか?」
「はい。後は取り付けるだけです」
「後は成功するのを、祈るだけか」
曹昂は溜め池の側で行われている作業を見た。
弓弦が無い弩の上に、赤い鳥のハリボテが台に置かれていた。
「なぁ、曹昂」
「何かな? 董白」
「あの台に乗っているのは何だ?」
「見ていたら分かるから」
曹昂は全て教えても面白くないと思い教えるのを止めた。
董白は話すのを止めて、溜め池で行われている作業に注視した。
赤い鳥のハリボテの下部の筒状に着けられている紐に、焚火から火を貰った松明が近付く
そして、赤い鳥のハリボテが乗せられた台が池の方に向けられた。
「良し。発射!」
曹昂が号令を下すと、赤い鳥のハリボテの下部は、筒状で紐に松明の火を近づける。火が紐を伝い筒の中に到達した。
筒から赤い火と閃光が放たれたと同時に、赤い鳥のハリボテも飛び上がった。
弩の台から放たれた、赤い鳥のハリボテは大空へと向かって行き、やがて、空を飛ぶ力を失い、弧を描きながら、池へと落ちて行く。
その途中で、空中で爆散した。
ドーンという激しい音と爆炎が起こった。
突然の爆炎と轟音に、曹昂を含めた皆は驚いた。
「おお、これは凄い」
「若君。これは凄まじい破壊力ですな」
「これは戦を一変しますな」
曹昂達はハリボテの破壊力を分析していた。
董白は、驚きのあまり言葉を失っていた。
「先生。この事は」
「他言無用ですね。仰せのままに」
蔡邕自身も機密にする事に加えて、この事を曹操に文で教えても正気を疑われると思い教える気はなかった。
「若君。この兵器は何と名付けるのですか?」
「そうだな。とりあえずは、飛火鳥で良いんじゃないですか? 後日父上に見せた時に父上に名付けて貰えればいいでしょうし」
「宜しいかと思います」
蔡邕も頷いたので、曹昂は飛火鳥と名付けた。
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