戦後処理

 濮陽を包囲していた黄巾賊。


 しかし、黄巾賊は一向に城を攻撃しようとしなかった。


 それには二つの理由があった。


 一つは黄巾賊の指導者達から攻撃命令が出ていない為だ。


 もう一つは城の周りに『帝虎』と『龍皇』が配備されている事だ。


 張梁率いる黄巾党が『帝虎』と『龍皇』の前に敗れた事を聞いている黄巾賊からしたら、恐れるのも不思議ではなかった。


 そんな事を知らない曹昂と荀彧は城壁の上で、黄巾賊がいつ攻撃するのか気になってしょうがなかった。


「攻めて来ませんな」


「・・・・・・そうですね」


 城壁の上に居る二人は城を完全に包囲している黄巾賊を見て呟いた。


 未だに攻撃してこないので気味が悪いと思う曹昂達。


「これも、あの戦車のお蔭でしょうかね?」


「さぁ、どうでしょう」


 そう言いつつ曹昂は、この時代の人達からしたら、あんな張りぼてでも十分に敬う対象ではあるようなので、そうかもしれないなと思った。


 話していると、後方から砂塵が上がっているのが見えた。


「あれは、我が軍の旗を掲げた騎兵ですな」


「先頭は子孝さんだ。持っている槍に何か刺しているな……生首?」


 曹昂達が目を細めひさしを作りながら見ていると、騎兵の一団は大音量で叫んだ。


「お前達の指導者はこの通り討ち取ったぞ! お前達もこうなりたくなければ早く降伏するが良い!」


 曹仁は叫びながら、槍に突き刺している物を見せる。


 曹仁の後ろに居る兵達も、何人かも指導者の首を突き刺した槍を持って黄巾賊に見せていた。


「あ、ああ、そんな……」


「まさか大方達が敗れるとは……」


「やはり、この戦はすべきではなかったのだ」


 自分達の指導者が討たれたという事で、戦意を失い武器を地面に捨てる黄巾賊の兵達。


 槍に刺さっている首を見るなり、次から次へと武器を捨てていった。


「ふぅ、これで戦は終わりですね」


「そうですね。後は兗州の有力者に声を掛けて、我が殿を兗州州牧にする様にと」


「お願いできますか?」


「お任せ下さい。鮑信殿と張邈殿の二人は殿に任せるのが良いと思います」


「父上が戻りましたら、そう報告します」


「では、後はこちらにお任せを」


 荀彧はそう言って一礼して城壁から降りて行った。


 


 数刻後。


 曹操は捕虜にした黄巾賊を連れて、濮陽に帰還した。


 それだけではなく、討たれた劉岱の首も持ち帰ってきた。


 劉岱の首を持ち帰って来た曹操を鮑信達は歓待した。


 勝利の宴が行われる事になった。


 その準備の中で、曹昂は曹操に近付いた。


「お帰りなさいませ。父上」


「おお、息子よ。見るがいい。勝ったぞ」


「お見事です。それで、今後の事ですが」


 曹昂がそう言うと、曹操は曹昂に近付き囁く。


「荀彧は何か言っていたか?」


「鮑信殿と張邈殿以外の有力者に声を掛けて父上を州牧に推す様にすると。鮑信殿達の説得は父上がすべきだと」


「そうだな。うむ、私が話そう」


「後、これは僕の意見ですが。劉岱殿の葬儀の喪主を父上が務める様にすべきです。劉岱殿は奥方はおられるようですが、お子はいないそうですので」


「……ふむ。成程。劉岱の後任は私だと知らしめろという事か」


「その通りです」


「悪くない手だ。それでいこう」


「では、後は文若殿と話して行います。父上は御二人の説得を」


「任せろ」


 そう言って曹昂は一礼してその場を離れた。


 


 後日。




 曹操は鮑信と張邈を説得して、劉岱の後任の州牧に推して貰える事となった。


 荀彧の工作も功を奏し、特に反対する者も無かった。


 劉岱の後任は曹操となる事がほぼ決まりかけたところで、劉岱の葬儀が行われた。曹操が喪主を務める形で。劉岱には奥方はいるが、子供はいなかった。


 その為、誰もが劉岱の後任の州牧が喪主を務めると分かった。その喪主に曹操がなった。


 人知れず次の兗州州牧は曹操だと皆理解した。

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