年越し前に
張邈の元で年を越す事にした曹操達。
と言っても行った事と言えば、除夕大晦日の日に年夜飯大晦日の晩御飯の前に先祖の供養を行ったぐらいだ。
これは夕食の前に先祖に料理や酒をお供えし、儀式によって先祖に声を掛けて敬意を表する儀式だ。
それが終わったら親族で食卓を囲み、一年の最後の食事を共にする。
通常であれば、食べ終わって各自自由に過ごすのだが。
「いや、これはこのままでいいだろう」
夏候惇が文句は許さんとばかりに力強く断言した。
「元譲。幾らお前でもその意見は受け入れられないな」
曹操が異議を唱えると二人は睨み合う。
「俺は夏候惇の意見に賛成だな」
曹洪が夏候惇の意見に同意すると曹仁も同じくとばかりに頷いた。
「俺は孟徳の意見に賛成だ」
「……僕も孟徳兄さんの意見に同意します」
夏侯淵は当然とばかりに、曹純がおずおずと手を挙げながら夏侯淵の意見に同意する。
「曹純、お前までっ」
曹仁は弟の意見を聞いても、信じられないという顔をしていた。
この地に居る親族同士で最初は仲良く食卓を囲んでいたのだが、室内の空気がギスギスしだした。
(……困ったな)
そんな中で曹昂はどうしたものかと悩みだした。
どちらを立てても角が立つ。
そう思い口を出す事が出来なかった。
(まさか、
曹昂は食卓に上がっている料理を見た。
それが原因でこのような事になるとは、想像もしなかった。
「ぷりんはからめるがあってこそ美味しいのだっ」
夏候惇は力強く断言すると、
「惇。それは偏見というものだ。このぷりんはぷりん単体のままで食べるのが美味しいに決まっているっ」
曹操は違うとばかりに叫んだ。
「いや、からめるがある方が美味い」
「そうだ。この苦みがあるから、ぷりんの甘さが強調されるんだ」
曹洪と曹仁がカラメルが掛かっているプリンの方が美味しいと言うと、
「何を言うか。このからめるの苦みがぷりんの甘みの邪魔をしているのだ。ぷりんは何も掛けないで食べた方が美味しいに決まっている」
「うん。ぷりんだけの方が美味しいと僕は思うな」
夏侯淵と曹純がプリンだけの方が美味しいと言い出した。
そして、良い大人六人が食卓を挟んでプリンがどちらが美味しいか激論を交わした。
一年の最後の食事をという事で、曹昂が菓子としてプリンを出したのだが。
思ったよりも多くの卵を入手したが、砂糖は左程手に入らなかった。
仕方がないので、カラメルありと無しのプリンの両方を作った。
そして、それを食卓に出したのだが、曹操と夏候惇が二つとも食べ終えて。
「やはり、からめるありのぷりんが美味いな」
「からめる無しの方が一番美味いな」
とほぼ同時に味の感想を言ったのだ。
お互いにそれを聞いて、信じられないという顔をした後に自分が言った方が正しいとばかりに意見をぶつけた。
二人の話し合いが周りにも飛び火した。
結果。カラメルが掛かったプリンが好きが夏候惇。曹洪。曹仁。プリン単体が好きが曹操。夏侯淵。曹純という綺麗に三対三に別れた。
そして、六人はプリンについて口論しだした。
「この舌で押し潰せる柔らかさに卵本来の味。それを邪魔しない甘味。ただ、それだけで十分。からめるなど不要!」
「いや、この柔らかさと卵本来の味と甘みだけでは食べて行く内に飽きが来る。そこをこのからめるの苦みが飽きさせないっ」
「しかし、この苦みは邪魔だろう」
「何を言うっ。この苦みがあるからこそ、甘みを更に感じる事が出来るんだっ」
「でも、ぷりん単体で味わうだけで十分に美味しいのだから、苦みなんか無くても良いと思います」
「ぷりんだけではなくからめると一緒に食べるからこそ、更に美味しくなるんだよっ」
六人は思い思いに自分の意見を言い合う。
普段は大人しい曹純も珍しく自分の意見をハッキリと言う。
恐らく、先程の食事で酒も出ていたので、それで酔っているのだろうと推測する曹昂。
その証拠に曹純の顏がほんのりと赤い。
こういう場合、丁薔か卞蓮のどちらかが宥めるのだが。
「これは美味しいわね」
「からめる無しも有りも十分に美味しいわ」
二人は我関せずとばかりに食事をしていた。
二人が口を出さないので貂蝉達は何も言えず、黙々と食事をしていた。
(…………沈黙は金。良い言葉だ)
少し考えて、何も言わない方が良いだろうと思い曹昂は食事を続けた。
余談だが、年夜飯で行われたプリン論争は後になっても尾を引き、時折思い出したかのように論争が行われた。
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