仲人は用意してないけど、贈物は持って来た

(こ、この子が。袁術の娘さん? もっと、こう目付きが悪くて、我儘そうな雰囲気を出していると思ったけど、全然違うな)


 曹昂は袁玉を見て、自分の想像していた人物像と百八十度違ったので驚いていた。


「オホン。曹昂よ。私の娘を見て、何か言う事は無いのか?」


 娘を見せても何の反応を見せない曹昂を見て、袁術は咳払いしながら目を細める。


 下手な事を言えば、どうなるか分かっているだろうなと言っている様であった。


「……あ、ああ、失礼しました。突然、目の前に天女の様な女性が現れたので、思わず見惚れて、言葉を失ってしまいました」


「そうかそうか、ははははは。その気持ち、良く分かるぞ」


 曹昂が袁玉を褒めるので、袁術は嬉しそうに笑った。


「そんな、私が天女だなんて、褒め過ぎです……」


 褒められた袁玉は、顔を赤らめた。


 そんな顔を見られたくないのか、袖で顔を隠した。


(流石は名門袁家のご息女だ。凄い教育が行き届いている)


 袖で顔を隠す仕草一つで、そう感じた曹昂。後は性格が良い事を祈ろうと思った。


(三国志演義の方を主に読んでいたからな。この袁術の娘の事を知らないんだよな。せめて、嫉妬深い性格では無いと良いな)


 そう思いながら曹昂は袁玉を見るのを止め、袁術の方に顔を向ける。


「仲人を連れて来ませんでしたが、代わりに贈物を用意しました」


「ほぅ、そうか。それはありがたい」


「後程、贈物の目録を見せますのでご確認を」


「それはありがたい」


 袁術は顔を緩ませて、茶を飲み終えると席を立った。


「済まぬが。これから用がある。後は二人で話すが良い」


 と言って茶器を使用人に片付けさせて、袁術は部屋から出て行った。


 曹昂は声を掛けようとしたが、あまりに早く部屋を出たので声を出す暇もなかった。


 部屋を出て行く袁術を見送ってる間に、使用人が袁玉の椅子を用意して座らせて茶器を置いた。


 更に先程は無かった茶請け用に切り分けられた梨が盛られた皿が置かれていた。


(ああ~、これは父親の心遣いという所か)


 夫婦になるのだから少しでも親睦を深めようとしたのだと理解できた。


 別段、不仲になるつもりはなかったので、曹昂はどういう人物なのか知るのに丁度良いと思い話し掛けた。


「麗姫さんは幾つになりますか?」


「今年で十五になります」


「僕と同い年ですか」


「ええ、そうなります」


「そうですか。ご趣味は?」


「琴や裁縫や水墨画等を少々」


「水墨画ですか。どの様な物を描くのですか?」


「主に花ですね」


 前世で見たドラマでやっていた見合いみたいな話し方だなと、思いながら曹昂は話しかける。


「…………あの」


「何か?」


「別に、名前で呼んでも構いませんよ」


「ああ、これは失礼しました。今日初めて会ったので失礼が無いようにしようと思っていたので」


「私達は夫婦になるのですから、特に問題は無いと思いますよ。あっ、別に曹昂様がお好きな様に呼んでも構いませんので」


 思ったよりも奥ゆかしいなと思えた。


(自己主張が強い袁術の娘とは思えないな・・・・・・)


 曹昂は話しているとつくづくそう思うのであった。


「……ちょっと庭に出ませんか?」


「分かりました」


 曹昂が誘うと、袁玉も賛成したので二人は庭に出た。




 庭に出た曹昂達。


 二人の後ろには袁玉の侍女が控えているので、厳密に言えば二人きりではないが、それでも二人は楽しく会話をしていた。


 そんな曹昂達を少し離れた所で見ている者達が居た。


「あれが袁術の娘か?」


「着ている服と身に着けている装飾品を見た所なので、多分」


「……綺麗な人ですね~」


 其処に居たのは董白と貂蝉と練師の三人であった。


 三人は別室に通されたが、曹昂の事が気になって少し捜しに出たのだ。


 無論、誤って変な所に入らない様に、三人の後ろには袁術軍の兵士が見張りを兼ねて付いていた。


 三人を見張っている兵は、どうして物陰に隠れているのだろう?と思いながら三人を見ていた。


「なぁ、あんた。あの男の隣に居るのが公路殿のご息女なのか?」


 董白は確認の為に訊ねた。


 見張りの兵も董白達が見ている方に目を向けた。


「ああ、その通りだ。我が殿の公路様の二番目の娘の袁麗姫様だ」


「それが名前ですか?」


「いや、麗姫って字らしいぜ。俺の様な身分じゃあ名前まで知らねえや。それで皆『姫様』とか『麗姫様』って呼ぶぜ」


「どんな人なんですか?」


「そりゃあ、まぁ、あれだ。ここだけの話にしてくれないか?」


 兵士が声を潜めて言うので、董白達は何かあるのだと察して頷いた。


 三人が頷いたのを見て兵士は一度周りを見て、誰も居ない事を確認してから話し出した。


「うちの殿の娘とは思えない位に出来た御方でな。奥ゆかしくて誠実で品行方正な性格でよ。魯陽じゃあ知らぬ人は居ない程に人気がある御方だぜ」


「へぇ、そうなのか」


「ここだけの話。本当に殿の娘なのかって、言われているからな」


 董白と練師は袁術に会った事が無いので、イマイチ人物像が分からなかったが、貂蝉は何度か袁術に会った事があるので、どんな人物か分かっていた。


 良くも悪くも我が強い性格であった。


 話を聞いた限りでは、袁術の娘は人格に優れている印象を抱かせた。


「悪い人ではないんですね?」


「ああ、魯陽で姫様を悪く言う奴は居ねえよ」


「随分と人気があるんだな」


「そりゃあ、綺麗だし性格良いとくれば悪く言う奴はいねえよ。その代わり殿は陰でボロクソ言われてるけどな」


 最後の方だけ小さく呟いた。


 それだけ、袁術に人望が無いのだとハッキリと分かった。


 その後、三人は曹昂達が談笑するのを物陰から見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る