南部へと向かう

 数日後。




 曹昂の連絡により『三毒』の者達が来て、店に関する事を伝えて商品の作り方などを教え終えると、曹昂達は襄陽を発った。


 話し合った結果。江夏郡から長沙、桂陽、零陵、武陵を通って益州に入るという行程となった。


 別に江夏を通る必要はないのだが、どうせだから全ての郡を回ろうという話になったので行く事にしたのだ。


 曹昂は特に問題ないから、良いだろうと思いその行程で行く事に決めた。


 その行程に従い、最初は江夏へ向かう事にした曹昂達。


 長江を渡れば良いだけなので、問題はなかった。


(この時期だと、孫堅も攻め込んでこないし大丈夫だろう)


 そう思い曹昂はのんびりと江夏を見て回ろうと決めた。


(……父上。今頃、何をしているのかな?)


 曹昂は河内郡で、父曹操は何をしてるのかふと思った。




 その頃。曹操はと言うと。


 河内郡の野王県に居た。


 其処で郡内の政を行っていた。


 反董卓連合軍の発起人にして、董卓を追撃し後一歩というところまで追い詰めたという話が、巷に広がったお蔭で他州から多くの人がやって来た。


 ちなみに、董卓を追撃し後一歩というところまで、追い詰めたという話が広まったのは『三毒』の者達を使って広めたのだ。


 そのお陰で、曹操の威名を慕って人が集まるので、曹操からすると董卓を討つ事は出来なかったが、それでも多くの者が自分の下に来るので満更でもなかった。


 更に、董卓についての情報も調べさせた。


 近々、太師の地位に就くのではという話と共に、どうも各地の有力者を自分の勢力に組み込もうと、調略を掛けている事が分かった。


 その報告を聞いた曹操は、どうして自分が河内郡の太守になれたのか分かった。


 上奏しても認められないだろうと思っていたが、認められたので内心拍子抜けしていた。


 だが、太守に任じられた理由が、調略だと分かり納得した。


 尤も曹操からすれば、そんな事をしなくても、勝手に河内郡の太守と呼称するつもりであったので、儲けものだなと思うだけであった。


 そんな折に、ある者が曹操の下を訪ねてきた。


 その人物の名を聞いて、流石の曹操も今までの者達の様に、他の者に対応させる事などしないで自分で対応した。


 曹操が部屋に入ると、その者は曹操に向かって一礼した。


「孟徳殿。お初にお目にかかります」


「面を上げられよ。李乾殿。貴殿に其処までしてもらう程、私は偉くも何ともない」


 曹操は、頭を下げる李乾の手を取って立ち上がらせる。


「ささ、どうぞ。席に」


「かたじけない。では」


 曹操が座る様に促したので、李乾は頭を下げて席に座った。


 李乾が座るのを見て曹操も上座に座った。


 二人が席に着くと侍女が盃に酒を注いだ。


「では、一献」


「頂戴する」


 曹操と李乾は掲げた盃を傾けて半透明な酒を喉へと流し込む。


 李乾はこの酒を初めて飲むので、透明な割に喉がカアッと焼ける様な喉越しに驚きつつもその味を楽しんでいた。


「まさか、貴殿が、こうして自ら訪ねて来るとは思いもしなかったぞ」


「ははは、正直な話を言いますと、貴殿と張邈殿と劉岱殿のどなたに付こうか考えたのですが。やはり、反董卓連合軍で名を上げた曹操殿に付く事にしたのです」


 李乾は隠す事はないのか胸襟を開いた。


 曹操はそれを訊いて苦笑した。


「いやいや、買い被りでしょう。私など、今名前を挙げた者達の勢力に比べたら脆弱ですぞ」


「孟徳殿。それは御自分を過小評価しすぎですぞ」


 李乾は一頻り笑って、まだ酒が入っている盃を膳に置いた。


「それに劉岱殿はその、何と言いますか。橋瑁殿と揉めて殺す様な方ですからな。聞いたところでは、兵糧で揉めた程度で殺したとか。そんな者の部下になればどんな理由で殺されるか分かりませんからな」


 反董卓連合軍で起こった事を聞いて、曹操は何とも言えなかった。


 自分もその時は連合軍と距離を取っていたので後になって知ったが、聞いた時も馬鹿らしいと思った。


 そして、調べると馬鹿馬鹿しい事で揉めて、殺害したのだと分かり余計に馬鹿馬鹿しいと思っていた。


「残りの張邈殿は長安に逃げた董卓の追撃を仕掛けて、失敗したという話を聞きましたからな。その点、孟徳殿は追撃に成功した時点で、素晴らしいと言えるでしょう」


 李乾は張邈のした事を不甲斐ないと詰りながら、曹操がした事を称賛した。


 曹操は内心で苦笑しながらその称賛を聞きつつ、あれは曹昂の策に従っただけなのだがなと思った。


「まぁ、戦は時の運と言いますからな。それで李乾殿」


「はっ」


「貴殿が我が配下になるという事は貴殿の麾下の兵も我が配下になるという事でよろしいかな?」


「無論。兗州は済陰郡乗氏県より、私に従う一族の者、食客、私兵合わせて総勢八千。貴殿の指揮下に入ります」


「うむ。よろしく頼むぞ」


「お任せを、孟徳殿。いえ、我が君」


 李乾が頭を下げて曹操に頭を下げる。この瞬間李乾と率いて来た八千の兵が曹操軍に加わった。


 曹操は笑みを浮かべて李乾を配下に加えた。




 李乾。


 兗州の有力豪族の李家の当主。


 その勢力は兗州刺史である劉岱も、おいそれとは従わせる事が出来ない程の有力者。


 そして、後に曹操の配下で名を馳せる李典を甥に持つ男であった。


 余談だが、李典との関係は従父だが、李典は早くに両親を亡くしたので李乾に引き取られ実子同然に可愛がられていた。

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