背に腹はかえられない
歩練師を預かった曹昂達は、陣形を整え改めて、目的地の六安県へと向かった。
数日後。
道中は何の支障も無く、曹昂達は曹操達と合流した。
合流するなり、挨拶もそこそこにして、軍議を開いた。
そして道中にあった事を話すと、曹操は苦い顔をした。
「むっ、まだ残っていたようだな」
「何か心当たりがあるのか? 孟徳」
曹操の反応を見て、曹洪が気になり訊ねて来た。
「……実はだな」
少し言い淀んだ後、曹操は曹昂達を待っている間に起きた事を話した。
「つまり、僕達が殺した野盗は、脱走した兵かも知れないと?」
「話を聞いた限りだと、そう思うぞ」
曹操がそう認めるので、曹昂達は何とも言えない顔をした。
「……まぁ、豫州の伯父上に用意して貰おうと、考えていた所に豫州であんな事があったからな」
「しかし、従兄さん。どうやって、六千の兵も集めたのですか?」
「そんなの、有力者の弱みを調べて、州牧に知られたくなければ、兵を募るのに手を貸せと言ったのだ」
曹操が、何の事も無いと言いたげにそう言った。
それを訊いた曹昂達は、声をあげて納得していた。
「成程。陳温殿に送られた証拠は、もう使い道が無くなったから送ったのか」
「何時までも持っていると、有力者が疑心暗鬼になって、刺客とか送って来る可能性もありましたからね」
陳温の下に届いた証拠が、どうして送られて来たのか分かり曹昂達は安堵した。
その話を聞くまで、何かしらに使える物を送ったのか分からなかったので、胸のつっかえが取れた気分であった。
「…………従兄さんは臨機応変に行動したんですね……」
曹昂達が、曹操の行動を疑っていた時に曹純だけ擁護していたが、実際はあくどい事をしていると知り、無難な事を言うのであった。
「そんな事よりも、お前達はどれ程の兵を集めたのだ?」
「ええっと、呉郡では三千。丹陽郡二千ですから。五千になります」
「こっちは死んだ兵と、脱走した兵を捕まえるか殺すかしたから、二千だな」
「合計で七千か。まだ豫章、会稽、廬江で募兵していないとは言え、まずまずの数だな」
「孟徳。これからどうする。兵を募るのを続けるか? それとも河内郡に戻るか?」
夏候惇がそう訊ねると、曹操が少し考えた。
「……皆はどう思う?」
曹操がそう訊ねると、曹洪は河内郡に帰還すべきと言い、夏候惇は兵を募るのを続けるべきと言う。
曹純、曹昂達は曹操の判断に従うと述べた。
皆の意見を聞いた曹操は、少し考えると重々しく口を開いた。
「……河内郡に帰還する」
曹操が帰還する事にした。
「父上。帰還するのは良いのですが、どのように帰るのですか?」
「う~ん。そうよな」
頭が痛いという顔をする曹操。
揚州に居る曹操達が、河内郡に帰還するには二通りの道があった。
一つは、揚州に来た時の様に、徐州を経由して兗州を通り河内郡に帰還する道。
もう一つは、荊州を通り其処から河内郡に帰還する道。
徐州は陶謙が支配しており、兗州は劉岱が支配していた。
曹操は、その二人とはあまり交流が無いが、道を通るぐらいは恐らくは出来るだろうと予想した。
荊州の劉表に関しては、反董卓連合軍の時に初めて、顔を見たので交流など全く無い。
南陽郡には親友の袁術が居る。その袁術に仲介してもらい通るという方法があった。
「……此処は来た時同様に、徐州を経由して河内郡に帰るか」
と曹操が口に出してその道を進もうと決めようとしたら。
「失礼しますっ」
軍議が行われている天幕の中に兵が入り、曹操の前に跪いた。
「何だ。今は軍議の最中であるぞ」
「ご無礼はお許しを。各地に放った間者から、緊急の報告が来ましたので報告に参りましたっ」
「緊急の報告? どんな報告だ?」
「はっ。青州にて黄巾党が活動を始め冀州、徐州、兗州にて暴れ回っているとの事!」
「なに? 黄巾党が、また出て来たのか?」
「はっ。指導者は分かりませんが、その規模は百万にも及ぶとの事ですっ」
「百万‼」
「張角が起こした時は、三十数万であったというにっ」
「僅か数年で、百万にもなるとは」
黄巾党の規模を聞いて、驚愕する夏候惇達。
だが、曹昂は冷静であった。
「そう心配する事はありませんよ。青州はさほど大きくない州です。どう考えても、百万の兵を養う程の食料など有りませんよ。その百万というのは、兵とその家族を全て合わせて、号しているかも知れませんよ」
前世の知識で、青州黄巾党は非戦闘員が多く含まれていた事を知っているので、百万と号しても驚く事ではなかったからだ。
曹昂の分析を聞いて、曹操は満足げに髭を撫でながら笑う。
「流石は我が息子だ。その分析力は素晴らしいぞ」
「ありがとうございます。ですが、父上。青州で黄巾党が暴れているという事は徐州と兗州の州境は封鎖されている可能性があります」
「むむっ、確かにそうだな。だとすれば、残るは荊州を通り、河内郡に帰るしかないか」
状況から、そうするしかないと判断し唸る曹操。
「急ぎ袁術に使者を送れ。劉表に荊州を通る許可をくれる様に仲介してくれと」
「はっ。直ちに」
曹操がそう命じると、兵は一礼して使者の準備に取り掛かった。
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