意外に出来るもんだな
勅命を聞き終えると、祝勝と別れの宴をした翌日。
豫洲の事は王允に任せて、皇甫嵩は兗州東郡へ向かい、朱儁は荊州南陽郡へと向かった。
孫堅は朱儁に付いていくようだが、曹操は王允の手伝いをする事となった。
と言うのは建前で皇甫嵩が兗州東郡にいる
孫堅は朱儁に呼ばれて部下になったので孫堅が手柄を立てるという事は、朱儁の手柄にもなる。
曹操はあくまでも五千騎の官軍の将であって、皇甫嵩の部下ではない。
長社の戦いでも、陽翟や西華の戦いでも曹操は活躍したが、自分はあまり活躍していなかった。
このままでは自分の地位が危ういと思い、王允の手伝いを命じたのだ。
曹操は皇甫嵩の腹が見えたのか分からないが、その命令に従い王允の手伝いをした。
と言ってもした事と言えば、落ち武者と化した黄巾党の残党の捕縛又は壊滅。襲撃を受けた県の慰撫をするぐらいであった。
州の政治に関しては豫洲刺史の王允がする事なので、曹操はそれらに関しては触れなかった。
残党狩りも一段落した曹操は王允の下に報告に向かった。
王允は曹操の故郷である譙県にて州治を行っていた。
何故、譙県で行っているのかと言うと、この県が他の郡、県に比べると被害が一番少ないからだ。
曹操が県城の前に来ると直ぐに城門が開いた。
そして、城門から夏候惇が出て来た。
「帰って来たか。孟徳」
「夏候惇。出迎えに来てくれたのか」
「まぁ、今の所やる事が無いのでな。ところで、孟徳」
「何だ?」
「お前の息子、何かよく分からない物を作りだしたぞ」
「そうか」
曹操はそれだけ言って、何事も無いかのように馬を進ませた。
「おい。他に何か言う事は無いのか?」
「失敗しても成功しても報告に来るだろう。まぁ、怪我をしたら私の代わりに妻が怒るだろうから大丈夫だ」
と言って曹昂の事は丁薔に一任する事にした曹操。
「お前がそう言うのであれば何も言わんが……」
「それで、今度は何を作っているんだ?」
「えっと、確か……とらせんしゃ?とか言っていたな」
「何だ。それは?」
夏候惇の話を聞いた曹操は意味が分からず首を傾げた。
その頃、曹昂はと言うと。
「う~ん。こんな感じかな……?」
武器を作る製作所で曹昂は出来た物を見てこれで良いかなと思った。
今後、色々な事に使えると思い演義に出て来た虎戦車を作ろうと考えていた。
諸葛亮の妻、黄夫人が発明したと言われる兵器だが、実際はフィクションだと言われている。
だが、実際作ってみると意外に簡単に出来た。
戦車の部分は台車の上に虎の形をしたハリボテを置けば良いだけであった。
これは塞門刀車の一種で虎車と言われる物で、その中に人が入る様にして口から火を吹かせる様にすれば、虎戦車(仮)の出来上がりであった。
火を吹かせる方法は猛火油櫃という火炎放射器を取り付けた。
箱にナフサと言われる原油を入れて、シリンダーが付いているピストンを動かして噴出させ、放出口の先端に火を付ければ火炎を噴出するという兵器だ。
本当は七百年後ぐらいの北宋の時代に登場する兵器だが、曹昂は構わず作った。
ちなみに、原油は燃える水と言われており、至る所とは言わないが、探したら直ぐに見つかった。
フィクションと言われた物を作ることが出来たのは良いのだが、曹昂は悩んでいた。
(これはこれで虎戦車と言っても良いだろうけど、何かもっと改良したいな)
前世の知識を持っている曹昂からしたら、もっと改良できる気がしてならなかった。
しかし、どう改良したら良いのか分からない。なので曹昂は悩んでいた。
「御曹司。これは何ですか?」
製作所の総管理をしている人で名前を
馮という者は史渙が侠客だった時の手下で信頼が厚い人物であった。
なので、曹昂はこの製作所の管理を任せていた。
「……虎戦車?」
「何で疑問形なんですか?」
「いや、もう少し改良できないかなと思って」
「何か問題でも?」
「う~ん。とりあえず、動かして見るか」
曹昂は動かす様に指示した。
押し車に火炎放射器を付けた様な物なので、特に問題は無かった。
戦車の後ろには取っ手があるのでそれを押せば進む。
車輪が付いているので問題無く進んで行く。
「おおっ、凄いですな」
馮は簡単に進んでいるので驚いていた。
「動作は問題無し。じゃあ、次は火を噴いて貰おうか」
「火を噴く? 何を言って」
馮が言葉を続けようとしたら、虎の口から火が噴かれた。
「なぁ、なんとっ⁉」
馮はそれしか言えなかった。作り物とは言え虎の口から火を噴かれるのを見て驚いてしまったようだ。
「火を噴く動作も問題無しか・・・・・・何かもっと改良できないかな」
曹昂が虎の口から火が噴かれるのを見て火炎放射器も問題無く作動している事に問題無しと判断したが、もう少し手を加えたいなとも思った。
「御曹司‼ あれはどうやって火を噴いているのですか⁉」
「虎の中に火を噴く装置が付いているんだ」
この火を付けるのもちょっとした機構がある。
それは虎の口に前歯の一部を火打石にして動かす用にしたのだ。
左程複雑ではないのだが、歯を動かす事と猛火油櫃を同時に作動させる事は流石に無理なので、この虎戦車の中には火打石製の前歯を動かす者と猛火油櫃を作動させる者の計二人が入っている。
動かす為に押す者が数人必要であった。
「十分、兵器として使えると思いますが?」
「そうなんだけど、僕も何が不満なのか分からない」
この時代の技術ではここら辺が限界ではと思うのだが、まだ何か出来そうな気がしてならなかった曹昂。
しかし、それが何なのか曹昂には分からなかった。
「御曹司が何を悩んでいるか知りませんが、此処まで来たらもう自由に動かす事ぐらいですよ。はっははは」
そんな事は不可能だろうと思って笑う馮。
だが、馮の言葉を聞いて曹昂の頭の中で何かが閃いた。
(自由に動かす。つまりは、燃料を使うという事になるな。だけど、この時代で作れる内燃機関と言えば、蒸気機関ぐらいか。流石に作るのに時間が掛かるな。今は燃料を使わないで動かす仕組みが必要だ。燃料以外の動力、それはつまり人力……そうだ‼)
曹昂の頭の中にある物が思い浮かんだ。
「そうだ。自転車だ‼」
「はい? じてん?」
「押し車じゃなくて自転車を応用すれば良いんだ‼ ああ、今まで全然思いつかなかったっ」
曹昂は自分の頭を叩いた。
「そうと決まれば、直ぐに図案を書いて製作しようっ」
曹昂はそう言って、新しい設計図を書きに行った。
その背を見送る馮は何も言えなかった。
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