『ゲレヒティヒカイト刑務所』

第3話「罪を認めたか?」



「ザ―――――――」



寒いっ!!


「お前……詐欺か?」


「……命だけを……私…催眠術を…この人……何も知ら……」


「もういい。こいつ連れ……」


「ラジャー!」



頭痛!誰かが、何か言っているよう………



「お~!起きたか、キラーさ~ま?」


聞き覚えのある声が耳元でささやき、一瞬で目が覚めた。


「キ、キラーなんかじゃないんだ!」


体が動けば動くほど、錆びた鎖で背中と手足がしっかり縛られ、出血している傷口がひどくなってきた。


「またか?ロビゴ厚生労働大臣の病気を治療した担当者は、てめえじゃねえのか?」


「治療以外は何もしてない!それに、くっ―――!」


急にめまいがして吐き気を感じる。吐き気の原因は、頭と腹を殴られたことによるものだろう。早く膝を深く曲げ、鼻からゆっくりと息を吸い込み、口からゆっくり息を吐き出した。


「ふん?どうした?」


「―――それに、あなたたちは何日も拷問していたのに、証拠も出せないのか?しかも、この逮捕は不法だ!」


先週の火曜日に病院から帰宅した私は、この連中がいきなりどこからか飛び出し、麻酔薬で意識を失わせて連れ去ってしまった。


「生意気な口をきくな!学のあるやつは厄介だな!でも、鼓膜が破れるまでよく聞けぇ!俺の言葉こそが、絶対のルール!てめえが言えるのは、『罪を認めます』ってだけだ」


「な、なにを?せめて、証拠を出して……!」


「ぐわっ―!」


腹に強烈なパンチを受けた。


「証拠なんて、そんなものがねえよ!上司の命令に従っただけだ。てめえが無罪かどうか俺には関係ない」


「あなたは公務員じゃないか?そんなこと言っていいのか?」


「どうせ、てめえ以外、誰も聞こえないからな!」


目の前に立っている看守は無関心に微笑んだ。


「―――そ、それでも、どれだけ拷問されても、絶対に自白はしない!あの大臣を殺す能力がないから」


「ふーむ?本当に耐えられるのか、俺の拷問?ふふう――てめえ、弱そうに見えて、人どころか、ネズミすら殺せないと思うけど」


看守が私の周りを歩き回り、私の正面にある椅子に座った。


「まぁ、それはそれとして、てめえが自白するまで、どんな方法を使っても聞き出すのが、俺の仕事」


「自白、だと?」


囚人を殴る警棒を拭いている看守を、穴が開くほど見つめる。最初からここを出られる可能性はゼロなのか?一体どこから間違っていたのか?何でこのクソな状況に耐えなければならないのか?


ネガティブな気持ちに浸っていたその時、突然強烈な膝蹴りが頭部に受けいってしまった。床の冷たさと激しい痛みが全身を駆け巡る。鼻腔から熱い液体が溢れ出し、息苦しさを感じる。


「もう一度訊く。自分の罪を認めたか?」


「自白はしないって。くはあっ―――!」


ここでは「自白しない」と叫ぶのは、愚の骨頂だった。叫ぶたびに、腹部に強烈な蹴りを食らわせられた。たかが蹴りなのに、ハンマーで殴られたような衝撃だ。クソッ!この痛みは、本当に堪らない!しかも、そのせいで昨日から飲んだ水の全てを吐き出してしまった。


今の状況は最悪だが、今朝から何も食べていなかったのは、せめてもの救いかもしれない。そうでなければ、血液と消化途中の食べ物が混ざり合った、想像を絶するほど気持ち悪いものが生まれていたはずだ。そして、この狂った看守は、囚人たちが吐き出したものをまた食べさせる可能性も………いや、もう考えるな!


最悪のシナリオを頭から振り払い、目を開けた。しかし、私の目に飛び込んできたのは、絶望的な現実だった。看守の足元にある、鉄製と思われる重厚な靴だ。今更ながら気付いたことだが、その靴は歩くたびに床との摩擦でギシギシと音を立てている。このままでは本当に死ぬかもしれない。せめて、今日はもうちょっと耐えて、この状況から抜け出す別の方法を考えよう………


「グホッ―!」


重くて硬い靴は容赦なく私の体を踏みつけ続けた。吐き気を押さえて痛みに耐えること以外、他のことを考える暇がない。どこかの骨が折れたようなボキッと聞こえた瞬間、本当に絶望しかないと感じてしまった。


「おかしい~な?素直に罪を認めてサインすれば全ての痛みは消え去る!何でそこまで頑固なのか?」


「狂ったのか、お前?罪を認めたら、死刑判決も受け入れるってことじゃないか?」


「ふふ、確かに!でも、てめえは可哀想だから、少し教えてやる!今は罪を認めたとしても、後で私選弁護人に依頼して裁判官に事件の再捜査をお願いすることもできる。つまり、


………何、だと?この看守は、一体何を言っている?!


自分の耳を疑いたくなる。あいつは本当に、空気が抜けている救命浮環を投げ下ろせば、誰でもすぐに捕まると思うのか?判断力が低下するまで殴られたとしても、この看守の言葉は全部嘘だと分かる。本当に無罪判決が下されるのなら、なぜ私は自白するまで半殺しにされなければならなかったのか?


自白調書の内容と最終判決が矛盾するのは、あいつらにとって何かデメリットがないのか?裁判官は囚人のサインがある自白調書を確認した後、簡単に再捜査の要求を受け入れるはずがない。しかも、刑務官と裁判官は「グル」ではないのか?裁判官が『その自白は看守が強要されたものだ』という囚人の説明を受け入れたら、このクソ看守は今のように楽に暮らせなくなるだろう!!!


本当に卑劣な者たち!捜査能力がないから、罪のない人々を誘拐し、半殺しにし、目の前で待っている「死」から逃れるために、自白調書にサインするよう誘惑するという手段を徹底的に使うのか?どれだけの不幸な人たちがこういう希望に満ちた嘘を信じてきたのか分からないが、彼らが必死に守ろうとしてきた〈今日の命〉は、あと数日しか持たないだろう。


つまり、彼らは看守の言葉を信じ、自分が犯していない罪を認めて自白調書にサインした時点から、死刑判決も彼らの頭の上にぶら下がっていたということだ。看守どもめ!私、絶対に自白はしない!!!


「まだ信じてないみたいだね?――うむ、仕方がない。頑固なタイプなら、骨が柔らかくなるまで殴ってやる!」


その後、文字通りに何度も意識がなくなるほど殴られている。頭がズキズキと痛み、目の前が真っ暗になった。吐き気がするほどの悪夢だ。どうか、これが現実でありませんように………


しかし、その悪夢から覚めた瞬間、看守の狂った笑い声が響く部屋で、血だらけの床に自分がまだもがき苦しんでいるのは、現実だと分かった。あの自白調書にサインしないと決めたのに、今は肉体的にも、精神的にも、どれだけ耐えられるか分からなくなってしまった。


全てを諦めかけていたところ、狂った看守の足が突然止まった。


「あ、そうだった!あの女、内臓を潰さないようにって言ってたよな?」


この狂った看守、何か妙なことを言ったような気がする。だが、それ以上考える気力も残っていない。目の前が真っ暗になり、意識を失った。


………


どれほど時間が経ったのか分からないが、二人の看守が米俵のように監房に放り込まれた時まで、ようやく意識が戻った。


眉をひそめた看守はポケットから石のように硬いパンを取り出し、監房に投げ込んだ。


「晩飯だぞ、頑固なワンちゃん!」


「夕食の時間はとっくに過ぎている。でも、モルス様がお前を散々傷つけたので、少しだけ慈悲を与えようというのだ。ケケケ、そうだぞ!そのパン、早く食べないと腐っちまうぞ!」


もう一人の看守が、まるで親切な人かのように声をかけた。


「おいおい、冗談だろ?あれ、半年も賞味期限が切れてるだろ?くっあはは―――」


二人はそんな言葉を吐き捨てて立ち去った。


まだ容疑者なのに死刑確定の犯罪者みたいな扱い?!どう考えても不合理だ!何でこんな状況に?


「ぐぅぐぅ………!」


はあ、たとえ現実を否定しようとしても、このクソ現実を否定し続けるだけの体力を維持するために、食べなければならないというわけだ。床に横たわるパンのところへ這って行き、カビがついていたパンを口に入れてから、一時的に私の住居になる古いみすぼらしい監房を見回す。


「ひどい!」


左隅にあるおそらくトイレであろう小さなバケツをじっと見てから、恐る恐る近づいていく。このバケツの中に、とある「先輩」の廃棄物がまだ残っている。長い間処理されずに溜まった液体の形状だけでなく、その気持ち悪い臭いも私の五感に直接襲い掛かってきた。


「おえっ―――!」


食べたばかりの「パン」と呼べる代物ではないモノが、胃液と共に喉に逆流してきた。これは、今日唯一の「食事」だと分かっていたので、吐き気を必死に抑えながら、口を覆い、もう片方の手で胸を叩いた。喉から込み上げてくるものを飲み込もうとする。


水、水はどこだ?ベッドの足元にある水の入ったボトルを見つけ、すぐに飲み込んだ。しかし、飲む直前に水が茶色く濁っていることに気づいた。見ないふりをして目を閉じ、左手で鼻を覆い、もう片方の手で口をしっかりと覆って何も感じないようにした。


二分ほど気持ち悪い感覚に耐えた後、夕食の半分は胃の中で安全に守られていたが、残りの半分はすでに床に散らばっていた。それは、やがて様々な細菌を発生させる環境になるだろう。そして、その生態系から生まれた気持ち悪い臭いが、私の嗅覚を苦しめるに違いない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る