ウォルフ・タグ
Queen Gwen
社長、考古学、そしてウォルフ・タグ
第1話「手術室のランプが赤から青に変わる時」
「社長、しゃ―ちょ―」
「あ、ごめん!眠ってしまった!ノックスの状態はどうなの?」
「まだ手術中です。いや、それより、先に帰って休んだほうがよろしいのでは?社長も先日からあまり寝られなかったですし……」
「大丈夫、このくらいなら平気よ」
「でも……」
「だから、大丈夫だって」
「な、なら、少しでもこれを食べてください」
カスラナは、四分の一のスポンジケーキを私に差し出した。
「ごめん、スポンジケーキはちょっと……」
「レ一ズン入ってないよ。あたしが買った物なので、安心して食べてきな!」
真正面の待合ベンチに座っているプルヴィアは、私を見て優しい笑顔で言った。
「プルヴィアが買ってくれたの?二人ともありがとうね!じゃあ、いただきます」
うーん、美味しい!パサパサになったケーキだとしても、味は申し分ない!空っぽだった胃が満たされていくと、頭もだんだんクリアになってきて、昨日の午後に起こったことを思い出した。
暑い。口が渇く。ライチェ砂漠のギラギラと焼きつく太陽の下、一番たくましい男性ですら耐えられないだろう。まして、自分のような弱い女性にはなおさらだ。額に浮かんだ汗を手の甲で拭きながら、理不尽な暑さを呪っていた。その時、大きな爆発音が聞こえ、いつの間にか私は砂にうつ伏せになっていた。ほとんどの同僚たちは、あの振動を感じたとたんに慌てず、素早く立ち上がって爆発音の出た場所へ走って行った。まるで、この考古研究の道を歩む前に、誰もがこのような出来事が起こるのを心の準備をしていたようだった。
しかし、担架に乗せられていたノックスの血まみれの体を見た瞬間、心臓が止まったようだった。たった十五分前に、彼の所へ水をくれとせがみ、彼の新しいキノコの頭をからかったばかりなのに。………なのに、今目の前にあるのは、見るも無残なノックスの姿。胸が締め付けられるような痛みを感じ、もし彼が目を覚まさなかったら……ふと思うと、恐怖と絶望が全身を包み込んだ。
午前四時十三分。手術室のランプが赤から青に切り替わる。
プルヴィアは、医師が出てくるのを待ち構えていたかのように、素早く駆け寄った。
「先生、手術は成功しましたか?」
「はい!ご安心ください。みなさんの迅速な一次救命処置のおかげで、患者さんの命を救うことができました」
プルヴィアの口から思わず「良かった!」という声が漏れた。周囲からも歓声が上がり、みんなは喜びの涙を流しながら抱き合っていた。
私自身も、十二時間以上積み重なっていた不安や疲労が一気に吹き飛ぶように、ほっとした。手術室の扉が閉じてから、この瞬間まで、どれほど長く苦しい時間が流れたとしても、今は誰もが満面の微笑みを浮かべている。
「しかし、患者さんの左足を、切断しなければなりません」
医師の言葉に、頭が混乱した。まさか、ノックスの左足を切断するなんて信じられなかった。……いや、落ち着いて!今一番大事なことはノックスが生きていることだ。残りの問題は全て解決できる。深呼吸をして少し冷静を保ち、現実を受け止め、医師に尋ねた。
「義足の使用は可能ですか?」
「可能です。しかし、どちら様ですか?」
「あっ、失礼しました。私は患者の代理人です。今から一番高性能な義足を紹介していただけませんか」
「わかりました。では、どうぞこちらへ」
義足の注文手続きを終え、私はみんなと合流して回復室へ向かった。ぐっすり眠っているノックスの姿を見ると、彼の無事を確認した安堵感で胸がいっぱいになった。みんなはそれぞれの予定を調整し、四時間ごとに交替で彼に付き添うことにした。私の付き添う番は明日なので、研究所へ戻る前に、ノックスの顔を少し見守っていた。
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