現実で大嫌いだった幼なじみと別の世界で記憶を失くして再会したら、思ってなかった甘い関係になっていました。(仮)
かるねさん
プロローグ―大嫌いな幼なじみ
私がずっとそばにいる。瑠華のことは私が守るから。
……小さかった頃、親の代わりにそう言って甘やかしてくれた幼なじみのことが大好きだった。
あの時、いつも一人だったアタシに声を掛けてくれた。
……それだけでもアタシにはすごく特別なことだったのに、それからいつも一緒に遊んでくれたし、近くに住んでたから親が来るまで居させてもらったり、何をするにも一緒に居るのが当たり前になった。
迎えの遅い親を待っている時間も孤独じゃない。同い年だけど世話好きなお姉ちゃんが出来たみたいで毎日楽しかった、……あの頃は。
「瑠華、またあなた提出物出さなかったでしょ。真中先生が困っていたわ。今日中に出せるわよね?」
「……は?」
でもある時から、アタシの中で誰よりも親よりも大好きだった子が、一番嫌いな子に変わる。
「また出しゃばってきて、何?優等生さん。……なんでクラスの違うあんたにんなこと言われなきゃなんないの?」
……毎日一緒に居て楽しい?……楽しいわけあるかっ。
お姉ちゃんみたい?……違う違う、ただのお節介女。
「そんなことどうでもいいでしょう?それよりプリント、ちゃんとあるんでしょうね?瑠華」
怖い顔してアタシの机の前に立つ彼女は、今ではただの腐れ縁なだけのご近所さん。
幼なじみの笠松怜という女は、今やアタシ伊崎瑠華の天敵なのだ。
こいつを……いや、これを姉のように思ってたなんて。……昔のアタシの判断能力の無さが嫌になる。
……今となってはあんな黒歴史、何もかも忘れたい。
「…………」
ジト目を向けられ目を逸らすと「やっぱり……」とため息ついて怜がアタシの机の上に折り目のついてない新しいプリントを置いた。
「そうだと思って貰っておいたわ。先生に」
「!ぐっ……余計なこと……」
悪態をついたアタシに怜がドヤ顔を向けてくる。周りに居た友達には「るかママ最強」ってイジられるし。高校生になった今でも、はるか昔の"黒歴史だった頃のアタシ”だと思ってるこの幼なじみはアタシが嫌がろうとお構いなしに姉のように親のように接してくる。
「今日瑠華の家に行くわ。HR終わったら迎えに来るから大人しく待ってるのよ?」
「……は?勝手に決めんな。今日は美穂たちと遊ぶからムリ~」
プリントにはびっしり計算問題が書かれてて見るだけでうんざり。そのままプリント返そうとしたらその手を机の上に押さえつけられて、息の掛かる距離まで顔を近付けられて思わず仰け反った。
「ちょっ、近いっ」
「……遊びたいなら放課後までにこのプリント終わらせることね」
「放課後までに?無理」
「じゃあ遊ぶのは諦めるしかないわね。……瑠華が悪いのよ?ちゃんと出さないから」
「ぐっ……こいつ……」
涼しい顔してアタシを見下ろしてくる気に入らない幼なじみを舌打ちして見上げる。こっちはイラついてるのに、嬉しそうな顔が腹立つ。
そこらでいつものこと~とチラチラ見てる人たちにはわかんないだろーけど、毎回毎日のように小言言われてるアタシはもう我慢の限界だった。
小・中学校までなら我慢した。近くに住んでるし学校が同じなのも仕方ないことだから。……でも、でも!まさか高校まで同じだとは思わなかった。怜はアタシなんかよりずっと頭良いしみんながすべり止めで受けるような学校に入るとは誰も思わない。やっと解放される!と喜んでいたアタシは入学式の日に顔を合わせた瞬間、その場に崩れ落ちた。
「……あんたほんとアタシの何なの?いい加減にしてよ、さっさとどっか行って」
これ以上はアタシの我慢が抑えきれなくなりそうで、まだ目の前で仁王立ちしてる怜に出てってと指で指図すると、さっきまで顔色変えなかったくせに視線の圧が強くなる。そのまま無言でアタシを見下ろしてくるあたり、多少はカチンときたんだろう。
怜は人前じゃ良い子ぶってるけど、アタシに対しては感情むき出しになる。周りからは優等生で美人で~なんて言われてるけど、感情むき出しの怜はアタシより厄介な子供だ。
「……そうやって……すぐムキになって。子供の頃から変わらないわね」
「は?あんたがアタシの何を知ってんの?ほんとムカつくからこれ以上話したくない、早く出てって!」
「嫌よ。あなたが人の話を聞かないからでしょう?いつもそうだわ、都合が悪くなるとすぐ不機嫌になっ……」
「――いい加減にしろってば!!……アタシのこと分かったフリするなっ」
「っ!」
バンッと机を叩いて立ち上がる。
教室が一気に静まり返って、みんなの目がアタシに向く。「またかよ」って呆れてるやつと「先生呼びに行く?」と不安そうな子。そんな注目を浴びてしまった後、アタシはめんどくさくなってその場から逃げ出した。
……いっつもそうだ。怜と居ると、アタシが全部悪くなる。……ほんと胸くそ悪い。
「あぁっ!もぉっ!」
そしてそんなあいつをずっと信じてた昔の自分を思い出し、吐き気がする程自己嫌悪。もう忘れたいのにこうして何度も思い出させられるから余計怜のことが嫌いになる。
「――瑠華っ!」
「追いかけて来ないでっ!」
教室を飛び出し廊下に出ると、案の定怜の声が聞こえて追いかけてくる。何があったのかと振り返る他のクラスの生徒を追い越し、アタシは全力で階段を駆け上がった。
いっこ抜かしで最初の一階分ぐらいは勢いでいけたけど、最後屋上のドアが見えた所で力尽きる。
「はぁっ…………はぁっ……」
「……瑠華」
ガクガク震える足を押さえながら階段に座って息を整えていると、楽々駆け上がってきた怜に追い付かれてしまった。……アタシはこんなに息が切れてるのに、こいつは全然まだまだ余裕そうだし。こーゆー所も気に食わない。
「…………っ、ほんとしつこい。……はぁ、っ。アタシもう高校生なんだけど。いつまでアタシのこと子供扱いする気?もう追いかけてこないで。……やっと離れられると思ってたのに高校まで追いかけてくるなんてどーかしてる」
蹲ってたアタシが睨むようにして顔を上げると、口うるさい幼なじみが少し困った顔をして階段下の足元に立っていた。
「……私……そんなに迷惑?」
「は?めーわくに決まってるでしょ」
「…………私のこと、嫌い?」
「いつも言ってるでしょ、大嫌いだって」
「っ…………うん、そう、……ね」
いつもなら何言ったって引かないのに、今日はびっくりするぐらい静かになってビビる。そわそわしながら階段に座ってたアタシの隣に、俯いて落ち込んだ顔しながら怜が座ってくる。……急になに?と思いながらその様子を見てたら、小さく「ごめんね」って言葉が聞こえてきて耳を疑った。
「…………あんたが謝るなんて明日台風かも」
「そう?私、瑠華が昔みたいに私と話してくれるなら何度だって謝るよ?」
「……はぁ……重。……じゃ、謝んなくていい」
膝を抱えながらアタシを見てくる。その視線に耐えきれずに立ち上がると、「待って」と手が伸びてくる。
「――どうして?」
「……なにが?」
「どうして私を避けるの?……どうして瑠華は、変わっちゃったの?」
「っ……別に変わってないでしょ。それにアタシはあんたがウザいから避けてるだけ」
掴まれてる腕を振りほどこうとしても、その力は緩まない。……どうやら今日は話すまでアタシを解放しないつもりらしい。……ほんとめんどくさい女。
……仕方なく座り直すと、怜の手がアタシの耳に触れた。
「……ねぇ、これ塞がらないの?」
「ちょっ、触んなっ」
「このボタン、止めていい?」
ピアスの穴を指で触れてきたり、わざわざ開けてるシャツのボタン閉めようとしてきたり、そして脚にも「寒そう……」と視線を向けてくる。
「やめて、この変態っ」
「……こんな格好して見るなって言う方がおかしいわ。……これじゃ屈んだら下着が見えるじゃない」
「サイテー。今の発言セクハラー」
制服をあちこち引っ張ってくる怜を引き離すと、両手で両腕を押さえつけて距離を取る。怜は引き離された後も、まだ何か言いたげにアタシの制服を見ていた。
「私は瑠華が心配なの。……おば様だって……心配してるわ」
「……聞きたくない。ママが何を言ってたとか、あんたの口で言わないで!」
「っ、瑠華…………そうね、ごめんね」
「はぁ……もういいでしょ」
せっかくの昼休み台無し。お腹空いてるのにこんなイライラしたくない。さっさと話を切り上げ今度こそ教室に戻ろうと立ち上がる。
「……ねぇ、瑠華はどうして私がこの学校を選んだと思う?」
「は?そんなのアレでしょ?アタシの監視とか」
「……瑠華にしてみたらそうなのかもしれないけど、違うわ。……私が瑠華と離れたくなかっただけよ」
……何それ、としか思いつかない。みんな何か理由や目的があって学校選んだりするのに、頭良くてどこでも友達出来そうなやつの答えが、アタシと居たいからって。やっぱり怜はズレてる。進路捨ててまですることじゃないし。
「…………それ他の子に言ってあげたら?喜ぶかどうか知らないけど。……じゃ」
「瑠華!お願い、聞いて」
「やだっ」
「……っ、私だって瑠華に嫌われるようなことしたくない。昔みたいに仲良くなりたいのっ!」
「ちょっ、ばかっ……声デカい」
アタシにしがみついてくる怜。俯いてから聞こえる途切れ途切れの声に、まさか泣いてんの?と顔を覗き込んだら「見ないで」と顔を押しのけられた。
「……だって……私から瑠華を取られたら何にも無いもの」
「んなわけないでしょ」
アタシの何百倍も持ってるくせに何言ってんだか、と呆れてしまう。やっぱ怜はアタシの前だと駄々こねてる子供になる。こんなの他のやつが見たらガッカリするか、逆にいつものしっかり者のイメージとのギャップに可愛いと思うかのどちらかだろう。
「もう嫌。私、瑠華に嫌われたくない。それに……瑠華がもし学校を辞めることになってしまったら……私、どうしたらいいのか分からない……」
「…………あんた……死ぬほどめんどくさい」
「……そうよ?知らなかったの?」
「開き直るな」
今まで"真面目で美人な優等生はうるさい厄介な幼なじみ"としか見てなかった。アタシに対する気持ちはどうしようもない幼なじみを仕方なく世話してるだけで、結局周りの連中と同じように馬鹿にしてるんだって、そう思ってたのに。
どうしたらいいのか分かんないのはこっちもだってば。そんなこと思ってるなんて知らなかったし。いつも平然とアタシのダメ出しばっかしてくるやな奴じゃなかったの?怜って。
「ちょっと……落ち着こ」
目の前で狼狽える怜を見てたらアタシの方が冷静になってくる。
「瑠華、嫌いにならないで。私の前から居なくならないで」
「っ、……ちょっ、ちょっと」
……もう関わらないでくれたら比べられることもないし、お互い好きに過ごせるはずだった。他人事のように、こいつに好かれるやつは大変だな~、なんて思ってたのに。まさかそれが他人じゃなく自分の事になってるなんて思わない。
突然抱き付かれて、アタシは壁側に体が押し付けられて身動きが取れなくなった。怜が普段見せない顔に戸惑っていると階段に近付いてくる足音が廊下から聞こえてくる。
「だっ……誰か来る!来るって、離れてよっ」
「っ、いや」
「……はぁーーーーーー……」
仕方なく離れようとしない怜の脇腹をくすぐると「ひゃっ」とあまり聞かない声を上げて飛びのいた隙に立ち上がった。そしてそのまま階段から飛んで踊り場に降り、下の階へ向かう。
「瑠華!まだ話がっ」
「っ、後にして!」
正直、何話せばいいのか分からないし、さっさと逃げたい。
「後にしたら絶対聞いてくれないじゃないっ」
「あ……当たり前でしょ!?」
チラッと後ろを見たらもう怜が立ってた。
このまま教室に戻っても追いかけてくるだろうし……今日はとことん逃げるしかない。覚悟を決めて、アタシは目の前の階段を見下ろし二段飛ばしで階段を下りようと飛んだ瞬間、何故か目の前が真っ白になって自分がどこにいるか分からなくなる。
「っ、……えっ……?」
……そして次の瞬間、あ、ヤバイ、と一気に青ざめた。
夢の中で高い所から落ちた時と同じ、ガクッと落ちる時の胃がひゅっとするようなあの嫌な感じ。
「――瑠華っ!」
グイッと後ろに引っ張られたと思ったら、天井が見えてその中に必死な顔した怜が映る。そして景色がぐちゃぐちゃになって痛みと一緒に近くで怜の声も聞こえたけど、そのまま意識が薄れてく。
……自分がどうとかよりも、一瞬だけ怜のことが気になったけど、すぐにどーでもよくなった。
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