第3章89話:分配

ナユリスの園については非常に気になる。


気になるが……


(今は、他にやるべきことがあるからな……)


と俺は思った。


新天地しんてんちの探索をしている暇はない。


精霊から授かった使命があるからだ。


(この転移球の『解除者』は、俺に登録されているからな。後でゆっくり探索しても問題ないだろう)


他の冒険者や探検家がここを訪れても、転移球を利用できない。


探索の第一人者は、常に俺になる。


まずは魔族の問題を片付け、全てが終わってから、ナユリスの園についてゆっくり探索することにしよう。


「戻るか」


と俺はつぶやいた。


きびすを返し、転移球の部屋を立ち去ることにした。





洞窟まで帰ってくる。


俺はふたたびマップを開きながら、クリスタベルたちのもとに戻った。


「帰ったぞ」


と俺は告げた。


「おかえりなさい」


とクリスタベルが応じる。


「マルドルの持ち物を回収してきた。まずはケイノンさん、あんたが奪われたというアイテムバッグはこれか?」


と俺はひとつのアイテムバッグを提示する。


このアイテムバッグはマルドルの部屋から回収してきたものだ。


するとケイノンがうなずいた。


「それです! 取ってきてくれたんですね!?」


「ああ。たしかに渡したぞ」


と俺はケイノンにアイテムバッグを手渡した。


「ありがとうございます!」


とケイノンがお礼を述べた。


「マルドルの残りの戦利品は、山分けしよう」


そう告げて、俺はアイテムボックスから回収品を取り出そうとするが……


ケイノンが遠慮がちに言った。


「私は、結構です。何にも役に立ちませんでしたから、報酬を受け取る資格はありません。アイテムバッグが戻ってきただけで……」


するとクリスタベルも同意する。


「私も同じよ。戦利品はあなた一人で持っていったら?」


俺は肩をすくめた。


クリスタベルは魔族を何匹か狩っている。


ケイノンは確かに今回、何の活躍もしてないが、そもそもケイノンがいなければ俺はここには来てないからな。


魔族を捜索しようと努力したケイノンに、なんらかの報いがあってもいいだろう。


「……まあ、あんたらが何の働きもしてないならそうするが、そういうわけでもないだろ。多少は受け取っておけ」


そう言って、俺は戦利品のいくらかを提供した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る