初恋のやりなおし
続
第1話
人生で一番幸せな日になるはずだった、高校の卒業式。
私は12年間想い続けてきた人に、あっけなく振られてしまった。
『気持ちはとても嬉しいよ、ありがとう。でも僕はもう30歳だし、二葉ちゃんのことはずっと大切な妹みたいに思ってきたから……その気持ちに応えることはできない。ごめんね』
ベッドに転がって、私はぼんやりとスマホの画面を眺めている。もう何時間も。
それで文面が変わるわけじゃない。わかってる、けど体が動かない。
頭のどこかでは、きっとこうなるって気づいてた。ずっと見て見ぬふりをしてきただけ。
それでも現実を受け止められない頭の中には、好きな彼のことしか浮かんでこない。
章一くん。章一お兄ちゃん。
家族ぐるみで付き合いがあるご近所さん。6歳の頃からずっと好きな人。
大学生になった章一お兄ちゃんが、中学受験する兄貴の家庭教師として家に来た時から、ずっと。
章一お兄ちゃんは兄貴に勉強を教えながら、落ち着きがなくて邪魔ばかりしていた私の相手までしてくれた。私の話は何でも楽しそうに聞いてくれた。お絵描きや工作、宿題、何を見せてもとびきりの笑顔で褒めてくれた。大好きだった。
章一お兄ちゃんが就職して遠くに行くことになった時は、周りが引くほど大泣きした。お兄ちゃんの脚にしがみついて、「私も一緒に行く」なんて言って。今思い出しても恥ずかしい。
そんな私に、章一お兄ちゃんは「長期休みには帰ってくるから、また遊ぼうね」と言って、優しく頭を撫でてくれた。
会える日が年に1回とか2回になっても、章一お兄ちゃんへの気持ちは変わらなかった。
それなのに中学生の時は変に気恥ずかしくて、ひどく素っ気ない態度をとってしまっていた。名前も呼ばずによそよそしくして。あの3年間は本当にひどかった。それでもお兄ちゃんは、変わらず優しかった。
お兄ちゃんが帰省する度に、女の人が一緒じゃないかとヒヤヒヤした。今まで彼女は何人かいたみたいだけど、いつの間にか別れていた。お兄ちゃんは優しすぎて、同年代の人にはちょっと物足りなく感じるのかもしれない。お兄ちゃんの周りが見る目のない女ばかりで良かった。
けれど、いつ誰に章一お兄ちゃんを取られたっておかしくない。
だから私は高校生になった時、本気でお兄ちゃんを狙いにいくと決めた。
「勉強とか進路のこと聞きたいから」と連絡先を交換して、呼び方も「章一くん」に変えて。
時々他愛のないメッセージを送ってみたり、章一くんが帰省した時は何かしら理由をつけてお出かけに誘ったり。章一くんは「俺みたいなおじさんと一緒で嫌じゃないの?」と困った顔で笑いながら、何だって付き合ってくれた。
18歳になって高校を卒業したら、私も大人の仲間入り。そしたら12歳差なんて些細なこと。
だからそれまでに、できるだけ仲良くなる。好きになってもらう。歳の差なんて関係ないくらいに。そう心に決めていた。
それなのに――
……ああ、もう駄目だ。
何をする気にもなれない。もうどうしようもない。それでも、ずっと考えてしまう。章一くんのことを。
私はスマホを放り投げて枕に顔を押し当てると、声にならない声で叫んだ。
諦めたくない。諦められない。諦められるわけがない。
この気持ちをどうすればいい?
すると突然、部屋の外からドタドタというやかましい足音が聞こえた。
そのままノックもなしに、ドアが乱暴に開かれる。咄嗟に飛び起きると、スマホを握りしめた母が、蒼白な顔で立っていた。
「ちょっと何!? 急に入ってこないでっていつも…」
「そんなことより大変なのよ! たった今、芳子さんから連絡があったの。章一くんがこっちに帰ってくる途中で事故にあったってーー」
「………え?」
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