第11話 隠し鉱山
温泉をたっぷり楽しみ、ルーファスはたちはその温泉地で一泊するとツートンにいる代官に早馬を送った。しかしそれはあくまで見せかけ。
ルーファスは自分の目的を、騎士団にだけ内密に知らせた。
一行には案内役兼監視役である代官の私兵もついているから、彼らには知られないよう秘密裏に動く必要がある。
ルーファスが立てた作戦通り、騎士団員と服を取り替え、こっそり部屋から抜け出して馬で移動する。代わりにルーファスやジェレミーと背格好や髪の色が似ている騎士団員に影武者をさせ、代官の私兵にはその偽物の警護を務めさせる。
(まるでスパイ映画みたいだっ)
夕方過ぎに宿を発ち、目的地付近に到着したのは美しい満月が空に昇った頃。
「いい兆候だ」
山道を馬で駆けながらルーファスがこぼす。
「何がですか?」
「代官は山道が整備されてないと言っていたくせに、広い道が拓かれている。あきらかに運搬用の荷馬車が十分通れる広さだ」
「ということは……」
「まず間違いなく、何かがある」
馬を走らせながらジェレミーは内心の昂奮を押さえきれない。
ルーファスが目を付けた地点付近に到着すると、人の話し声や人いきれを感じた。
ルーファスの合図で全員が馬を下り、体勢を低くして声のするほうへ向かえば、篝火が見えてくる。
そこでは数十人もの作業員たちが働き、監視役の兵士が見張りについている。
「……金鉱だ」
搬出されるトロッコの中身を見ると、ルーファスは頷く。
「どうやらお前の見立ては正しかったようだな。ベテラン作業員が集められて……それも、この人数を考えると、埋蔵量はかなりのものだ」
「どうしますか? このまま戻って、代官を追求しますか?」
「いや、逃げ道を塞ぐための証拠が必要だ。万が一にも証拠隠滅に鉱山を爆破でもされたらおしまいだ」
「そこまでしますか?」
「首が飛ぶことを考えれば、なりふり構ってもいられないだろう」
「証拠と言っても……金を持ち帰っても意味はないし……」
「だから、ここを占領する」
「無茶です。さすがに人数が」
「相手は代官の私兵だ。こちらは人数は少なくても精鋭揃い。十分相手にできる」
それは冷静なルーファスらしからぬ大胆さ、いや、稚拙さだった。
まるでクリスを奪おうとしていた悪役王子時代の彼が戻ってきたような錯覚に陥る。
「殿下――」
「ジェレミー。お前はここで待て」
「殿下もいくんですかっ」
「そうだ!」
ルーファスは騎士たちを率い、躍り出た。
「全員、作業の手をとめろ! ここは隠し鉱山だということは分かっている! これは明確な王国への反逆行為だ! 抵抗しなければ悪いようにはしないっ! 分かったら、全員、武器を置いてその場に跪け!」
ルーファスが声を上げた。
一瞬、この場が戸惑いに包まれるが、相手はルーファスが王族だなんて想像だにしていないのか、襲いかかってくる。
ルーファスたちは剣を抜き、応戦する。
ルーファスは襲いかかってくる相手を叩きのめす。
(すごい……)
目にも留まらぬ速さとはまさにこのことで、ルーファスは襲いかかってくる私兵を前にしても臆することなく、件を弾き返し、腹に一発蹴りを見舞う。
相手のほうが数が多いが、その不利などものともしない。
しかしルーファスが一人を相手にしている死角から、別のもう一人が飛び込んでくる。
ルーファスは死角からの突きをかわしたものの、その拍子にバランスを崩してしまう。
剣が手から離れる。
護衛騎士たちがルーファスの苦戦に気付き救援しようとするが、間に合わない。
もう一人の代官の私兵が、ルーファスに馬乗りになり、剣を振りかぶる。
「殿下! ――《風よ、斬り裂け》!」
ジェレミーは夢中で両手を突きだして叫ぶ。
作中では魔法が、それぞれの属性に応じた呪文とともに撃ち出せる。
そしてジェレミーは風魔法の使い手だ。
転生者である自分も魔法が使えるかどうかは分からなかったが、迷っている暇などない。
緑色の旋風が両手の中に凝縮し、放たれた。その速度は凄まじく、一度の瞬きをし終わらないうちに、ルーファスに馬乗りになっていた私兵を弾き飛ばした。
「ま、魔法だ!」
魔法は貴族だけの特権。いや、魔法を使える強者が特権を享受し、後に貴族と呼ばれる存在になったというべきか。
「《ふぶけ疾風!》」
魔法で敵を倒す快感に調子に乗ってさらに唱え、騎士たちが相手にする兵士たちも薙ぎ払った。しかし魔法を使ったあとは軽い眩暈を覚えてしまう。
(ヤバ……これ、魔力の使いすぎってやつ? 俺、魔力なさすぎだろ!)
眩暈を覚えながらもジェレミーは怯んだ私兵たちに向かい、声を上げる。
「全員、剣を置いて抵抗はやめろ! これ以上、抵抗するのなら、風魔法で皆殺しにするぞ……!!」
私兵たちは「ひいいい」と上擦った声を漏らし、剣を次々と捨てていく。
ジェレミーは、ルーファスの元へ駆け寄った。
「殿下っ! お怪我は!?」
「……不甲斐ないな」
ルーファスが自嘲気味に笑う。
「お怪我を!?」
「いや、お前のおかげで無事だ。ありがとう」
「良かった……」
ジェレミーはルーファスの両手を掴んで立ち上がらせた。
ルーファスが王家の面汚しと言われるのはその出自だけでなく、王族にもかかわらず魔法が使えないというところにもあった。
騎士たちが、私兵たちを捕縛する。
ルーファスは服の土埃を払うと、怯えた顔をしている鉱夫たちに目を向ける。
「わ、私たちはキューレル様に言われるがまま働いていただけです! な、何も知らなかったんです! 王様への反逆など……」
「分かっている。お前たちにしてもらいたいのは、ここで働いていたという証言だ。そうすれば罪に問われることはない」
ルーファスは騎士の一部に命じて近隣に領地を持つ貴族への援助要請、そして王都への早馬を飛ばすよう告げた。
その日の深夜、付近の貴族たちの助けも借り、代官たちを逮捕するに至った。
隠し鉱山を押さえた以上、代官に言い逃れる術はない。
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