第2話 お屋敷

 フィデリア様は、本当にお優しい方や。

「コンスタンサは今日、本当によく頑張ってくれました。ペドロ殿下から婚約の解消をお申し出いただく事ができました。コンスタンサの手柄です。本当に今日は良い日でしたわ。あの子達がお屋敷に戻ったら、お祝いをしましょうね」

フィデリア様は、お屋敷の皆様の前でうちを褒めてくれはってん。嬉しいわぁ。お屋敷の皆様も優しくしてくれはって、うちは夢心地のままよく寝て、気持ちよく目が覚めた。


 次の日からは、またお行儀の練習と、お屋敷のお仕事のお手伝いや。舞台の上に立つ以上、全ての役を本気で演じて当然や。これも貴婦人のコンスタンサと言うてもらえるようになるための修行や。お屋敷の皆様も優しく教えてくれはるし、うちは幸せ者やな。どれもこれも、辺境伯様御一家のおかげや。


 思い切ってお願いしてよかった。うちは、カンデラリア様のお胸に包まれて泣いた後のことを思い出した。

「私に貴族の御婦人の立ち居振る舞いを教えてください。まだ端役ですけれど、いつか舞台で主役を演じて、貴婦人のコンスタンサと呼ばれるようになりたいです」

カンデラリア様が本当に素敵やねんもん。カンデラリア様みたいになりたいと思ってん。よく考えたら図々しかったなと後で気がついたけど。その時は、一生懸命やった。


「まぁ。素敵ね。もちろんよ」

カンデラリア様はフィデリア様とご一緒に、楽しそうに笑ってはった。

「エスメラルダ、あなたも一緒に教えてあげなさいな」

カンデラリア様の言葉にうちが驚いている間に、エスメラルダ様も賛成しはって、それからうちは、フィデリア様、カンデラリア様、エスメラルダ様に、本当に良くしていただいた。


 貴婦人って大変やな。椅子の座り方一つとっても決まりがあるねん。正直面倒くさいけど、座ったままでもお美しい御三方を見ると、そうせなあかんねんなぁと思うわ。


 一座はいつもどおり、ゆっくり旅をして、あちこちの町や村に何日も泊まって公演をした。辺境伯様の御一家も、毎回公演を楽しんで下さった。


 そのうちに、エスメラルダ様も舞台にたってみたらどうやという話になった。一座の一員であるうちが教えてもろとるんやから、お返しせなと座長も思いはったんやろうな。


 辺境伯様はクレト爺ちゃんが、若手の良い刺激になってるからって、座長の話を断ろうとしはってんけど。エスメラルダ様がやりたいと言わはって、教えあいっこになったわ。楽しかったな。辺境伯様の御一行との旅は、本当に楽しかったわ。


 あぁ、そうそう。うちらは知らんかってんけど。クレト爺ちゃんって強くて有名やってんて。大怪我する前のことやけど。たしかに、辺境伯様の部下の騎士様達との練習試合で、勝ちまくっとって凄かった。座長が何か思いついたみたいやから、いずれクレト爺ちゃんが主役の台本を書くんとちゃうやろか。クレト爺ちゃん、お婆ちゃん達の人気者やからな。どういう台本になるか楽しみや。


 うちはあと何日かしたら、王都で公演している一座の舞台を、フィデリア様と一緒に見に行く約束や。楽しみやわぁ。エスメラルダ様も舞台に立ってはるねん。辺境伯様御夫妻は、エスメラルダ様の応援で今も一座と一緒や。一座は毎年決まった場所に舞台をつくるから、その近くで天幕を張るねんけど。辺境伯様御一家も、天幕暮らしや。御一家は専用で天幕つかってはるけど、座長が恐縮しとった。


 辺境伯様御一家を警護するために、一座の中に、辺境伯様の部下が紛れ込んでくれてはるねんけど。皆えぇ人達で、力仕事とか手伝ってくれはる。それに後ろ暗い連中は何となくわかるんやろうな。毎年の厄介事も今回はない。


 その話をどこからか聞いた、別の一座の座長が近くに引っ越してきたんやって。まぁ、あそこの一座とうちらは演目が重ならへんからえぇけど。ちょっと面白いことになっとるみたいや。


 うちが芝居を見るのは舞台袖くらいや。お客さん側から見れるフィデリア様との観劇が、本当に楽しみや。


 あちこちにお手紙を書いたり、御来客のお相手をされてお忙しいフィデリア様には申し訳ないけれど、うちは楽しく充実した生活を送っとった。

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