第2話 初めての夜会2

 皇国皇帝ビクトリアノ陛下は、うちが今いる王国が、幾つ入るんかわからんくらいの領土を治める御方や。先代の皇帝の弟の謀反騒ぎのことを思ったら、ビクトリアノ陛下が少々怖い御方くらいでちょうどえぇよ。


 うちが生まれる前のことやけど、皇国の騎士姫カンデラリア様がおられんかったら、大変なことになっとったはずや。


 皇国は大きいから、荒れてもらったら周りの国まで大変なことになるねん。うちらも商売あがったりやわ。少々よりもっと怖くてえぇから、皇国皇帝ビクトリアノ陛下におかれましては、ぜひぜひ皇国を平らかに治めていただきたいわ。


 いつか、大役者になったら、賢君と名高い皇国皇帝ビクトリアの陛下の御前で演じることが出来るかもしれんけど。まぁ、旅芸人のうちには無理やな。貴族に雇われとる芸人たちと、うちら旅芸人は一緒や無いもんねぇ。仕方しゃあないわ。


 王国の王都での夜会やから、皇国とのつながりがあまりない貴族も沢山招待客の中におりはる。髪の毛の色が明るくて巻き毛の人が多い。王国人の特徴や。それにしても衣装がなぁ。あれは何と言うたらえぇか。綺麗やけど。まさかあれが王国風の衣装なんやろうか。えぇ布を使ってはっても、皇国の布には敵わへん。皇国の布が手に入らへんから仕方ないんやろうけど、見栄えがちょっと残念や。面子に命かけてはるお貴族様には可哀想なことやけど。特に女性の衣装はもうちょっと他の方法はなかったんやろうか。


 あれはちょっと、嫌やで。


 貴婦人のはずやけど、お貴族様にこんな言葉使ってえぇんかわからんけど、破廉恥はれんちやわ。胸元が、ちょっとどころではなく、谷間がくっきりで色っぽいというか。襟ぐりが深くても絶対に谷間は見せへん皇国風の衣装を着せてもらってよかった。あっちは着たくないわ。うちの胸溢れそうで嫌や。恥ずかしい。


 貴婦人があんなんで、えぇんやろうか。うちの一座は禁止やけど、夜の特別なお接待というか、何と言うかを連想してしまうわ。


 お貴族様に、見目好い役者全員で順番に夜のお接待をして、パトロンになってもらって劇場を建ててもらった話は時々聞く。うちの座長がそんな人でなくて、本当によかったわ。夜のお接待は、うちの命の恩人との約束を破ることになるから、うちは絶対いやや。あの破廉恥はれんちな衣装は、同じ女のうちでも、目のやり場に困る。女同士でも谷間が見えるのは、あんましなぁ。うちも見せたくないし。


 それにしてもなんで貴婦人が、何と言うか、夜の特別なお接待の衣装によく似とる衣装を着てはるのかな。うちみたいな、フィデリア様と辺境伯様御一家の気まぐれと、主催の伯爵様が優しい人やからここにおる孤児には想像もつかへんわ。


 そういう人らも、フィデリア様にご挨拶に来はる。けど、すぐ他に行って、似たような人らとだけ話してはる。大広間にいる人達が二つに分かれとる。これは、主催の伯爵様に対して相当失礼なことちゃうんやろうか。皇国の血を引く御方に招待されてんから、建前だけでも仲良くすべきちゃうんかな。


 フィデリア様も主催の伯爵様もにこやかな笑顔を浮かべてはるけど、どう見ても王国の貴族は真っ二つや。うちらのように王国と皇国を行き来する旅芸人の間でも話題になっとったけど。噂が本当やったということやろか。巡業中に、皇国に戻れんくなったら嫌やな。皇国のほうが稼げるんよねぇ。豊かやから。


 王国は、皇国と小競り合いを繰り返しとった頃に戻りたいんやろうか。


 フィデリア様にご一緒させていただいているだけのうちでも、なにやら怖いなと思う光景やった。

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