第9話 ミラの弟クロト①

実技演習終了後、俺とミラは偶然お互い午前中の講義が1コマだけだったため、暇つぶしもかねて屋上に来ていた。


5階建ての屋上ともなると、この学校の全景が観える。

雄大な山々。大きな河川に広大な湖。およそ普通の学校ではありえない。

この学校の、ひいては冒険者業界そのものの影響力が伺い知れる。


俺はミラと並んでフェンスにもたれ掛かり、少し遠くにある神秘的な滝を見つめていた。


「さっきは、なんていうかその、凄かったな」

俺はミラの才能にある種嫉妬してしまい、なんのひねりもない表現になってしまった。


「それは...、お互い様よ。私も貴方に期待してるーなんて言っておいてなんだけど、まさかあそこまで迫力があるとは思わなかったわ」


「失礼な話かもしれないが、俺もミラがそんな実力を持ってるだなんて思いもしなかった。確かに、お互い様かもな...」


ふと、1時間と少し前の、俺とミラの出会いを思い出して、なんだか可笑しくなってしまった。

「ぷっ...、くくっ」


「あら、...いきなりなんなのよ?何かわたしの顔についてる?」


「いや、わるいわるい。そうじゃなくてな。

思えばあんな出会いだったのに、こんな結末になるなんて可笑しくてな...。

それに今じゃこうやって仲良く黄昏たそがれてる。

これって、もしかして運命だったんじゃないか...?」


「ふふっ、それは同感ね。でも残念ながら、...運命なんかじゃないわ。」


「...ん?それは、どういうことだ...?」


「わたしはね、最初からアンタのことは知ってたの。冒険者リーン、半人半魔の期待の新人。愛する妹のために日々を生きているって」


...ミラは白状するように語りだした。


「...5年前のある日、あなた達家族は不運にもとある傭兵に襲われた。全身が真っ黒な鎧で覆われ、その相貌は伺いしれない。

軍が駆けつけた時には既に遅く、両親ばかりか貴方の妹も、魔族狩りの毒牙に掛かってしまった」


「事件後、異人種討滅同盟デモン・アナイアレイトの実行役と雇われた傭兵は軒並み摘発されたが、貴方達を襲った下手人は未だ逃亡している。

そして、貴方は冒険業のかたわら、件の下手人『黒衣武者』を追っている」


「なぜ!それを...!」


「さっきも言ったけど、実は私は有力な貴族でね...。ツテは幾らでもあるの。辺鄙な田舎の悲しい事件なんて、調べるのに造作もなかったわ」


「そう、か。べつに知られて困る話でもないから良いんだが...。あまり、気持ちが良いもんじゃないな。

でも、どうして、そんなことを?」


「...貴方に、助けて欲しいのよ..。私の弟、クロトを」


ミラがそういった瞬間、屋上に一陣の風が吹いた。


ミラのその綺麗な紅髪と、楚々としたスカートが風にたなびく。


まるで、悲しい物語を予感させるような、そんな光景だった。





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