第四章 学園 前期生編 ~予測不可能な学園生活~

第51話 矛盾の始まり・・・

 ここは、シャロン王立学園。

 平民であろうと、卒業すると政府の官職や研究者になれるなど、まさに安泰な人生が送れるのだ。


 しかし、本来ならば嬉しいはずなのに、焦りを隠せない生徒も居たのだった・・・


「なんでよ・・・ なんでよっ! ゲーム本編と全く違うじゃないの!」

 誰もいない廊下で一人むなしく叫ぶ声がした。


 遡ること一カ月前・・・

 

 

 ――前世、しがない会社員だった私は、とある交通事故が原因で死んでしまった。

 正直、死んで良かったと思う。だって、つまらない人生だったもん。


 唯一、娯楽だったのはゲーム。「インテグリー=フェイス」であった。

 これまでどれほど周回してきてると・・・ まあ、それも関係ないか。


 

 ・・・ん? あれ? 生きてる?


「私」が次に目覚めたのは、見知らぬヨーロッパ風の部屋だった。


 すぐに違和感を覚え、近くにあった鏡で自分の体を確認する。


「え・・・ 嘘・・・ これは・・・ エマ?」


 ――そう、私は、インテグリー=フェイスのヒロイン、エマとして転生していたのだった。


 しかも、もう入学試験前日。つまり、ゲーム本編の始まりと一致している。

 ・・・やったぁぁぁぁ! 最高の二度目の人生ね!


 大好きなゲームへの転生。しかも勝ちが約束されてるヒロイン、エマ!

 私はノリノリで学園へと向かった。


 だけど、すぐに何かが違うことに気付いたの。


「フィリップが・・・ いない?」


 このゲームは、主人公フィリップが王国を滅ぼさんとする悪の組織、べレーター家を討伐するというのが大まかなストーリーなの。

 だけど、そのフィリップが・・・ どこにも現れない・・・


 本来ならば、第二王子マルクと戦うはず・・・ 

 けど、対戦相手はレイド? というモブと・・・ え、エレーヌ!?


 彼女はこのゲームの裏ボスで、”黒き人”として立ちはだかるのがシナリオ。


 しかも、レイド? とエレーヌの手にはそれぞれ伝説の武器、インテグリーとフェイスがある。


 「なんでエレーヌが生きてるのよ・・・ これじゃ、ゲームと違うじゃない! しかも、なんでインテグリ―を名前も出ないモブが持っているのよぉ!?」


 エマの約束された人生は、一瞬で崩れ去ったのだった・・・



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 第四章 学園 前期生編 ~予測不可能な学園生活~



「着きました・・・! 何気に初めてなんですよね!」

「ああ、俺もだ」


 レイドとエレーヌは今、学園の食堂まで来ている。

 今までCクラスは、使用が禁じられていたのだ。


「まだお昼前ですが、にぎわっていますね」

「授業を自由に取れるから、案外暇な生徒が多いのかもしれないな」


「幸い、まだ席は空いています。早速メニューを見に行きましょう!」

 そう言うと、エレーヌは売店の方へ小走りで行ってしまった。


(エレーヌって、結構食い意地があるんだよな・・・)

 そう思いながら、レイドもエレーヌの後を追う。


「わぁ・・・ 見たことも無いものばっかりですね・・・」

「そうか? そんな特別には見えないが・・・」


「・・・レイドは葉っぱをよく食べるんですか?」

「葉っぱ? 野菜のことか?」


「そうです。その緑色の料理とか肉が入っていないじゃないですか」

「そうか・・・ なるほど・・・」


エレーヌはバイセン家の人間だ。確かに料理も肉系ばっかりだった。

野菜などめったに食べないのだろう。


「エレーヌ。これも食べれるんだ。肉ばっかり食べていると、健康に悪いぞ?」

「? 肉を食べないと力が出ませんよ?」


「ま、まぁ・・・ 確かにそうだが、殺生を嫌う人とか、肉が嫌いな人もいるんだよ」

「その人たちは、バイセン領に来てないからそんなことが言えるんです。食べなきゃ食べられますよ」


(・・・言い返せない)

 レイドはついに言いくるめられてしまった。


「とにかく、何か頼みましょう。なるべく肉系の物を・・・」

「ああ、そうだな・・・ 俺も頼むか・・・」



 というわけで、レイドとエレーヌは料理を注文してきた。

 エレーヌは丸焼き肉で、レイドは逆ばってサラダだ。


「いただきま~す。 久しぶりの肉です・・・」

 エレーヌが嬉しそうに食べ始める。


 食べているときはお互いに無言。

 これがバイセン家で培われた暗黙のルールだ。


「・・・ふう。おいしかったです」

「・・・早いな」

 エレーヌが十分もしないうちに食べ終わってしまった。

 余りにもきれいに、そして静かに食べるから全く気が付かなかった。


「その葉っぱ、おいしいですか?」

「お? 食べてみるか?」


「ええ、少しだけ興味が湧いてきました。ちょっともらっても?」

「ああ、良いぞ」


「それでは遠慮なく・・・」

 そうしてエレーヌは一口味見してみる。


「どうだ?」

「・・・うーん、肉と合うかもしれません」


「意外といけるだろ?」

「・・・まぁ、そんなことは置いといて、早く食べてください。授業に遅れてしまいます!」


(うやむやにされてしまった・・・)

 そう思うレイドであった。




 

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