第22話 ソニアの本性

 レイドとエレーヌはバイセン家に帰還した。

 エレーヌはレイドに怒り心頭なようで、先ほどから口を利いてくれない・・・


「ああ、どうしよう・・・」

 レイドが頭を抱えて悩んでいると、ロイクがこちらに近づいてきた。


「いったいどうしたんだよ~ レイド君?」

 顔で分かる。今のロイクは満面の笑みを隠せずにいる。


「そうかそうか~ エレーヌと喧嘩しちゃったのか~ まあ仕方ないねえ」

(分かっているじゃないか!)

「・・・ほっといてくださいよ、どうすれば良いか分からないんです」

「僕が話を聞いてあげようか~?」


 いやだめだ。こいつは妹に関しては一番信用が出来ない。

 他の信頼できる人は・・・ おっと、あいつがいるじゃないか。


「いえ、結構です。それより、カインはどこにいますか?」

「つれないなあ。僕の方がエレーヌとの付き合いは長いのに・・・」

「結構です!」

(こいつめ・・・ ああ、もう!)


 ロイクの追及は終わらない。こいつに何を言っても同じことを繰り返されるだけだろう・・・

 レイドは早急にロイクのもとから離れることにした。

「ああ~ 待ってよ~ レイド君~」


(消えろ!)

 レイドは全力疾走で屋敷の中に入った。

 カインを探し始めるが、やはりいない・・・


 しばらく屋敷内を歩いていると、エレーヌの母、ソニアとすれ違った。


「あらあら~ レイド君じゃないの~」

 ソニアは相変わらずのニコニコ顔で話しかけてくる。

「あ、ソニアさん・・・ こんにちは」

「初めての実践経験お疲れ様ね~ ・・・エレーヌが何も言わずに部屋に閉じこもってしまったの。 何かあったのかしら~」


「はい、まあ・・・」

「・・・詳しく話してくれるかしら?」

 ソニアが真剣な眼差しでこちらを見てくる。どうやら逃がす気は無いらしい・・・


「・・・実は」

 レイドがことの顛末を話す。ジャイアントベアのことや、遺跡のことなど・・・

「ということがありまして・・・」


 ソニアは相変わらずニコニコしたままだ。

「あら~ そんなことがあったの~」

「はい・・・」


 急にソニアの雰囲気がどす黒いものになる。

「レイド君? 貴方は・・・ エレーヌが貴方のことを、心配してくれていたことを分かっているかしら?」

「え、ええ・・・ もちろん・・・」


「男の変なプライドかどうか分からないけど・・・ エレーヌは貴方よりはるかに強いのも分かっているわね? そして、貴方の護衛としてレイドに付いていたことも・・・」

「は、はい・・・」


「じゃあおとなしく従っておきなさいよ! エレーヌの信頼を傷つけるとかどういう神経してんだよ!」

「ぐはぁ!」

 ソニアから突然の膝蹴りを食らう。全く反応できなかった・・・

 内臓が潰れたかもしれない・・・


「いいわね? 今すぐどんな手段を使ってでも、許してもらうまで誠心誠意謝ることよ! それ以外の選択肢は認めないわ!」

「ぅ・・・ はぃ・・・」

 レイドは声を振り絞ってそう言った。


 ソニアはいつもの表情に戻る。

「そうそう。それじゃあレイド君、またね~」

 そうして彼女は行ってしまった・・・


 しばらく廊下にうずくまっていると、ラジがやってきた。

「レイド君? どうしたんだ?」

「ラジ・・・ さん。ソ、ソニアさんに・・・」


 ラジはある程度把握したようだ。

「そうか・・・ ソニアは、怒ると怖いんだ・・・ ものすごく気持ちは分かる」

「そ、そうですか・・・」

「ま、まあ・・・ 大変だとは思うが、強く生きるんだぞ?」


 そして、ラジは後味悪そうにその場を去ってしまった。

(どうすれば、エレーヌと会えるだろうか・・・)


 部屋に籠りきりでは、思うように会うことが出来ない。

(こういう時こそ、カインに聞いてみるか・・・)


 レイドは何とか立ち上がり、カインを再び探し始める。

 厨房に立ち寄ってみたところ、ちょうどカインが裏口から帰ってきたところだった。


「おっす、レイド様。どうしたんだ? そんなに顔を悪くして」

「ああ、カイン。実はな・・・」

 カインにもことの顛末を話す。


「ぎゃはははははは!!!! バッカじゃねえの! いくら婚約者の前だからと見栄を張ってさ!」

「くっ・・・ そして、どうやって謝ればよいか分からないんだ・・・」


 カインは笑うのを止めて、しばらく悩み始める。

「・・・じゃあさ、一旦覗いてみるか?」

「覗くって、何を?」

「もちろん、エレーヌの部屋だよ」


「はあ? 第一、どうやって?」

「俺はな、ロイクの兄貴から弓の扱い方を学んでいるんだよ。それの一環で偵察もできるのさ」

「何? こんな一瞬で?」


「まあ、俺には才能があるんじゃないか?」

 カインはまんざらでもない顔をしている。


(本当にできるのか・・・?)

 カインの言っていることについては半信半疑だが、今はそれにすがるしかない。

 レイドはカインの提案を呑むことにした。


「おっしゃ、じゃあ今すぐに行こうぜ」

「お、おう・・・」

 そして、レイドとカインは庭に出たのだった・・・

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