第23話 戦いの夜明け
「で、エレーヌの部屋はどの辺りにあるんだ?」
「ええと・・・ 多分この窓だと思う」
そう言って、レイドは東側から2番目の窓を指さした。
「ここか。じゃあ早速近くの木に登ろうぜ!」
「・・・本当にばれないんだろうな?」
「大丈夫だって、おそらくな!」
自分の不器用さでなかなか謝れないレイドと、自分が得た能力を早く使いたくて仕方がないカインが合わさり、実に奇怪な行動に出てしまっていた・・・
レイドとカインは木の枝の上に足を乗せると、なにやらカインは双眼鏡らしきものを取り出した。
「これで遠くのものも見ることが出来るぜ」
カインは双眼鏡を使い、エレーヌの部屋を覗き始めた。
「しめた。カーテンは閉まっていないようだな・・・」
「おい、何が見えるんだ?」
「待て待て、そう急かすな・・・ お、出てきたぞ」
「おい、見せてくれ!」
カインから双眼鏡を手渡される。
双眼鏡で覗いた先には、寝間着姿のエレーヌがいた。おそらく今起きたばかりなのだろう・・・
怒りは収まっているかどうかなどを観察していると、エレーヌが動き出した。
エレーヌはいつも着ている魔導士のローブを持ってきた。そして寝間着を脱ぎ始める・・・
(ちょ!? き、着替え始めて!)
動揺したレイドは足を踏み外し、落下してしまった。
「うわああ!!」
「ど、どうしたんだよレイド!」
そしてレイドは地面に激突してしまった。
「痛ってえ・・・」
「お、おい・・・ 大丈夫か?」
(不味い・・・ 不味いぞ・・・ もし、エレーヌにこのことがばれていたら・・・)
レイドの顔はみるみる青ざめる。
居ても立っても居られず、レイドは屋敷の方へ全力疾走していった。
「いったい何を見たんだよ・・・」
呆然と立ち尽くすカインだった・・・
その頃のレイドは、エレーヌの部屋に向かって走っていた。
「ああ・・・ どうしよう!」
後悔と焦りが垣間見える。
ついにエレーヌの部屋にたどり着く。ちょうどエレーヌも部屋から出てきた頃だった・・・
「「あ・・・」」
レイドとエレーヌは共に固まる。非常に重い空気が場を支配していた。
「レイド・・・」
先に口を開いたのはエレーヌだった。
「先ほどは、つい怒ってしまってすいません・・・ ちょっと興奮気味だったようです・・・」
レイドはエレーヌが言い終わらないうちに、ものすごい勢いで土下座をした。
「申し訳ございませんでしたっ!」
「れ、レイド? どうしたんですか・・・」
エレーヌは突然の床を擦りつけながらの土下座にとても動揺している。
「すみませんすみませんすみませんすみません・・・」
「もう大丈夫ですから! 頭がおかしくなったんですか!」
「ひ、ひぃ!」
「レイド!?」
・・・紆余曲折ではあったが、なんとか謝ることが出来たレイドだった。
その日の晩・・・
久しぶりに、バイセン家総員での夕食会が開かれていた。
「そうなの~ ちゃんと謝ることが出来たのね~」
ソニアがニコニコ顔で話している。
「だから、レイドはあんなにおかしな様子でしたんですね・・・ 母さんに締め上げられていたんですか・・・」
(言えない・・・ まあ、完全に見てはいないからセーフかな?)
エレーヌは良いように勘違いしてくれたようだ。
「くそ・・・ 仲直りが早すぎるじゃないか・・・ これじゃ分断作戦が台無しだ・・・」
ロイクはいつも通りぶつぶつと訳の分からないことを呟いている。
「・・・ごほん。それで、エレーヌ。レイドの実力はどうだったんだ?」
ラジがエレーヌにそう問う。
「・・・そうですね、レイドはジャイアントベアの弱点を見極め、的確に攻撃する冷静な判断力があります。ただし、チームワークには乏しいようですが・・・」
エレーヌがそう話し始める。レイドは長い間、一人で戦ってきた。まだまだ仲間というものが理解できていないのだろう・・・
「戦闘力自体は、なかなかのところまで到達していますね。どうやらレイドの持っている剣は、条件次第で魔術を跳ね返せるようで、全距離対応の剣士になりそうです」
「ふむ・・・ 魔術を跳ね返す剣か・・・」
ラジはレイドの方を向いた。
「レイド君、君の持っている剣は私たちが見たことも無い性能をしている。その剣、大切に扱うんだぞ」
「見たことも無い性能・・・ ですか」
(コレル子爵はとんでもないものを渡してくれたんだな・・・ 盗まれないようにしないと)
そう決心するレイドであった・・・
「はいはい~ 難しい話は止めて、早くご飯を食べましょうねえ~」
ソニアがポンと手を叩く。
そうしてしばらくの間、レイドたちは談笑したのだった・・・
・・・時は過ぎ、夕食会も終わったころに、ラジとロイクが立ち話をしていた。
すっかり暗くなり、2人の間には不気味な空気が漂っている・・・
「ロイク。"黒き獣”について、何か進展があったか?」
「いいえ、奴らは未だに勢力を広げています・・・ いずれアミアンにも魔の手が迫るのは確実と言えるでしょう・・・」
ロイクが険しい顔で話す。
「そうか・・・ 万が一の時の為に、今回は家族総員で対応に当たることにする。ロイクには、レイドとカインの育成を続けてほしい」
「はい、もちろんです」
「・・・すごく悪い状況だ。私たちはエレーヌの護衛についてやれそうに無い。恐らく、レイドがエレーヌの護衛となるだろう・・・ レイドにそのように伝えておいてくれ」
「・・・分かりました。それが、エレーヌの為になるのならば」
運命の日は、もうそこだ。
〜あとがき〜
ついに、運命の戦いが始まります! レイドの行く末が気になる方や、これからの展開が気になる方は、是非、御評価(★や♡)をお願いします!
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