第13話 バイセン家にて

 レイドはラジに迎え入れられ、館の中に入った。

 簡素な装飾だが、手入れが行き届いている。


「レイド君、とりあえず夕食ができるまで、エレーヌの手伝いをしてほしい。詳しい話はそれからだな」

 ラジはそう言う。


「分かりました。とりあえず仕事内容を片付けておきますね」

「うむ。では、そこら辺の話はエレーヌに聞いてくれ。私は良く分からないのでな」

 そう言うとラジはどこかへと行ってしまった。ロイクもラジによってどこかへ連れ去られてしまったので、今はエレーヌと二人きりということになる。


「「・・・・・・」」

(気まずい・・・!)

 お互いに目を合わせず、なんとなくそこに立っている状況が続いている。


 思い切って話しかけてみようか。レイドはそう考える。

「初めまして、レイド・フォン・ユーラルです。よろしく」

 そうして、レイドは握手をしようと手を前に差し出した。


「・・・エレーヌ・バイセンです。私はあまり家内の人以外と話したことが無いので・・・」

 エレーヌが細々と話し始める。彼女は魔導士のローブを身にまとっており、杖をもっている。


 そして彼女は、杖を前に出す。

(まさか、杖と握手をしろってことか・・・!?)

 レイドが戸惑っている間に、時間がどんどん流れている。そのまま何もすることなく、気まずい雰囲気になる。


「ひ、ひとまず執務室の方へ案内します。ついてきてください」

 エレーヌが重い雰囲気に耐えかねて口を開く。


「あ、はい・・・ そうですね」

 人見知り全開のレイドとエレーヌ。彼らは執務室へ向かうのだった。


「着きました。ここが執務室です」

 2階へ上がり、30秒ほど歩くと執務室に着いた。

 エレーヌは扉を開ける。


 中には、山積みになっている書類で溢れかえっていた。

「うわ、すごい量・・・」

 レイドは思わず口に出してしまった。


「私以外にやってくれる人がいないんですよ。メイドも含めて戦うことにしか目が無いので・・・」

 エレーヌは困った顔をする。 


 レイドはひとまず机にある資料を手に取り、目を通し始める。

「よし、まずは机の上にあるものから片付けていきましょう。エレーヌさんと半分に分けます」


(本当にできるんでしょうか・・・? 確か、彼の実家から役立たずと伝達が来ていたのですが・・・)

 エレーヌは疑問に思うのだった。数時間後、彼女は驚愕な真実を目の当たりにすることになる・・・


「よし、終わった。エレーヌさん、手伝いましょうか?」

 レイドが立ち上がり、話しかけてくる。

(な!? まだ数時間しかたっていないというのですよ!?)

 エレーヌは驚愕する。見た感じ、本当に終わらしているのだ。


「あ、少しもらっていきますね~」

 そう言ってまた作業に取り掛かってしまった。

「あ、ありがとうございます・・・」

 エレーヌは、レイドにお礼を言ったのだった。


 また少したったのち、レイドたちは机の上にある書類を全て片付けることが出来た。

「ふう~ 終わった~」

 レイドはのびをする。


「レイドさん、手伝ってくれてありがとうございます。私より数倍速かったですね・・・」

「これくらいしか特技が無いんですよ・・・」

 レイドはあきれたように言う。


「では、報告しに行きますか・・・」

 エレーヌがそう言って立ち上がったが、やがて立ち止まった。


「は、放せ! エレーヌが、可愛い妹の危機だ! 僕は守らなければいけないんだあ!!!」

 ドアの向こうからロイクが叫ぶ声がする。

「はいはい~ お話は向こうでしましょうね~」

 恐らく、母、ソニアがロイクを引きずりながら連行している最中だ。


「も、もう少しここに居ましょうか・・・」

 エレーヌは大きなため息をつくのだった。


 エレーヌは再び席に着く。 

(よし。何か話をふってみよう)

 レイドはそう決心する。


「エレーヌさんは、魔導士なんですか?」

 レイドはそう質問する。


「・・・はい。そうですね。戦闘時には魔導士として戦っています。魔導士は貴重なので」

「へえ、うらやましい限りです。私は魔力が無いのでね・・・」 

 レイドは自嘲したように笑う。


「その演算の速さ、魔導士ならおそらく一線級でしょうに・・・ 惜しいですね・・・」

 エレーヌがうらやましそうに話す。

「演算の速さが、魔術に関係するのですか?」


「はい、強大な魔術になるほど複雑な演算を処理しないといけません。私は生まれつきの魔力の多さを生かしてカバーしているんです」


「そうなんですか。よければ、速く演算する仕方を教えましょうか? あれにはコツがいるんです」

 レイドはそう提案する。


「!! 良いんですか! ぜひ、教えてください!」

 エレーヌが食いついてきた。よし、これで彼女と話す機会が増えた。


「はい。お任せください。 ・・・そろそろ、行きましょうか」

「そうですね、では、付いてきてください」

 レイドはエレーヌに連れられ、夕食の場所へと向かうのだった。 

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