第4話 黒き怨念

 レイドはそのまま歩き出し、税庁へ向かう。採用されるかどうか分からないが、今求人しているのはそれくらいだ。

 そのまま歩き続け、建物の前まで来た。

 豪華な石造りだが、やはり人気はないようだ。レイドは重い石扉を開けた。


「失礼します・・・」

 施設の中に入る。中には職員が数人いるが、机の数を考えると、出勤している人は相当少ないことが分かる。

「こんにちは、ここはコレル領税庁です。ご用件はなんでしょうか?」

 男性の職員がレイドに話しかけてくる。


「こんにちは、経理の求人を見てここまで来ました」

「!? それは本当ですか! 今人手不足で火の車だったんですよ!」

 人手不足か・・・ 大半の施設の職員はもう・・・


「えー、レイドさんですね。13歳と。経理はしたことがありますか?」

「はい。大丈夫です」

「では今すぐにでも採用しましょう。もう期限が近いですから。はい、これは契約書です」


 ふむふむ、日当銀貨25枚+ボーナスか。かなり高給料だ。これなら1週間で十分な金がたまるだろう。

 レイドは契約書にサインをする。

「レイドさん。これからよろしくお願いします。私は庁長のモーリスです。短い間ですが、共に頑張りましょう!」

 そういって、モーリスはレイドと握手した。


「では、貴方の臨時の席を与えましょう。どこでも良いですよ」

「・・・もともといた職員はどうなったのですか?」

 レイドは問う。

「・・・ほとんどの職員は、謎の病に犯されてしまったか、家族がその病にかかってしまい、その看病で休んでしまっています。 なんせ緊急事態なんでね、こうして追加の職員を採っているのですが、貴方が初めての人です」


 モーリスは顔を歪めながら話す。

「どうも、体が段々不自由になるらしいです。中には、黒くなった部分が急に暴れだしたとか何とか・・・」

 なんともおぞましい話だ。この街を早く出ていくことが賢明だろう。

 

「さて、雑談はここまでにして、いまから貴方に仕事を与えましょう。今から関税の集計を行ってもらいます、統計の作り方も同封しておいたので、そちらをご参照ください。これで、貴方が働ける人か判断します」

 さすがはリヨン。商業の中心地なだけあり、関税が大半の収入になっているな。最近は無いようだが・・・ 資料を見て思う。


「任してください。仕事はしっかりしますよ」

「その意気です」

 レイドは、人生初の仕事を行うのだった。


「・・・・・・」

 モーリスはレイドがとても優秀なことに気付いていた。

 彼が来てから2日目、とんでもない速さで仕事を片付けていく。

「モーリス庁長。レイドさんって何者ですか? 新人とは思えないですよ! トップ成績を狙えるほどです!」


 今モーリスに話しかけてきたのは同じ職員のアンヌだ。

「ええ。彼はとても優秀な人材です。でも不思議ですね、なぜ彼ほどの人がこんなところまで出稼ぎを・・・?」

 モーリスは彼の出自を疑っていたのだ。

 

「終わりました。ではこれで・・・」

 仕事終わりのレイドが話しかけてくる。

「お疲れさまでした。また明日」

「お疲れ様ー レイドさん」


 レイドはそそくさと出て行ってしまった。

(彼は絶対に何か事情を抱えているのでしょう。リヨンを害する者でなければよいですが・・・)

 モーリスに不安がよぎった。


 ~宿屋にて~


 レイドたちは安宿で寝泊まりをしている。

 もちろん、カインと一緒だ。

「カイン。仕事の調子はどうだ?」

「おう。ある厨房には入れたんだが、やっぱり人手が足りない状況だな」

「もうこの街は持たない。東の要所が無くなるとバイセン家に影響が出るな・・・」


「仕方ねえんじゃないの。俺らにできることは無いしな」

 病気の原因すら分からない今、どうすることもできない。

「それもそうだな。そろそろここを出よう。おやすみ」

 おっと、カインはもう意識が無いようだ。俺も寝るか・・・

 レイドは眠りについたのだった。


 

「・・・あ・・・す・・・」

 何か話し声が聞こえる。


「なんてことだ・・・」

 荒廃し滅んだ街を男が眺める。

 誰だ・・・ こいつは?

「リヨンの人々は皆 "黒き人” になってしまったらしいの・・・ 痛ましいわ」

 隣にいた女が言う。

 

 リヨンの外壁は崩れ、荒廃した街には全身真っ黒の人々がうごめいている。

 あの病気と一緒だ。まさか、これはリヨンの未来を映し出しているのか・・・?

「話によると隣領のバイセンもひどい有様らしい・・・ 苦しんでいる人々を解放するんだ。さあ、行こう、エマ」


「ええ、フィリップ」

 そして彼らはリヨンに向かう・・・

 

 どうやらこの2人組はフィリップとエマというらしい。こいつらは何者だ? 2つほど年上に見えるが・・・

 すると"映像”が途切れ、辺りに色が無くなる。


 どこからともなく声が聞こえてくる・・・

「レイド・・・ あなたはリヨンを見捨てようとしていますね。これでは "前” の貴方と同じ運命をたどってしまいます・・・」 

 前・・・? 一度目の俺のことか?


「レイド、リヨンの街を救うのです!それが貴方の生きる道、そしてエレーヌが助かる道なのです!」

 またこの声だ・・・ 全く話についていけない。

 お前は・・・ 誰だ?

 また、何かに飲み込まれていく・・・ わけが分からないまま、レイドはまた、意識を失うのだった・・・

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