第3話 リヨンでの試練 序
レイドたちはマリー隊長と別れ、リヨンを目指した。
「なあレイド様、俺たち結構やばくないか? 食料も奪われてしまったよな」
カインが顔を青くして言う。
「確かに、早く手を打つ必要があるな・・・」
幸い、路銀は奪われてはいない。村で食料を分けてもらえるはずだ。
結局レイドたちは食糧確保のため1日中走るはめとなってしまった。
食料は手に入ったが、路銀も半分を切ってしまった。
このままバイセン家に着けるのだろうか・・・
レイドたちの先行きはまだまだ暗いままだ。
~リヨン関所にて~
レイドたちは関所近辺に着いた。
リヨン、東方の大都市。しかし、外から見た感じ、人気が全くないことに気が付いた。
「俺たちはここで金を調達する必要もある。リヨンに入るぞ」
「リヨンで働かないといけないとかとんでもねえな・・・ もう疲れたぜ」
カインは文句を言っている。でもそれしか道が無いことを分かっていた。
全く人気が無いが、さすがに詰め所には兵士がいるようだ。
兵士が近づいてきた。
「君たち! 旅のものか!」
「はい。バイセン領へ行くためにここを経由しに来ました」
「そうか・・・ 悪いが最低限の生活物資の搬入しか認めてない状況なんだ、ここより南方の都市で待機するか、森に入って直接バイセン領へ向かってくれないか?」
森に入ることは自殺行為だ。レイドは戦えない。バイセン領は強大な魔獣が出てくることで有名であるので、そんなことはできない。
(やはり関所を通ることは難しそうだ。マリーからもらった紙を使うか)
「あの、これは使えますか?」
兵士はレイドが取り出したマリーからもらった紙を覗く。そして、顔色を変えた後、詰め所に戻った。相談しに行ったようだ。
しばらくして、兵士数人がやってきた。そして話しかけてくる。
「旅の者、これが他人の物ではないことは確かだな? 今から確認する」
「はい。構いません」
兵士は何やら魔道具を取り出したようだ。そして紙にかざす。
これは盗品ではないか確認する魔道具だ。物体に付着している指紋を確認し、判断するものである。
「うむ。確かに君のものだな。リヨンへ入ることを特別に認めよう」
「ありがとうございます!」
兵士の顔が急に険しいものになる。
「だが、順守してほしいことがある。それは、"流行り病"にかかったら治るまで出領を認めないこと、そして、今のリヨンを外に漏らさないことだ」
(流行り病? それだけで関所を封鎖するはずがない。何が起きたのだろうか?)
レイドは、自らに降りかかるであろう死の運命の予兆を感じながらも、リヨンに入ることにした。
(すべては、俺が生き残るためだ)
~詰め所にて~
「さっき入ったあの旅の者、どうも普通じゃない感じがする」
一人の兵士がこう話す。
「マントでよくわからなかったが、かなり高貴なところで育った話し方だった」
「まさか・・・ 他領からの工作員?」
また一人、こう話す。
「奴の素性を調べるんだ。そして、リヨンを滅ぼさんとする犯人を見つけるんだ!」
「「「はっっ!!」」」
果たして彼らは出稼ぎの貴族など信じられるだろうか?
~リヨンにて~
レイドたちは、リヨンについてすぐに仕事を探すことにした。
「カインは確か、料理人だったよな。仕事、見つかりそうか?」
「それが、ねえんだよ。さすがのリヨンでもこんな感じでは仕事が無いのもうなづけるよな」
「そうか、まいったな。幸い俺は税収などの経理の臨時募集にかけることにする。計算はできるからな」
カインは、ユーラル家時代にも領の経理を担当していた。全く認められることなんてなかったが。
「げぇ、それの何が楽しいんだ?」
カインは苦い顔をしながら言う。
「楽しい? お前は仕事をしていると楽しいと感じるのか?」
「当たり前よ。俺が作った料理を食べて喜んでいる人を見るのが、仕事のやりがいを感じるときだよなあ」
レイドはそうは思わない、どんなに知識を身に着けても、ただ機械のように働かされるだけ。感謝などされたこともない。
(何を言ってるんだ、それは金にならない。仕事は金のためにやるんだ)
レイドは、感謝されることを知らない。誰かの為に仕事をする、という発想がまず浮かばないのだ。
「ひとまずは、仕事先に行ってみることにする。カインは後で合流だ。仕事、見つけて来いよ」
「おうよ、早くこの街から出たいからな!」
カインはそういって、腕を見せる。
「集合先は、リヨン領税庁でいいか?」
「お前の仕事先じゃねえか、まあいいぞ」
レイドとカインは別々のことをしに、別れることにした。
「さてと、行くか」
レイドはリヨン領税庁へ歩みを進める。
それにしても、人が全くいない。流行り病と言っていたが、どんな症状だろう。
「助けてください!! 夫が、夫が・・・」
女性の声がする。
「私たちも原因がわからないのです・・・ どう治療するのかも・・・」
そう医者と思われる男性が言う。
「そんなぁ・・・ どうすればいいの!」
女性は泣き崩れる。 その傍らには、夫とみられる男性がいた。立ててはいるが、左腕が真っ黒ではないか! 何かに蝕まれている? こんな病気、見たことない・・・
「左手がもう動かない。だんだん広がってきているんだ・・・」
「まあ、まだ死亡者はいないですし・・・」
「こんなの、いずれは死んでしまうだろ・・・」
男性は顔を伏せる。よくないものを見てしまったな。
何かの呪いの一種かもしれない。このまま放置していると、街が滅んでしまうだろう。
まあ、俺にはまだ関係のないことだ。最悪俺が生きていればそれでいい。
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