34 エピローグ
奏人くんにも、お兄さんにも。生きて会うことは叶わなかった。
予感めいたものがあり、普段は読まないニュースサイトを開いたら、二人が転落死したという記事を見つけてしまった。
それから何日かして、山中で男性の遺体が見つかり、それが彼らのお父さんだったということもわかったけど、ただの友人……いや、知人止まりだったのか。そういう関係でしかなかったあたしが知ることができたのは、そこまでだった。
奏人くんたちが亡くなった場所に行ってみたけれど、何も感じることはできなかった。きっと、何の未練もなかったのだろう。
あれから、奏人くんと過ごした日々を繰り返し思い出すのだが、どこかでもう少し踏み込んでおけば、と悔やむばかりだ。
あの日、お兄さんと鉢合わせて、絶対にまずいことになっていると彼の顔を見てわかって。奏人くんには何度も電話をかけたし、家にも行ったけど、あの時点ではもう遅すぎたのだ。
大学を卒業する間際になって、再び奏人くんの家に行ってみると、表札が変わっていた。他の人の手に渡ったみたいだ。
忘れた方がいい。彼らのことは。
そう思うのに、たまに考えを巡らせてしまう。奏人くんの家に何があったのか。どんな苦しみを抱えていたのか。
あたしはどんどん年を取った。もう、奏人くんのお兄さんより年上になっただろう。周囲が既婚者になっていく中、あたしは一人で暮らしている。やはりあたしは誰かと恋愛をできるタイプではないらしい。
それでも、子供と関わる仕事をしたいと思うようになったので、新卒で入った事務の仕事をしながら保育資格を取り、保育園に転職した。
毎日は充実している。平日は子供たちの賑やかな声に囲まれ。週末は一人でショットバーに行き。あたしなりの、ささやかな幸せを味わっている。
人は日々生まれ、そして死んでいく。生き物として、ごく自然な営みなのだ。
それでも、奏人くんとお兄さんには、ああいう道を選んで欲しくなかった。それが正直なところ。あれが二人の最善の手だったのかどうか。それは、本人たちにしかわからないのだろう。
次第に、奏人くんの顔もハッキリと思い出せなくなっていた。あたしが死ねば、彼らのことを覚えている人もこの世界には居なくなるかもしれない。
でも、きっとそれでいい。ここで閉じてしまおう。彼らの物語を。そうして忘れ去られることも、一つの在り方だから。
了
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