騎士念慮

小狸

短編

 白馬に乗った王子様がいつか私の下に駆けつけてくれるとか、周りみたいに勝手に結婚相手が現れてくれるだとか、そうでなくとも自分はいつか独身ではなくなるとか。

 

 そんな思いを今まで一度も抱いたことが無いと言えば、嘘になる。


 ただ、何となく結婚願望はあった。


 それを行動に移さなかったというだけで。


 いつか誰かと結婚して、子どもを作って、育てて、おばあちゃんになって、孫の姿を見られて、そんな像の結ばないぼやけた将来像に寄り添って、何となく生きていた。


 結果、後悔した。


 白馬の王子様は現れなかったし。


 結婚相手は出来なかったし。


 私は独身のままだった。


 機会が全くなかったというわけではない。


 これでも学生時代には、何度か男子から告白された経験がある。

 

 顔に対しても、身体に対しても、強い劣等感コンプレックスがある訳でもない――自信がある訳でもないけれど、まあ何事も過剰は良くないだろうと思って、適当に流してきた。


 交際相手がいたこともあったけれど、何となく長続きしなかった。相手は真剣に結婚を考えて――というか当時の私からすれば「迫られて」きたけれど、私は拒絶した。


 結婚する――ということは、ある種自由を失うということでもある。


 ある程度の時間、自由が拘束される。


 別に男遊びや、男性をとっかえひっかえしたりするわけでもないけれど、と思ってしまったのである。


 その中には、結構好条件の男性もいた。


 どうしてあの時の私は、彼らの言葉を袖にしてしまったのだろうと、今の私は思う。


 いや、失礼か。


 思えば私は、交際まではできても、その先、婚約や結婚、家族の話について、真剣になることができていなかった。


 男性たちは、真剣に考えてくれていたのに。


 私は、何だか良く分からない理由で、何となく気が合わないとかそんなどうでも良いような理由で、拒否してしまったのである。


 そして結婚適齢期を過ぎて、そこからは一気に、男性からの誘いは無くなった。


 独身だった同期や、学生時代の友人たちも、その頃までには結婚していて、子どもがいるご家庭もあった。

 

 いや、兆候が無かったわけではない。


 友人たちの結婚式に招待されるたび、幸せな空間を喜ばしく感じながら、私も色々考えねばなあ、とか、そんな他人事みたいに考えていた。


 そう、他人事だったのである。


 誰かがどうにかしてくれるだろうと、思っていたのである。


 私の人生の主人公は、私だというのに。


 そこが私の間違いだったと、後から知ることになる。


 まあ、もう遅いのだが。


 こうして、実家暮らしの独身女性が出来上がった。


 今は多様性の時代である、独り身であること、おひとり様はマイノリティではない。


 しかし、周囲の結婚している人達を見ると、どうしても思ってしまうのである。


 結婚したい、と。


 恐らくこれは、生物としての本能に近いものなのだろうと思う。


 種を残したいという、本能。


 強く子どもが欲しいとは思わない。


 まあ、毎月苦しめられてきたことが報われるのは良いとは思うけれど、それでも出産と聞くと、少し覚悟が必要である。


 覚悟――ねえ?

 

 高齢出産にはリスクもある。


 そして男性側は、どちらかというと子どもを作りたいと思う人が多いのだそうだ。


 だったら今、行動するしかない。


 それでもしないのが、私という人間なのだが。


 結婚相談所や婚活アプリなどの使用も考えたけれど、出会い目的や、身体目当ての輩が多いと聞いて、どうも辟易してしまった。


 結局。


 自分からは動かない、自分では考えない、自分では決めない――でも、どこかに良い男性がぽっと現れないかな、と、性懲りもなく期待している私がいる。


 どうにかしたいけれど、これが私なのだから、どうしようもない。


 こんな私を受け入れてもらえるとは到底思わないけれど、結婚は何となく諦めきれない。


 こうして、こんな風に、こんな具合で。


 私、斜原はすはらみずの人生は。


 今日も、何となく、どうでも良く消費されてゆく。




(「騎士きし念慮ねんりょ」――了)

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