勇者は最後にー何を望むか?ー

宮川祭

勇者の始まり。

 頭に生えた真っ赤な二つの角がきらりと反射している。

 目の前にいるのは人間と同じような容姿をした魔族の王カノ。


 魔王城は、半壊。

 月明かりに照らされ黒光する鎧を身に纏っているが、ところどころ鎧が剥がれ傷だらけの灰色の肌からひどく出血している。

 欠けた鎧の頭から緑色の眼が見えた。

 こちらを強く睨んでいるようだ。

 頭が痛むのだろうか?片手で頭を抑えていた。

 ゼェゼェゼェと肩で息をしている。まだ倒れはしないと魔族の意地からくるものだろうか?


「私は、ここで負けるわけにはっ‥‥‥!」


 俺はもう少しで魔王を倒すことができるかもしれないと思っていた。


 しかし俺たちも限界を迎えている。後衛に「大丈夫か?」と声をかけるが返事はない。

 地面に刺した剣を、杖代わりとして一人立ち上がる。


 身体中が痛い。肋骨の二、三本は折れているかもしれない。目が霞んで前がよく見えない。

 瞼が重く呼吸を整えようと多くの酸素を吸い込もうとするが苦しい。


 

 いまにも倒れそうだ。



 ちょっとずつ空気を吸い込んでは、吐いてを繰り返しいくにつれて気持ちが落ち着いていくのを感じるとゆっくり魔王に向けて剣を向けた。

 カタカタと手は震え、柄がカチャカチャと音を鳴らす。今にも剣が手からこぼれ落ちそうなのを必死に掴んでまだ負けていないことを表す。


 俺は、歯を食いしばり声を上げる。


「がああぁぁぁぁぁ!」


 大気が揺れる。


 ふと、倒れていたパーティメンバーが俺の声で目を覚ますと俺に最後の力を注ぎ込んでくれる。


「ミノ、頼っ‥‥‥」

「あとは託し‥‥‥たっ」


 蛍のような光がぽつぼつと俺の身体の周りに集まると一つになりピンポン玉のような球体に

 なったあとに身体の中央に向かって飛んでくる。

 魔力の球体を取り込んだ俺は身体強化と回復補助がついた。

 後ろを振り返ることなくただ小声で「ありがとう」と言う。


 俺は仲間に背を向け地面を蹴りつけて走り出す。

 カシャ、カシャと音を鳴らしながら足に装着した防具が揺れる。

 心臓がゆっくり、どくん、どくんと跳ね上がるのを感じた。


 しだいに、景色がスローモーションになっていく魔王の動きが遅くなっているのか?


 それとも俺はもう限界なのか?


 ゆっくり、ゆっくり、魔王と俺の距離は近づいていく。


 呼吸は荒く、口から鉄の味がする。

 ふたたび歯を食いしばり手に力を込めて魔力を剣に流し込む。


 もう一歩。一歩。

 決着をつけるべく前に進み続ける。


 この一撃に全てをかける!!


 一瞬のスキを見せた方が死を確定することになる。


 平和か絶望か。

 勝利した者が手にする未来の世界。


 互いに剣の間合いに入ると一瞬の探り合いが行われることになった。

 魔王の剣は素早く俺の首元をスレスレで届かずに魔王は体制を崩し始める。限界を迎えたスキを見逃さなかった俺は剣を振りかざして魔王に止めをさす。



 魔王を倒したあと、突然に黒い影が俺の中に入ってくる。必死に振り払おうとするが消えることはない。


 すっと消えた影。

 なんともない?魔王の呪いなのか?


 人類は魔族から勝利を得たのだ。


 これは勇者の始まり。


 そして俺は最後に何を望むか?




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