第5話 僕の創作遍歴⑤~新たなる境地への挑戦~
二年前、それまで「カクヨム」などネットで作品を発表し続けていた僕は、初めて地元の文学賞に作品を出しました。
最初に応募した作品……それは、カクヨムにも掲載している「『風見鶏』で待ってます」でした。
この時点で、僕はまだ完全オリジナル作品を書いて応募しようとは思いませんでした。これまでネット小説サイトにどっぷり嵌っていた僕にとって、果たしてどのような作品を書けば文学賞になじむのかよく分からず不安があったし、書き上げる自信もありませんでした。そのため、今まで書いた作品の中から、文学賞の趣旨に一番近そうなものをピックアップし、多少改稿して応募しようと思いました。
「風見鶏……」は、地方都市の過去と現在を舞台としており、都市の片隅に暮らす人達の人間模様にスポットを当てた物語であることから、応募する文学賞に一番馴染みそうな感じがしたので、まずはこれで勝負しようと心に決めました。
ただ、原作そのままでは出せないので、ある程度手を入れ、加筆し、公募になじむように仕上げました。
問題は、作品の文字数の少なさ、そしてちょっとこじつけ感のある物語展開でした。
文字数については、応募作品の条件は、一枚千六百文字の原稿八枚から三十枚までとなっており、原作のままでも文字数は一万文字程度なので必要最低限の枚数はクリアしていました。しかし、原作のままでは文字数が少なすぎるし、物語もどこか薄っぺらさがあると感じ、ある程度肉付けをして、出来るだけ作品の重厚さと完成度を上げるようにしたのですが、どんなにがんばっても一万五千字位程度にしかなりませんでした。(当該文学賞の過去の受賞作を読むと、条件として出された枚数の上限ギリギリまで書いているものが多かったです)
また、ちょっとこじつけた感じのする後半部分のお話について、もっと自然な展開にできないのかと、結末に至るまでの途中経過やエピソード的な部分を新たに盛り込むなど、色々試行錯誤してみました。
しかし、この作品に登場するお店は実在のものを参考にしており、街並みや時代背景も実体験を元にしていたことから、無理やり架空の物語を作り上げて継ぎ足していくうちに、これはちょっと実物と違うよなあ、これは原作と繋がらないよなあ、これは作品の雰囲気をぶち壊してるんじゃね?……などなど、頭をひねることが多くなりました。
そんなわけで、「風見鶏……」をこのまま提出することに徐々に不安を感じるようになりました。
締め切りまでの日付は迫っており、作品としては一応形が出来ていたので、ひょっとしたら、細かいことを抜きにしてこの作品に目を向けてくれる審査員がいるのでは? という淡い期待を持って、それ以上作品をいじらず応募することにしました。
初めての応募の結果は……残念ながら落選でした。
過去の作品をほんのちょっと改稿した程度では認められるわけがない……僕はようやく自分の考えの甘さに気づきました。
その後僕は、文学賞向けの作品を書けるようになるために、地元で行われた文章講座に参加して、小説の作法など基本的なことをこつこつと勉強しました。
努力の甲斐があったのか、直後に行われたカクヨムコンやKACで発表した作品たちは、それなりに好評を得ました(「サンタクロースが教えてくれたこと」、「五十歳の約束」、「しあわせ書房」など)。
「あ、これならいけそうかな?」と自信を得た僕は、勢いそのままに文学賞に向けたオリジナル作品を創り始めました。自分の経験や知り合いの体験談などをもとに、練りに練った物語でした。大まかなストーリーは、以下の通りです。
——2010年代前半、東京郊外の町で暮らす一人の女子大生が、今の現状に満足できず「自分の居場所」探しを続けていた。
そんなある日、女子大生は東日本大震災の被災地から母親とともに避難してきた少女と出会った。人間不信に陥っていた少女は最初心を閉ざしていたものの、女子大生の優しさに触れるうちに次第に心を開き、お互いの本音を包み隠さず話し合える仲になっていた。
少女の母親は見知らぬ土地での避難生活の孤独感から、少女を一人家に残して不倫相手と夜な夜な遊んでいた。少女はそんな母親を憎悪し、避難元で暮らし続ける父親との再会を望んでいた。女子大生は少女の気持ちに触れるうちに、自分で何かできることがないか、模索を続けた。
ある日、少女の両親が好きなミュージシャンのライブ開催を知った女子大生は、両親が復縁するきっかけを作ろうと、内緒でチケットを購入し、ライブ会場で二人を再会させる作戦を立てた。作戦は見事にハマり、少女の両親は復縁した。
そして、この件がきっかけで、女子大生自身も「自分の居場所」を見つけていった——
作品は締切りギリギリまで推敲を続け、十分に納得したうえで応募しました。
数か月後、主催者から結果が送られてきました。
封書を開け、中から出てきた送り状に書かれた「奨励賞」の文字が目に入った時、僕は自分の目を疑いました。
そこには紛れもなく、賞の名前と僕の作品の名前が入っていました。
僕は封書を手にしたまま、気分が高揚し、顔が上気していました。
ここまでたゆまず努力してきたことが賞と認められたような気がして、嬉しくて仕方がありませんでした。
後日開かれた表彰式では沢山の人たちの前で表彰状をいただき、改めて自分の成し遂げたことの大きさを実感しました。式後に入賞に関するコメントを求められましたが、僕は緊張のあまり、今も何を話したのかよく覚えていません。とりあえず、「辛い社会を生きていく中で『居場所』があることの大切さ、心地よさ」を述べたような記憶があります(笑)。
その後も、僕は懲りずに作品を創り続けています。
文学賞への作品応募は今も続けています。今年は数か所に応募し、結果待ちですが、現在の所入賞の知らせはありません。個人の感触としては、応募した作品に前回の入賞時のような手ごたえは無かったように思います。
慢心があったのか、ネタ切れしているのか、前回は「まぐれ」で現実はまだまだ能力不足なのか……全ての結果が出揃わないと分かりませんが、ここに来てちょっと迷いが生じているように思います。
文学賞関係でコンスタントに入賞している人達の秘訣を聞き出したいですね。一人で書き続けていると、見えないこと、分からないことが多すぎるものですから。
とりあえず、今の自分でやれることは、どんなに才能が無くても、これからも「書き続ける」こと、ですね。
カクヨムも文学賞もそうですが、「カク」作業は、孤独で先が見えなく不安に駆られることが多いです。それでも、書き続ける作業を通して、自分の人生にとって何かプラスになることがあるに違いないと心の片隅で信じ、これからも懲りずに書いていこうと思います。
そうそう、皆さんも、僕の作品を読んで足りないと感じる部分があれば、どうぞ指摘してください(笑)。カクヨムで皆さんの作品を読むたびに自分の至らなさを感じていますが、では具体的にどこをどう直したらいいのか? と聞かれると、なかなか答えを見つけられなくて。
単に作品をけなすものではなく、創作上何かプラスになるご指摘であれば、今後の作品作りに活かしていきたいと思います。
(自分の作品遍歴についてのお話は、この辺りでひとまず終わりにしたいと思います)
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