第2話 僕の創作遍歴②~独り善がり~
今回も自分の過去作品の遍歴について書いてみます。
時は1988年。当時の僕は任天堂「ファミリーコンピュータ」、略称・ファミコンにどっぷり嵌っていました。
特に、社会現象にもなった「ドラゴンクエスト」シリーズなどのロールプレイングゲームや、「オホーツクに消ゆ」などの謎を解きながら進めるアドベンチャーゲームが好きで、ファミコン関係の雑誌で新作を欠かさずチェックし、気に入ったものがあれば少ない小遣いを叩いて買っていました。
その中でも、ストーリー展開の面白さにどんどん引き込まれていった作品が、任天堂のディスクシステム(ファミコンソフトのフロッピーディスク版、という表現が近いかな?)用として発売された「ファミコン探偵倶楽部・消えた後継者」でした。
最初はパッケージに描かれたおどろおどろしいイラストや、当時放映されていたテレビのCMを見て、アドベンチャーと謳いながらもどこかホラーっぽい印象があり、怖さのあまりなかなか手を出せないでいたのですが(笑)、いざプレイするとあまりの面白さについ没頭してしまいました。
物語は、探偵事務所の助手として働く主人公が何者かに崖から突き落とされて記憶を失ってしまう所から始まるのですが、殺人事件の捜査をするうちに記憶を取り戻し、その中で、自分の悲しく波乱に満ちた生い立ちにも気づいていくというものでした。
途中、土蔵に首つり死体があったり、掘り起こした墓の下に死体が埋まっていたりと、想像通りの怖い演出もありましたが、それ以上に物語の完成度が高く、謎を解くだけじゃなく物語そのものを楽しむという面でも優れた作品でした。
「ファミコン探偵倶楽部」は「消えた後継者」と「うしろに立つ少女」の二作品がリリースされましたが、その後はいくら待っても新しい作品が発表されず、「もう続編は作られないのだろうか」と思った当時の僕は、いわゆる「ロス」の心理に陥ってしまいました。
そこで僕は、このまま発表を待ち続けるのではなく、自分の手でこの続きを書いてみよう、と決意しました。パクリと呼ばれることを覚悟のうえで「
空木俊介というのは、ファミコン探偵倶楽部に登場する探偵事務所の所長で、主人公の上司にあたる方です。原作ではほんの少ししか出てきませんが、主人公の行動を見守る面倒のいい上司という印象でした。僕はこの設定をそのまま生かし、原作よりも前面に押し出す形で空木を登場させました。
ただし、実質的な主人公は、原作同様に空木の助手の少年です(原作ではプレイヤーが主人公に名前を付けるのですが、僕は彼の名前を「
そのほか、原作でも登場した同じ事務所で助手を務める「
あ、そうそう、「消えた後継者」で最後に浩一を殺そうとした真犯人(名前は、まだゲームをクリアしていない人も多いと思うので伏せました)も登場させました。真犯人は釈放後、浩一への恨みを果たすべく、「小さな名探偵」のフラッペ三世のように凶悪犯罪を繰り返しながら浩一を挑発していました。そして最後に二人は対峙し、浩一の手で真犯人は成敗されます。
こうして振り返ると「小さな名探偵」の二番煎じなところは否めませんが、ミステリーとしての完成度は「空木俊介の事件簿」の方が上かもしれません。一話完結型で、毎回探偵事務所に寄せられる依頼を謎解きしながら解決する形に仕上げました。そして気が付けば、積もり積もって計三年間・三シリーズに及ぶ長編になっていました。
ただ、この作品の難点は、全体的に「独り善がり」だったところです。「ファミコン探偵倶楽部」をプレイしたことがある人以外だと話に入り込めない所、そして一話辺りの文字数がすごく多くて読みにくいことです。唯一の読者だった僕の弟も、途中から「これ以上はムリ」と言って読まなくなってしまいました(笑)。そもそもこの作品を書き始めた動機は、好きだったゲームソフトになかなか続編が出ず、そのさみしさを穴埋めするためだったので、自分が満足できればそれで充分という感じでした。それゆえに、読んでくれるどこかの誰かのため……という視点は全くなく、ただひたすら長く、冗長になっていた面があったように思います。
思い返すと、僕が作品制作において「他者の目」を意識したのは、実は小説ではなく、漫画を描いていた時でした。
「空木俊介の事件簿」を書いていた当時、僕は趣味半分で漫画も描いておりました。タイトルは「書き下ろし」という何とも無味乾燥な名前ですが、その由来は、当時ちょうど受験勉強中で、気分が乗らない時にA4サイズの大学ノートに走り書きして仕上げた……という経緯からだと思います。ストーリーは、大学受験に失敗し自殺未遂を図った女の子が周りの協力を得ながら次第に立ち直り、最後には夢を叶えていく過程を描いたものでした。
この作品は描いた後に行方が分からなくなり、しばらくお蔵入りしていたのですが、当時漫画の同人誌サークルをやっていた弟がたまたま見つけ、「今度地元でイベントがあるんだけど、これ、同人誌として出版してみたらどうかな?」と提案してきたのです。
え、受験勉強中に気分転換に描いた作品が、まさか、一冊の本に?
生まれて初めて家族以外の人の目に自分の作品を晒すことに、嬉しさがこみあげましたが、同時に「こんな落書きみたいな雑な絵、とても他人には見せられない」という悩みにもぶつかりました。
そこで僕は、弟の指導を受けながら絵を再度きちんと書き直し、何とか出版に耐えうるものに仕上げました。こうして初めて出版された自分の作品を手に取った時は、感無量でした。書き直したといえ粗が目立ち、丁寧な絵ではないけれど……こんなにきれいに装丁してくれたんだと、しばらくは感動が収まりませんでした。
作品は弟のサークルが参加したイベントで販売されましたが、残念ながら買ってくれる人はいませんでした。ただ、弟によると、何人かのお客さんが手に取って、じっくり見てくれた、とのことでした。
この経験を通して僕は、読んでくれる人たちの視点を忘れずに自分の作品を書くようになりました。今も時々、独り善がりになってしまうきらいはありますが、数ある作品の中から僕の作品を手に取って読んでくれた人のためにも、この視点はずっと大事にしたいと思います。
さて、「書き下ろし」を出版した後、僕は就職し、仕事に追われる毎日が始まりました。漫画も小説も書けなくなり、創作意欲も全く起きませんでした。
そして二十数年の時が過ぎ、僕に再び創作を始めるきっかけが生まれました。
それが「カクヨム」との出会いです。
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