第20話



 落下するスピードが加速して、幾つもの雲の断層を一直線に突き抜けた後、ボンッという乾いた音が、巨大な空間の裾に響いた。



 空。



 空気の流れが変わる。


 傘を折りたたむように広げた手を体に密着させ、頭を下に向けていた。


 響いた音がキーンと耳鳴りを催した後、暗くぼんやりとした視界が、突然晴れ渡ったように明るくなった。


 真横から差し込んでくる眩しい光。


 ナギサは、思わず目を細めた。



 上空10000mの対流圏。


 果てしない大陸が、広大な地平線の向こうに続いていた。


 瀬戸内海の海と、緑と。


 雲の先に広がっていたのは、神戸市街地の全貌が望める絶景だった。



 「…うわあ」



 あまりの広大な景色に、つけていたゴーグルを外した。


 光。


 色。


 空気の匂い。


 何もかもが、彼女の思考を置き去りにするように輝いていた。


 ずっと、想像していた。


 どんな景色が広がっているんだろうと、夢にまで見ていた。


 ナギサは乾きそうになる目を必死に開きながら、あわぶく光の向こうに見える街を、じっと見ていた。


 声にさえならなかった。


 そこにある全ての映像が、景色が、鮮やかな色彩の中を泳ぐように泡立っていた。

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