第16話
雲の、中心へ——
ぐんぐん加速する重力。
その先端に向かって、ナギサは手を伸ばしていた。
青白い光は、常にそこにあった。
落下に伴ってすれ違っていく風の流れは、彼女の前髪を持ち上げながら、はためく服の襟を引っ張っていた。
氷の粒が、ピトッと頬に掠めていった。
雲に近づいていく度、白い靄のような気体が、うっすらと伸びた輪郭をまだら模様に広げていた。
まるで空に浮かぶ鱗雲が、段々と真下に連なっているようでもあった。
高低差を見失ってしまいそうなほどに透き通った空気と、——質感。
はるかな地平線上に続く、境界面の無い景色。
光は粒状に押し潰されながら、世界の表面を洗っていた。
泡状に融けて滲んでいく空気が、尾を靡かせる鯨のそばで、微かな光のコントラストを伸ばしていた。
ナギサは両手を広げた。
全身を使って、真下から吹く風を真正面から受けた。
強烈な空気抵抗によって、全身がバタバタと波打つ。
癖っ毛のある軽めのショートヘアーが、風の鋒を掬うように泳いでいた。
景色は少しずつ傾くように変化した。
ビルのように並ぶかなとこ雲が、巨大な輪郭を押し上げながら徐々にその体躯の曲線を膨らませていた。
秒速、50m/s。
滑空する体は、E・ゾーンの中腹へと一気に下降した。
突入してから約数分が経った頃だった。
上空を覆い尽くす青の中心で、大の字に開く彼女の体が、すれ違う光と影の境界に交錯した。
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