第10話



 ザァ


 ザザザ


 ザァーーー




 波の遠音が響いてくる。


 大阪湾の港が、はるか遠方に見える。


 この場所、この風景。


 明石海峡大橋の背の高い鉄塔が、広大な空の下に聳えていた。


 淡路島と明石市の間では、潮の流れが一段に速く、それでいてゆったりとした縞模様を伸ばしていた。


 僕たちはいつも、海の近くにいた。


 水平線を指差して、まだ見たこともない景色を探そうとして、白い砂浜の上を歩いていた。

 



 僕は彼女の背中を見て、いつか彼女みたいになりたいと思った。


 彼女みたいに、速く走りたいと思った。


 突拍子もない理由だった。


 それは、——たぶん、きっとそうだ。


 何故かそう思えたんだ。


 いつの日か、彼女の投げるストレートを打ちたい。


 大した理由は、そこにはないのかもしれない。


 だけど大切な何かが、そこにはあった。


 追いかけたい何かが、日常のすぐそばにあった。



 真夏のサイレンと白球。


 その、——すぐそばに。

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