第8話


 「過ぎたもんはもうしょうがない。こうなったら闘ってやろうやん」


 「…闘うって言ったって」


 「あんたがそんな顔してどうすんねん」


 「そりゃこんな顔にもなるやろ…」


 「情けな」


 「…なあ、別の病院に行ってみんか??もしかしたら、診断が間違っとるかもしれんし…」


 「市内で一番でかい病院なのにか?」


 「でかかろーが小さかろうが関係ないやろ。俺やって昔ヤブ医者に引っかかったことあるし」


 「あのオンボロ病院のことか?残念やけど、それとは話が違うで」


 「せやけど…」



 どうしても信じられなかった。


 先生の言葉を疑うわけじゃなかった。


 心のどこかではわかっていた。


 だけどそれ以上に、整理できない気持ちがあった。


 全部嘘だと思いたかった。


 それは、今もだ。



 「あんたいつも私に言うとったやろ。マウンドで困っても、逃げる場所なんてない。ミットを構えるから向かってこい、って」


 「ああ?」


 「困った時はストレート勝負。あんたが教えてくれたんやで?逃げずに、立ち向かうことを」



 彼女は海を向いたまま、そう言った。


 後ろ髪が靡いていた。


 大人になってから伸びた、少しだけクセのある茶色い髪。


 透き通ったうなじの白い肌が、持ち上がった髪の下に見えた。

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