第6話 沼地の蛙(前)

早朝-----。


 トウマ、ロッカ、バンの三人はギルド前に集合していた。ロッカは小さなリュックを背負っているだけで明らかに軽装なのに対し、バンはドでかいリュックを背負っている上に何やら長い筒のような包みで覆われている物、手には大きめの手さげまで持って来ている。


「いろいろ準備していたらこうなってしまいました」

「バンは荷物持って来過ぎなのよ。仕方ないから荷物持ってあげて、トウマ」


 やっぱ俺ですよね~、にしても何が入っているんだ?

 あの長物は武器だよな? リュックには重装備が入ってたりして。

 グローブの時みたいに見たこと無い武器が出てくるかもしれないな。

 ちょっと楽しみかも。


 トウマの中でバンはビックリ箱的な存在に成りつつあった。あえて何も聞かずにお披露目を楽しみにする事にしたようだ。


「バンさん、俺持ちますよ」

「すみません。じゃあ、これだけお願い出来ますか?」


 トウマにはドでかいリュックでもなく、長物でもなく、大きめの手さげが渡された。手さげからはほのかにいい匂いが漏れ出ている。


「少し遠出になりますのでサンドイッチなど作って参りました。

 これはお昼に皆で食べましょう」


 料理出来るのですか? さすがバンさん。


「トウマ、それ落としてダメにしたら死刑だからな」


 俺の責任重大じゃないか。


 いざ出発! 最初の目的地は巨大蛙がいるという沼地だ。


-----


 街道から外れて進むとスライムと出くわした。ロッカはスライムを見つけるやいなや飛び込んで短剣で串刺しにする。スライムはこちらに気づく間もなく霧散していくといった感じだ。それが2回続いた。


 俺も倒したいな~。


 すると、耳障りな羽音と共に蚊のモンスターが三人の元に飛んで来た。人間の頭ほどの大きさだ。口から針を出し、刺すような攻撃をして来るので針蚊と呼ばれている。血を吸われようものなら干からびてしまうかもしれない。

 針蚊は飛び回ってトウマを襲って来たが針蚊の背後に回ったロッカが斬り伏せた。


「また、ロッカにとられた」

「早い者勝ちよ、もたもたしてたトウマが悪い。さっさと斬れば良かったのよ」

「だって針蚊ですよ。俺、初めて見たんですよ。そんなあっさり倒すなんて」

「そんなの知らないわよ」


 バンは周りを見渡して言った。


「そろそろ沼地までの中間です。あと半分ありますので少し休憩しましょうか?」


 三人は荷物を降ろし休憩することにした。

 トウマは一息ついて進む先の方角を見ていた。


「ん?」


 何か黒いのがこっちにぞろぞろと来てない?

 まだ遠いからハッキリしないけど、多分、あれ蟻のモンスターだ。


「ロッカ! バン!」


 トウマが声をかけると二人ともすぐに気づいたらしく身構えた。


「顎の牙が特化しています。牙蟻ですね」

「1,2,3,・・・。ちょうど10体ね」


 通常スライムサイズの蟻は『牙蟻』と呼ばれている。蟻としては通常ありえない大きさなのだが頭に『巨大』という名は付かない。大人の人間を大きく上回るサイズのモンスターに巨大という名が付くようだ。それほどでも無いモンスターには、爪、牙、角、棘、刃など特徴的な(危険な)部位の名が頭に付く。体当たり系はゴム。


「10体って、複製体ですかね?」


「そうね、でもスライムが各々同じ蟻に擬態するとは思えないわ。

 トウマが分裂させたスライムの時とは違ってね」


 うっ、スライム分裂させた件、蒸し返されたよ。


「眼が黄色になっているので既に私たちのことを警戒しているようです。

 あの蟻は自発的に複製体を作ったと考えるほうが妥当でしょうね」


「本体倒しても消えるわけじゃないし、全部倒せばいいだけよ」

「二人とも。私に考えがあります。

 出来れば3m圏内にあの蟻たちをとどめていただけませんか?」

「ん?・・・OK! あれ試すのね!」


 トウマが楽しみにしていたバンのビックリ箱お披露目のようだ。

 バンが新しいロッドを取り出した。街でトウマの皮膚を治癒したロッドとは違い、柄の下側が膨らんでロッドの先が尖ってる形状だ。


「トウマ、早く来なさいよ!」


 おっと、こちらはこちらで集中せねば。


「今、行きます!」


 二人は円の内側に蟻たちを入れるように立ち回りつつ、ロッカが2体倒し、トウマが1体倒す。初めての連携としては上手くやっているほうだ。


「行きます! 二人とも離れて下さい!」


 二人は素早く蟻たちから距離を置いた。バンは左手で蟻たちの方向を指差し、右手に持ったロッドを上に向けるとロッドの先から勢いよく炎の球が飛び出した。


”ボッ!”


 バンはロッドから飛び出した炎の球を頭上で円を描くようにぐるんと一周させ、炎の円が繋がると同時に蟻へ向けて放つ!


「炎リング!」


 蟻たちの周り(5mくらい)に円になった炎が舞い降り、激しい炎が円の中心へ向けて収束していく・・・。


”ゴワァーーーー!!!”


 収束した炎は凄まじい勢いで炎柱となりやがて消えた。蟻たちは丸焦げになって霧散した。


「な、な、何ですかあれ? 火力半端なかったんですけど!」

「魔法みたいで凄いでしょ? バンがずっと練習してたやつなのよ」


 ロッカはバンの元へ駆け寄って行った。トウマも遅れて向かう。


「やったね、バン! 凄いわ!」

「上手く出来ました! はぁ~、緊張した」


「技の名前は炎リングにしたのね?」

「ロッカが技名を叫んで放つとカッコいいって言うから考えました。

 炎の円で指輪、韻でエンディングをかけて『炎リング』です」


「バンさん、凄かったです! あれも抗魔玉の力なんですか?」


「はい、このロッドは『真魔玉【赤】しんまぎょく・あか』を使っています。

 この膨らんでいる所に高圧縮したガスが溜まるようになっていて、詳しくは分からないんですけど抗魔玉の力がのった炎が出せます。あれは3発くらいしか放てないんですけどね」


「いやいや、あれを3発も放てるなら十分ですよ。凄い威力だったし」


 バンは少し照れていた。


 バンの話によると炎の球だけなら8発くらい放てるらしい。それで蟻を倒してもよかったが、『炎リング』をやってみたかったようだ。

 相手が素早くない事、水気が多くない事、火事にならないように周りがひらけている所でしかあの技は使わないらしい。どこまで威力を上げられるかは使用者の能力次第だとか。


 あれはロッドを使えば誰でも出来るって訳じゃないのか。

 真魔玉の力を知らない人はバンさんを魔法使いと思うかもしれないな。

 でも使ってるのがロッカじゃなくて良かった。

 ロッカだと所構わずぶっ放しそうだもんな。


 何かを感じたのかロッカは不機嫌そうにトウマを睨んだ。


「トウマ、何か言った?」

「な、何も言ってませんよ」

「あ、そう。じゃあいいわ」


 この人コワいわ~、何かの能力者か?


 休憩を終え、三人は沼地の近くまで足を進めた。


「見えた! 先に確認してくるわ」


 目的地の沼地が見えたようでロッカは駆け出して行った。

 トウマとバンが沼地へ到着すると、ロッカが沼地ぎわの岩の上で沼地のほうを観察しているのが見てとれた。ロッカも二人の到着に気づいたようだ。


「バン、トウマ。荷物その辺に置いてこっち来て!」


 荷物を置いて二人もロッカのいる岩の上に登ってみた。


「どうしたんですか?」

「多分、あれよ」


 ロッカが指差したほうを見ると、沼地の中のポツポツとある岩群の中にひときわ大きい岩のような物が見えた。泥を被っていて周囲に溶け込んでいるように見せかけているが少し動いているようだ。周りの岩と比べて3倍くらいある大きさだ。


 ウソだろ?


「あ、あれが巨大蛙ですか?」

「随分大きいですね」

「今は眠っているみたい。あいつ動いてないからバンの炎リングで倒せない?」


「う~ん、沼地で地面に水分がたっぷりありますので威力半減しそうですね。

 それにあの蛙自身が水気を帯びていそうです。火に耐性があるかもしれません。

 あの通り体全体に泥も被っていますので効かない可能性が高いかと」


「そうか、やめといたほうが良さそうね」


 三人は一旦荷物の所に戻り、蛙をどう倒すか作戦を練る事にした。


 作戦? 兎の例もあるし、なんか嫌な予感しかしないんだが・・・。

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