スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

亜形

プロローグ

この世界のモンスター

 書斎にいる中年の男は手記を書き終え筆を置いた。

 男は一息入れると、自らが書いた手記のページをめくり読み返し始めた。


――――――――――――――――――――


 今から約120年前の大地震により世界は大きく変わった。

 天変地異と言っていいだろう。


 五大陸の当時の建造物はほぼ崩壊したと言われている。

 人類が今まで築き上げたものを全て失ったようなものだ。

 才ある王でさえ何もできなかった。

 自分に都合の良い理想論を掲げたところで民は守れない。

 力を示せない権力など意味をなさない。

 当時の王たちは一人の人間として生きることを優先した。

 それに伴い人類の領地を区切る国という大きな境界が無くなった。

 人類が統治する前の無法地帯へと戻ったのだ。


 最初に立ちはだかったのは食料難だったと言われている。

 人類同士の争いもあったようだが生き残った人類が野人に戻った訳ではない。

 やがて食料難は解消。

 有力者も現れ、互いに協力して世界は復興を試みるようになった。


 だが、復興を順調に進めていたその矢先に人類の敵とも言える生物が誕生した。


 現在、この世界で『モンスター』と呼ばれる生物だ。


――――――――――――――――――――


 始まりは中央大陸の火山が噴火した事だった。

 おそらく大地震の影響だろう。

 その後、世界中にスライムと呼ばれる新たな生物が出現するようになった。


 スライムとは泥水のような色をしており、透明状の粘性のある生物である。

 現在は各地で雨と共に降る『スライムの素』が引かれ合ってスライムが誕生するという原因まで突き止められている。


 スライムの素とは火山の黒煙に含まれ雲に混ざった『魔粒子』が集まってできる小さな粘性のある滴のことだ。

 雨と共に地上に降ったスライムの素は引かれ合う。

 そしてスライムの素が一定量集まると一個体の生命としてスライムが誕生する。


 スライムは見かけ次第討伐されている。

 それは何故か。スライムは他の生物を襲い、取り込んだ生物に『擬態』する危険な生物だからだ。


 スライムが擬態した生物はその狂暴さゆえにモンスターと呼ばれ出した。


 この世界でモンスターと呼ばれる生物は全てスライムが擬態した姿と考えてよいだろう。


――――――――――――――――――――


 スライムは自身が持つ質量に応じて擬態する生物の大きさまでも変える。

 擬態元の生物の爪や牙などを特化させ、強化することが多いようだ。

 特性までも引き継ぐことが多いので最初は新たな変異種と思われていた。


 スライムは取り込んだ生物にすぐさま擬態するという訳ではない。

 擬態する対象はそのスライムの嗜好によって違うようだ。

 スライムがいつ、何に擬態するのかは不明。

 この事からスライムには意思があると考えられている。


 スライムは自身の質量より大きい生物を擬態対象としては取り込めないようだ。

 丸のみにすることでその生物の情報を読み取るのだろう。

 丸のみにできない生物に対しては溶かして自身の質量を増やす養分にする。

 モンスターが元のスライムに戻ることは確認されていないようだ。


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 擬態には巨大化、部位の強化に加えると毛の類は精密に再現しない傾向がある。

 外見を造形のように雑に真似ていると言っていいだろう。


 スライムが兎に擬態する場合は、髭やまつ毛もないハゲている兎になる。勿論それは兎ではない。外見が肌というよりゴムのようなツルツルの兎の形体という事だ。

毛の無いやせ細った兎というわけではなく、姿を似せているだけだ。

 人が見た目を似せて造形した物に近いかもしれない。

 兎に擬態したスライムのモンスター名は、『ゴム兎』と名付けられている。

 兎が生息する所には大抵いるようだ。


 もう一つ、モンスターと識別できるのは眼の色である。

 平常時は緑、警戒時は黄、怒り時は赤に変化するようだ。


 そしてモンスターには動物のような血は流れていない。

 血の代わりに魔粒子が流れていると言われている。

 魔粒子の存在を測ることはできるようになった。だが、人の目には見えないので実際モンスターの内部を流れていることを確認するのは難しいだろう。


 モンスターは絶命させると霧散し、『魔石』と呼ばれる物を落とす。

 最初はモンスターの核と思われていたが魔石に魔粒子は含まれていない。

 魔石はモンスターが絶命して霧散する際に初めて生成される物質だ。

 生きているモンスターの体内に魔石は存在しないということだろう。


 現在、魔石は主に燃料資源として活用されており、珍しい魔石は観賞用としても売買されているようだ。

 魔石にはまだ判明していない活用方法があるのではないかと日々研究されている。私もそのうちの一人だろう。


 モンスターの特筆すべき点は異常に再生能力が高いことだ。

 時間経過で元の姿に再生する。

 切り離された部位は時間経過で霧散して新たに生えるが、霧散した部位にあった魔粒子が本体に再吸収されているかどうかは不明だ。


 例外として切り離された部位が残る場合がある。素材と言われている物だ。

 残った素材に魔粒子は流れていないのでそれは純粋な物質と言えるだろう。

 素材はモンスターの抜け殻のようなものと考えられているが軽くて丈夫な為、今では武器や防具、道具等様々な素材に活用されている。


――――――――――――――――――――


 現状、人類がモンスターを倒す方法が3つある。


 ・モンスターの小さな核を見つけ出して壊す。

 ・現実的ではないが、隔離して絶命するまで待つ。

 ・魔粒子を浄化させる石の力を伝達させた武器で倒す。


 魔粒子を浄化させる力をもつ石は、『抗魔玉こうまぎょく』と名付けられた。

 抗魔玉の発見は人類の大きな希望になったと言えるだろう。


 武器に力を伝達させるという発想は称賛ものだ。


――――――――――――――――――――


 男は手記のページをめくり終えると鼻で笑った。


「フッ、我ながら『だろう』、『ようだ』ばかりで推測の域を出ない書き方だな」


 しかし、抗魔玉の力の研究は面白い。よくぞ見つけてくれた。

 皮肉なものだが、モンスターが出現しなければ抗魔玉の力は発見されていなかっただろう。


 男は立ち上がった。


 さて、今回は彼女たちに任せてみたが、どんなコを見つけて来るか楽しみだ。


 この大陸にもいるだろうか。

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