高校生の時にノート丸々1冊を埋め尽くした歌詞帳を発掘したので考察してみた

雪村

高校生の時にノート丸々1冊を埋め尽くした歌詞帳を発掘したので考察してみた

僕は高校生の頃、詞を書いていました。「詩」ではなく、「詞」です。


詞は、詩よりもキツいです。

ストレートに詩と謳っていない分、「いやいやいや俺が書いてんのは歌詞だから! 詩とは違うから!」という逃げ道を残している感じ見て取れるようで、圧倒的キョロ充感に非常に虫唾が走ります。


しかもこれらは歌詞の体を取っていますがメロディーが付いていません。つまり「黒歴詞」というわけです。

今回は、僕が高校生の頃にノート丸々1冊を埋め尽くした歌詞帳からその詞を一部抜粋しつつ、僕という人間が一体どのような高校生活を送っていたのかを考察していきたいと思います。






それでは早速1曲目の詞の考察を行いたいところですが、その前になぜ僕が詞を書き始めたのかという理由を説明しなければなりません。まあそんなに楽しい話ではないので要点だけまとめて出来るだけダイジェストでお送りしたいと思います。


僕が最初に詞を書き始めたのは高校2年生になってすぐの頃でした。勘の良い方ならすぐに分かると思いますが、完全に高2デビューをミスって孤立し、休み時間が暇になってしまったからです。

元々、中学時代に僕は少し特殊な環境にいて、生来のものもありますがそういった要素も合わさり屈折した性格(今風に言うと完全に隠キャですね)のまま高校へと進学しました。

その高校は中高一貫校で、1年生の間は内部進学生と外部からの受験組とで完全にクラスが別れていて、眼鏡からコンタクトに変えたりできないなりに少しずつオシャレを勉強したりして(その時のクラスメートに音楽を教わり、ほとんど弾けませんがギターを購入したりしました)それなりに楽しい高校生活を送っていました。しかし段々進級の時期が近づいてきて、仲良くしていたはずのクラスメートたちに口々に「(クラスに馴染めなくても)頼らないで欲しい」という旨の言葉を言われてしまいました。

進級したら内部生と外部生が完全にシャッフルされるため再び誰も知っている人がいない学校へと転校するようなものです。なので今となっては彼ら自身も不安な気持ちでいっぱいだったことも理解できるのですが(進級して最初の内は何度か話しかけに来てくれたりしましたが、次第に彼らとは疎遠になっていきました)、孤立してしまった僕は楽しかったはずの高校1年生の1年間全てが否定されてしまったような気がして、正直、孤立してしまったことよりもこれが個人的には1番キツかったです。

それなら最初から仲良くなんてしないで欲しかったと何度も思い、彼らを恨みさえしました。


登下校中も当然1人なのでずっと音楽を聴いていました。なので詞を書き始めたのは必然だったのだと思います。

歌詞帳の1ページ目に書いてあったのがこの『Perceive』という詞です。つまり僕が生まれて初めて書いた詞ということになります。さすがに全ての詞を載せていくと1曲1,000字だとして6曲の詞を載せただけで(数えてみたら全部で30曲ありました)規定の文章量を超えてしまうので詞は基本的に一部抜粋させて頂きます。






『Perceive』



 まず彼らが死ねばいいのにって思った

 次に俺が死ねば簡単だと考えた

 そして最後に全てが消えればいいと思った

 ベッドから飛び起きて音楽プレイヤーを取り出してみる、そしてふと気付く

 俺の周りには最高がいっぱい、最高のアーティスト、最高の音源、最高の音質を約束する最高のイヤホン

 あいつもこいつも特別な才能を持っていた

 どれもこれもが特別で満ち溢れている

 そして気付いた

 俺は特別な人間じゃない


 泣く泣く夢の世界に逃げることにした

 次に布団を被って死にたいと願った

 そして全てなくなればいいと神に祈った

 天井を睨んでさっきの続きを考えてみる、そしてふと気付く

 俺の周りには最低がいっぱい、最低のコミュニケート、最低のマナー、最低の騙し合いを約束する最低の環境

 どいつもこいつも最低のゴミ屑野郎だった

 どれもこれもが負の感情で溢れている

 そして気付いた

 ゴミ屑は俺だけじゃない


 この世界の人間はウン十億人

 ウン十年で全員生き逝きたとして、これまで何千億人生きたんだろうね

 元々生きる意味なんてないさ

 俺には生きている奴の生きる意味なんてとってつけた理由にしか聞こえないんだよ

 でも自分の命を守るため、大切な奴を生かすには働くしかないんだったね

 じゃあ自分の命が大切なんかじゃない僕は? 大切なものなんてない僕は?

 そう考えた時に頭の奥が熱くなった

 何だこれ? 一体これは何なんだろう?

 そんなものなんて絶対にないとかまだ言う奴は死んだ方が世界のためだ

 そう言う僕を見て笑う奴は笑えばいい、さぞかし幸せなんだろう

 お前が失った分だけ俺が得する

 せいぜい地べたで死ねずに這いつくばっていろ

 俺は自分の快楽のため、自分を守るためだけに全てに這いつくばってやる






今になって読み返してみると何か予想以上に荒んでましたね。もう2度とあの頃には戻りたくないものです。

1番では自身の内側へと刃を向けていますが2番では外側へと刃を向けた内容となっており、3番では憎しみを何とか生きる気力に変えようとしている様子が伝わってきます。あとめちゃくちゃ計算間違ってますがそこは見なかったことにしてあげてください。

『Perceive』とは気付く、理解するという意味の英単語です。高2にしては頑張って捻り出したなっていう感じのタイトルだと思います。


そして、にわかには信じられないと思いますがこの詞のおかげで僕は友達を1人作ることができました(彼は今後S君と表記します)。きっかけはほとんど覚えていないのですが、S君はかなり社交的な人間で、孤立していたとはいえ完全に無視されていたわけではなかった僕は彼と何度か音楽について会話したことがあったのですが、何かのはずみで僕の書いた詞を彼に見せることになり、この『Perceive』を見せた結果「感動した」という旨の言葉を贈ってくれてそこから少しずつ距離が近付いていきました。

S君はその後所属していたサッカー部を度重なるペナルティーで監督に目を付けられ、完全に追放されてしまったことで何となく境遇が重なり、お互いに授業中に書いた詞を見せ合ったりして四六時中一緒に行動するようになっていきました。そんな中、初めてS君との共作で書いたのがこの『心のナイフ』という詞です。






『心のナイフ』



 あなたはいつも僕らの上に立って「みんなは平等だ」といってる

 あなたの背中を見て僕らは大きくなりました

 先生、あなたは、僕に「期待してる」と上辺だけの笑顔で、

 いつもつっかかってるおれがうざいのはもう分かってるよ

 友達が、あなたと話して、笑っているやつもいれば絶望に満ちた顔で帰ってくる奴がいるのですが「平等」って何ですか?

 あなたの名声によって従わなければいけない僕ら、僕らの意見を求めるくせに、あなたはいつも自分勝手だ

 いつまでその権力をふりかざして、僕らを操り続けるのですか?


 あなたはいつかみんなの前で「夢は自由に持て」といってましたね

 あなたの姿を見て僕らは希望を持ちました

 先生、あんたは、僕にだけ「現実を見ろ」と見知ったような顔で

 子供にも分かるように説明できないのならもうあんた黙ってろよ

 友達と大勢で巫山戯ていてもあなたは僕だけ連れ出して何度も何度も唾飛ばして

 あんた「教」える気はあるんですか? 「教師」って何ですか?

 何で私だけなんですか? 何故理由を言わないんですか?

 僕は今ごろ気が付きました、あんたがおれを気に入らないだけでしたね

 僕はあんたを殺してしまいたかった、今でもあんたの夢を見るんですよ?


 あなたに教えられたように動いて、それを見てあなたは僕をしかる

 そんな矛盾のオンパレード 僕の頭はショートしました

 あなたは「愛」を知っていますか、あなたは「心」を持っていますか?

 もし知っていたら僕たちにそれを分かるように「教」えてください

 知らないなら、教えられないなら教える立場にならないでください、僕たち一同そう願っています

 そして知らないなんて言わないでください

 あなたは昔、僕たちと同じだったんですよ

 もし、もし

 考えないのでしょうか?

 僕が今ここに立って、憎しみの心とあなたの教訓をナイフに変えて

 ああ、ああ

 あなたの子供を殺してしまわないことを






もちろんこの内容はS君の所属していたサッカー部の監督への思いを素直に綴ったものですが、共作ということはもちろん僕もその一翼を担っているわけで、この詞の考察をするためには今度は僕の中学時代を振り返らなければなりません。例によってもっと楽しい話ではないので要点だけまとめて出来るだけダイジェストでお送りしたいと思います。


僕は中学時代、教師に虐められていました。もちろん僕の生活態度も良くなかったのだろうと今では思いますが、そんなことを思い至るはずもないくらい当時の中学時代の僕は完全に孤立していて、その一つの要因にその教師の存在があったのは明白であると考えざるを得ないほど毎日怒られ、唾を顔面に飛ばされ、図書室に居た僕を公衆の面前で大声で怒鳴りつけながら外へと引き摺られていくような、そんな毎日を過ごしていました。僕と仲良くしているとその教師に目を付けられると面と向かってクラスメートに言われたこともあります。


もしかしたら、中立にいた人物がその光景を見ていたら自業自得と言うのかもしれません。ですが僕は完全にこの教師に虐められていたと今でもハッキリと断言することができます。

毎日マンションから飛び降りようとボーっと階下を眺めているような、そんな毎日を過ごしていました。その教師の息子が同じ敷地内にある初等部に登校していて、2度、その教師ではなくその息子である彼を殺して逮捕されるという内容の夢を見て飛び起きるということがありました。この詞のラストではその当時の自分のイメージが色濃く反映されています。



そして、幸か不幸かこの『心のナイフ』の詞を書いたことによって僕とS君はとある転機を迎えます。尖ってもいた僕は毎日遊んでるだけで大して小説を書いていなかった文芸部には所属せず、ある日その文芸部が文芸部以外の全校生徒を巻き込んで主宰した文章大会にこの『心のナイフ』の詞を元にした小説を書いて応募すると、最優秀賞は逃したものの優秀賞に選ばれることができました。

応募数もそこまで多くなかったと聞いているのであのクソみたいな経験が図書券2,000円分程度にはなった、くらいにしか当時の僕は思っていなかったのですが、作中で『心のナイフ』の詞の内容を演出として流用した部分があったため小説は全て僕が書きましたがS君と連名で応募したことにより2人で揃って受賞したことが朝礼で発表されたことによってS君が社交的な人間だったということもあり、今になって思えばそれが結果的に朝礼のシステムを狡猾に利用したS君と僕の大々的な友達アピールとなったこと、それと合わせて文章力が多少なりとも存在するということを示せたことによって完全に無能な人間ではない、という評価に落ち着いたのではないのかなと思います。






…さて、ここまで読んで頂いた方の中には薄々勘付いている方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこれらの詞は僕の中では未だ「黒歴詞」にはなっていません。

それどころかこの「詞」のおかげで僕は友達を作ることが出来て、最終的には私設の大会とはいえ多少なりとも文章能力が評価され、それなりに楽しい高校生活を送っていたように見えるのに何が黒歴史なんだ、というような感想を持つ方も中にはいらっしゃると思います。


個人的にはそうやって多少なりとも報われた経験があったからこそこうやって「黒歴史」として今まで誰にも話して来なかった自分の過去を曝け出すことができたのだと思っていて、それと同時に僕の中で「黒歴史」として浄化出来たのがここまでのお話だったのだと思います。


しかしこうやって黒歴史として話せるようになった今でも中学時代に負った傷や進級して全ての友人を失った記憶は沸々と僕の心の奥底で蠢いていて、心が落ち込んだ時に不意に顔を覗かせます。詞とは所詮、当時の僕では抱え切ることのできなかった思いを封印した媒体にしか過ぎないのです。


きっと今でも、中学時代に僕を虐めていたあの教師が駅のホームで呑気に話しかけてくるようなことがあればたとえ電車が迫って来ようが躊躇いなく線路下に蹴落とすのだろうと思います。実際には覚えてもいないのだと思いますが。

これを隠キャの妄想だと鼻で笑うことは簡単です。ですが、そうやって鼻で笑われ続けてきた人間が罪のない人間を殺害してしまったニュースを誰しも一度は見たことがあるはずで、世界線なんていう流行り言葉では茶化せないような未来があったかもしれないことは想像に難くありません。それはこれからも、十分に起こり得ることです。






最後に、詞ではなく小説版の『心のナイフ』の末文を抜粋させて頂きこの長いだけで楽しくもない、ただただ暗いだけの自分語りを締めさせて頂こうと思います。






 それは違う。

 あの子供を殺したのは僕の心のナイフなのだ。

 あの男とこの世界がナイフの先端を尖らせて、僕がそのナイフを刺したのだ。

 今から僕はちっぽけな命を使ってあの男を社会的に殺すのだ。

 僕は一枚の封筒を見えやすい位置に置いて重石を乗せた。



 そして僕は屋上から飛び降りた。

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