第二章 ギルドメンバー
目覚めよ、酔っ払い
ゴブリン退治を終えた俺たちは、討伐部位であるゴブリンとオーガの耳を切り落とし、ギルドに戻った。
「えっ、オーガがいたんですかっ!? よく無事でしたね、ケガは?? え、無傷?」
受付のアリサ嬢には驚かれたけれど、登録したてのFランク冒険者など、もともと実力差は激しいはずだ。そこまで驚くことでもないと思うのだが。
報酬を受け取り宿に向かおうとする俺を、サクラが引き留める。
「ちょっとイングウェイさん、どこ行くんですか」
「どこって、宿に帰るだけだが」
「だーめですっ! オーガに吹っ飛ばされたんですよ、ちゃんと病院に行かなきゃ―だめですよ。腕だってケガしてたでしょ? かばってたの、ちゃんと知ってるんですから」
お、おう、こいつ意外と細かいところまで見てるんだな。
こちらの世界に来てから、どうも魔術の具合がおかしい。特に回復呪文がイマイチだ。最初の世界では、これくらいのケガは秒で治していたのだが。
そういえば日本では、病気に対する治療レベルがすごかったな。あの世界の医師たちの研究努力には、本当に脱帽だ。
ということで連れてこられたのは、古ぼけた病院。……病院、だよな?
「ごめんくださーい、レイチェルいませんかー?」
……病院の中は静まり返っており、返事はない。
「むー、また眠ってますね、あの酔っ払いめー!」
サクラはぷんすかと怒ると、さらに声を張り上げる。
「れーいーちぇーるーっ!!」
「もー、うるさいなー。いったい誰ですかー? って、あら、サクラさん」
ぼろっちい扉の奥から出てきたのは、黒髪の清楚そうな女性。白いローブを着込んでいる。
特筆すべきは、その魔力。サクラの倍ほどもあろうかという大きく張り出した胸は、ゆったりとしたローブの上からも強力な魔力を放っているのがわかる。
「イングウェイさん、こちら、友達のレイチェルです。回復呪文がうまいんですよ」
紹介された女性は、あくびを何とか噛み殺しつつ、挨拶をする。
「レイチェル・ヘイムドッターといいます。ふぁーあっ、失礼、初めまして」
礼儀正しく頭を下げているつもりだろうが、酒臭いのがばれてるぞ、酔っ払いめ。
「レイチェル―、じつはこれこれこういうことがあってさー。イングウェイさんの腕を見てくれないかな?」
「あらまあ、それは大変でしたね。――って、あれ?」
不思議そうに腕を見るレイチェル。どうした? なにかあったか?
「あの、すみません、イングウェイさん。これ、いつの怪我ですか?」
「つい先ほど、数時間前だ」
「その割には、もう治りかけてるんですが」
「ああ、応急処置で≪
レイチェルは神妙な顔で俺を見る。真剣な黒い瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えた。
「……どなたが、≪
質問の意味がわからない。
「自分でかけたに決まっている」
「っはあぁぁぃいいっ?」
突然びっくうううっと驚いたレイチェルは、あからさまな警戒とともに俺を見る。
「どしたの、レイチェル?」
「だってこの人、男なんでしょうっ?」
こくこくと、俺とサクラは揃って頷く。
「男がなんで回復呪文を使えるんですかああぁぁ!?」
ああ、そういえばキャシーにも同じことを言われた気がする。
「何かまずいのか? 珍しいのはわかるが、全くいないわけでもなかろう」
「まったくいませんよっ! そんなの、伝説で語られてる魔王くらいですぅっ!」
俺とサクラはぽかんとして顔を見合わせる。
レイチェルはどだだっと走ると、大急ぎで玄関のドアを閉めた。ごったんと大きな音をして、古いドアが勢いよくしまる。
ついでに窓から通りを軽く見回し、カーテンも閉める。
「あの、このこと、他に知っている人は?」
「一人だけ、かな。大丈夫だ、他言するようなやつじゃない」
「レイチェル、これってそんなすごいことなの?」
「すごいどころじゃありませんよ、こんなことがばれたら、兵士に魔族認定されて殺されるかもしれないんですよっ?」
おいおい、まじかよ。というか、さっきから一番騒いでいるのはどう考えてもこのレイチェルとかいう女のほうなのだが。
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