選ばれた依頼


 俺とサクラ・チュルージョは、依頼の貼られた掲示板に向かった。

 ゴブリン退治からドラゴン討伐、変なところでは鉱山調査、果樹園の収穫依頼から漫画のアシスタントなんてものまである。

 どうやらこの世界の冒険者は、相当な何でも屋らしい。


「で、何を選ぶんだ?」

 サクラはむーむーとうなりながら、一つの依頼を手に取った。

「私たちFランク冒険者では、せいぜいこんなところでしょうか」


 ゴブリン討伐、定期依頼と書いてある。

 依頼には通常依頼と定期依頼がある。単に依頼というと、通常依頼のほうだな。

 定期依頼というのは、王国や領主などが常に出している依頼のことで、受けるのも失敗時も何も制限はない。要するに雑用係のようなものだ。

 もちろん収入も少ないのだが、それはこの際仕方がない、というかどうせ駆け出しの俺たちだ。そんなものだ。


「ふむ、町の南にゴブリンの巣があるので、それを討伐するというやつもあるぞ、一緒にどうだ?」

「いいですねー、自信あるんでしょ。頼りにしてますよー?」

 サクラめ、ただの泣き虫かと思ったら、案外ちゃっかりしている。


 ということで、俺たちはゴブリンの巣穴を目指し、街を出た。

 街道を歩いている限りはそんなに凶悪なモンスターは出ないと思うが、はぐれゴブくらい出てくれなければ練習にもならない。


「おいサクラ」

「はい?」

「そういやお前、レベルはいくつだ?」

 ふっふっふ、とサクラは手を腰に当て、自慢してきた。

「驚きなさい、なんとこないだ21になったのです!」

 と言われても、勇者とやらの半分か。強いか弱いのか、いまいちわからんな。

 俺の薄い反応に、サクラは拍子抜けしたようにがっくりしている。


「ステータス、見せてみろ」

「ふえ? あ、はい。ステータス・オープンっ」

 明るい桜色のウィンドウが開き、サクラのステータスが開示される。


 ずいぶん歪なステータスグラフが目に映る。技術(DEX)の伸びが良いのはともかく、戦士系のくせに、肝心の攻撃(STR)と敏捷(AGI)が低い。


「お前、魔法は苦手だったよな」

 こくこくとうなづくサクラ。この呑気さで、よく今まで生きてこれたものだ。


「ちょっと来い」

 言いながら、こちらからサクラの体を抱き寄せる。がばっと服の上からサクラの胸を圧迫する。


「ちょ、え? えーー? いんぐうぇいさんーーー!」


 うるさい。


 むにむにと魔力のツボを押しながら、魔力の流れを確かめる。

 ふむ。

「思った通りだ。お前はちゃんと魔力は持っている。ただ、使い方を知らないだけだ」

「ぜはー、ぜはー、ふえ? ななな、なにをするんですかぁっ!」


 子供の胸に興味はない。そう言ったのだが逆効果だったようで、ぺちんとほっぺたをぶたれてしまった。まったく。


「ところでサクラ、今までの戦闘方法は?」

 え? きょとんとするサクラ。

「そりゃもちろん、カタナしかないじゃないですか。これです、名刀モモフク!」

 そう言って取り出したカタナは、確かに名刀っぽい。光り輝く刃は鋭そうだ。柄の横に、へたくそな桃のイラストが描いてある。


「あ、それ、私が描いたんです、かわいいでしょ?」


 ああ、同じことをしたミュージシャンがいたなーと、懐かしい目で遠くを見る。

 違った、そんなことをしたかったわけではない。

 カタナを借りてみると、本当に名刀のようで、魔力もよく刀身に通る。これならもしかして。


 都合よくゴブリンが近づいてきた。はぐれゴブリンか。


「おいサクラ、ちょっとこれでゴブリン退治して見せてくれ」

「ふえっ、イングウェイさんがやってくれるんじゃないんですか?」

 こいつめ。

「いいから行け」

 俺は容赦なくサクラを蹴り飛ばす。

「ふっぎゃああぁ、ちょ、いきなりっ? こここ、こいっ、ごぶりんめ」


 腰が引けているものの、構え自体は悪くない。おそらく素振りや型は真面目にしていたのだろう。足りていないのは、度胸と――


「うっりゃあっ!」


 大振りにのサクラの袈裟切りを、ゴブリンはサクッと避けて反撃する。

 サクラは遅れて回避しようとするが、間に合わない。俺は横からサクラの体を押しのけて、ゴブリンとの間に割り込む。

 そのままゴブリンを蹴り飛ばし、距離をとる。


「わかったぞ、お前の欠点が」

 やれやれだ。これくらい誰か教えてやれよ。この世界のやつらは、筋力操作の基本もできないのだろうか。

 サクラの欠点、それは筋力に魔力がしっかり通っていないことだ。だからこそ反応も遅れるし、威力も弱い。


「鍛えなおしだな、体に覚えさせてやる。覚悟しろよ、サクラ。今日はゴブリンを斬って斬って斬りまくるぞ」

「ちょ、イングウェイさん、その笑いはすごく怖いですー」

 知ったことか。早く強くなってもらわないと、俺だって迷惑なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る