ダブル

陶来鍬紘

第1話相方不在

テニス選手権小学生の部ダブルス決勝。満を辞して最高学年として挑み決勝に残った。浜松中央テニスクラブ長嶋・落合ペアはその決勝もリードしていた。あと、1ポイントで優勝出来る。その想いと共にサーブを放った。コースも威力も完璧だった。相手は打ち返してきた。すると相棒の長嶋がボレーで決めた。ゲームセット!ウォンバイ長嶋・落合ペア

優勝できた。終わった。表彰式は3分後


---ちょっと、トイレいってくる。


そう言い残し、長嶋は戻ってこなかった。LINEも

したが、既読にはならず、連絡が一切取れなかった。予定していた表彰式も中止になった。一目見たいだけなのに、それも叶わなかった。むなしかった。寂しかった。この世界に自分1人の感じがした。

翌日クラブにうつむきかげんで優勝を報告しにいった。コーチにも伝えた。


---えっ?!あの長嶋が?突然いなくなった?天才の考えることはわかんねぇな。じゃあ、クラブも辞めんのか?


落合は首を傾げた。


---とりあえず、今日からシングルスやらせてください!今日からシングルスで頑張ります!

---お前もう切り替えたのか!早いな!

---いえ、表彰式をすっぽかしたのは何か理由があると思って…ペアの相手は長嶋しかいないかなって。だから、戻ってくるまでシングルス頑張ろっかなって

---明日戻って来ても?

---はい!とりあえず、練習したいんです!

---そうか!それなら、付き合うぞ!まずはステップだ!

---ありがとうございます!


落合は何かを振り払うかのようにラケットを振った。をもいつも以上に頑張った。いつ長嶋が戻って来ても良いように。しかし、長嶋は戻って来なかった。LINEも返ってこなかった。クラブ

から聞いた話では長嶋は無断で引っ越しだのだという。


---夜逃げ⁉でも、月(ルナ)は大会来てたぞ!

---そこがわかんないんだよな~。


と、オーナーとコーチが話していた。

それを落合はこっそり聞いてしまった。しかし、落合は自分が足を引っ張ったせいでいなくなったと思い込んでいた為、別の理由があると知って安堵した。

落合は練習を繰り返した。しかし、上手くなった実感がなかった。シングルスに転向して3か月。動きはつかめたが、上達はしなかった。


---こんなんじゃダメだ!コーチ何とかしてください!

---何とかって言われてもな~。とりあえず走っとけ。


コーチは困った表情をして投げやりに言った。


---何としても、天才月よりうまくなりたいんです。


月が無断でいなくなった影響は、オーナーコーチ以外にもクラブ全体に影響を与え、みんな肩を落とした。落合はた月の代わりになりたかったが、ムリだった。彼は天才だった。天才的なストローク。天才的なサーブ。特に巧いのが、ボレー。相手を惑わすボレーは小学生で右に出る者がおらず、中学生でも、トップクラスの巧さだった。だから、いくら練習を重ねたところで追い付けなかった。


---くそっ!頭では理解が出来てるのに、動けない。


落合は悔しがった。

そして、全国テニス選手権が始まった。

中学では、硬式テニス部に入った。

落合は中一では出れなかったが、中二で出場を勝ち取った。

団体戦は、あっさり敗退。彼は個人戦にも出場した。もちろん、シングルスで。トーナメント表を確認した。そこで驚く名前を見た。ぇ、長嶋?彼奴か?いや、まさかな。長嶋なんてよくある名前だし。シングルスだし。

と、思い試合を見なかった。会場を見まわしても、月の姿など見えなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る