現代知識を駆使してバブル相場に挑め

@Hibiki_Takeuchi

都内ガン病棟

第1話 世界は光に満ちていた

 都内総合病院のガン病棟、廊下には配膳車が数台置かれていた。既に朝食は運ばれていた。若い看護婦がナースセンターに程近い個室の前まで行き、立ち止まった。軽く息を吐いて気合いを入れた。私はプロなんだ。笑顔を数回練習してから引き戸を開けた。

「おはようございます。今日もいい天気ですよ」

 看護婦が窓のカーテンを開けた。直射日光が入らないようにレースのカーテンは閉めたままにした。

「本当にそうだね」か細い声で織田は呟いた。

 胃を全部摘出して点滴で命を維持している。カーテンの僅かな隙間から陽の光が差し込んでいるが、光の粒子を含んでキラキラと流れ込んでいるのが見えた。“俺も、もうそろそろだな”。入ってきた若い看護婦の切ない憐憫と笑顔を絶やさないようにする彼女の感情が、手に取るように自分の心に流れ込んできた。

「今日はいい天気ですから、ちょっと外に日向ぼっこしに行きましょう」

 看護婦が苦労して俺を車椅子に乗せて、病院の敷地内の小さな花壇まで連れて行ってくれた。

「おおおおー」

 光が目に映る全ての物に、生命が宿る樹木、花々、人間、犬、それぞれが固有のオーラを発していた。オーラには色彩と密度の違う層があり、植物よりも動物の方が層の数が多く見えた。

(オーラを発している中心の塊が魂なのだろうか?)

 様々な色彩のオーラ、その構造はわからないが、光の粒子を含んでいた。光の粒子は生命だけにあるのではない。大気の流れである風がそよげば、キラキラ光る風が空に流れていた。そう空気にも、石のような物質にも少量の光の粒子を含んでいた。この光の粒子は、天上の太陽から燦々と太陽光線とともに降り注いでいた。

 「この世界は、光に満ちていたんだな・・・・」

 織田は、感動に震えて涙が溢れ出ていた。

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