異世界ツッパリ暴走録 〜相手が誰だろうとぶちかますんで夜露死苦!〜
直哉 酒虎
第1話 天翔覇者総長・龍翔崎奏多参上!
真夜中、ちょうど日付が変わり、一般人が寝静まる頃の時間帯。
その時間帯にはふさわしくないほどの騒音が響き渡っていた。
海岸から見える灯台付近にいくつもの光が集まり始めていて、光が集まるのに比例して騒音はどんどん大きさを増していく。
激しい波が断崖絶壁に打ち付ける音よりも大きな轟音。
夜中に響くには騒々しすぎる爆音。
音の種類は様々で、虫の羽音のように高いものから獣の唸り声のように低いものまで様々だ。
なんせ集まっている光の数は優に百を超えている。
そう、ここで開かれているのは青春の学生時代からドロップアウトした若者たちの集会。
———暴走族の集会だ。
気合の入った改造が施された単車がずらりと並べられ、自慢の単車に跨がり野次を飛ばしあう若者たち。
若者たちは二つのグループに分かれている。
一つは紅色の衣装を纏う、ガラが悪くガタイのいい若者たち。
もう一つは白亜色の衣装を纏う、スタイリッシュな容姿の若者たち。
そしてその二つのグループの先頭には、周囲の単車よりも一際目立った改造が施された単車がそれぞれ止まっている。
天高く伸びる三段シートやロケット。
改造マフラーの排気音は他のバイクとは比べ物にならないほどの迫力がある。
「
先に声を発したのは金髪の短い髪を、やや左へ無造作にかき上げたポンパドールヘアーの大男。
真っ赤な特攻服を纏い、がっちりとした体つき。
堂々とした態度で単車に跨り、もう片側にいた白い特攻服の男にガンつける。
「そうだな
鳳凰院と呼ばれた細身の男は、単車には跨らずにすぐそばに立っていて、ポケットに手を入れたまま三段シートに寄りかかり、煙草を咥えている。
白亜色の特攻服を纏い、すらっとした背丈のモデル体型。
紫の髪を右に流したウルフスタイルで、襟足の毛は肩甲骨の辺りまで伸びている。
この二人はここら一帯を根城にしている暴走族グループの総長。
ここ一年この二つのグループは対立していて、総長である龍翔崎と鳳凰院は何度も何度も一騎討ちをし続けたが、一度も勝敗がつくことはなかったのだ。
タイマンでの殴り合いだけではなく、足の速さやバイクでの競争。
他にも腕相撲や麻雀対決、大食い対決でも二人の戦いに決着はつかなかったのだ。
顔を合わせるたび毎日のように、様々な闘いをし続けて一年が経過した。
そうして最後に二人が選んだ対決はチキンレース。
この断崖絶壁に向かって自慢の単車をフルスロットルで回し、びびって最初にブレーキを踏んだほうが負け。
にもかかわらず二人は一切怖がる様子もなく、睨み合ったまま闘志を燃やしている。
「時間が惜しい、始めようぜ龍翔崎」
「ああそうだな、テメェとの決着をつける時だ。 負けても文句言うんじゃんねぇぞ!」
お互い同じタイミングで自分の単車に跨がり直し、ハンドルに手を添える。
それを見た取り巻きの一人が、緊張した面持ちで紅白の富士日照柄がデザインされた旗を掲げた。
それを見た二人は自慢の単車をふかし始める。
途端、ギャラリーたちは興奮して大声で騒ぎ始めた。
ライバル関係にあった暴走族を束ねる総長二人が、一年かけても勝敗を決められなかった長い戦いに終止符を打つ。
その瞬間を目の当たりにするため、全員が目をキラキラと輝かせている。
そしてついに! 勝負開始を合図する富士日照柄の旗が、勢いよく振り下ろされた。
卍
「哀れな人間たちよ。 くだらないプライドのために自らの命を絶つとは」
暴走族の総長二人が意地をかけた対決をしたのだ。
こうなることは火を見るより明らかだった。
結果は見ての通り、二人とも宇宙空間の只中を彷徨っている。
何が言いたいのか、二人ともブレーキなどかけずに断崖絶壁からダイブしたのだ。
「あ? なんだここ」
「見たところ宇宙空間か?」
「おいおい嘘だろ? 俺の愛車は勢い余って宇宙までぶっ飛んじまったのか?」
「バカかてめえは、宇宙には酸素がねえからこうして悠長に会話なんてできねえぞ?」
「誰がバカだゴラ!」
無様に死んでしまったにも関わらず、二人は仲よさそうに口論を始めている。
二つの暴走族グループは対立関係にあったのだが、こうして二人でいる時に限り、なぜか仲良さそうに会話をできるのだ。
初めに口を開いた可愛らしい天使は頬をひくつかせながら大袈裟な咳払いを挟み、喧嘩する二人の注目を集めた。
「哀れな人間たちよ。 愚かにも其方らはくだらないプライドを掛けて、自らの命を投げ捨てたのだ」
「誰だてめぇ! つーか鳳凰院、てめぇも崖からすっ飛んだのかよ」
「お前こそビビらなかったんだな。 意外だぜ」
「俺があの程度でビビるとでも思ったか?」
龍翔崎が挑発的な視線を鳳凰院に向ける。 またしても可愛らしい天使は忘れ去られている。
また喧嘩が始まる前に可愛らしい天使は慌てて口を開いた。
「我が名はミキャエル! 神々の申し付けにより哀れな魂たちに罰を与えにきた!」
「神? 罰? 上等だゴラァ、かかってきやがれ」
「お前、見た感じ天使だな? 神の御使いとか言うやつか? 大方、罰ってのは労働か何かか?」
「しゃらくせえ、そんな悠長なことやってねえでタイマン張ろうぜ?」
物騒な雰囲気でにじり寄ってくる二人。 ミキャエルは顔を青ざめさせながら後ずさった。
「い、いやいや。 落ち着くのだ哀れなものたちよ。 我らが神、天照大神様は貴様らに試練を与えると申し出だ」
「神だかなんだか知らねえが、俺らに命令しようってんなら力でねじ伏せてみろってんだ」
「道理だな。 神のくせにびびって直接命令もできねえとは、大した相手じゃなさそうだな」
拳をパキパキ鳴らしながらミキャエルに近づいていく二人。
ミキャエルは瞳にうっすら涙を蓄えながら後ずさった。
「ば、ば、ば罰というのは戦争の絶えない別世界の平定である! だだだだから戦争の絶えない異世界を閉廷することができれば、神々からの報酬が……」
「んなもんいるか、ひよってねえでかかってこいや」
「ほほう、噂の異世界転生か。 面白そうじゃねえか」
「そ、その通りだ白きものよ! 貴様らは最近流行りの異世界転生候補に選ばれたのだ!」
鳳凰院のぼやきに過敏に反応したミキャエルが、ビシッと指を差しながら告げると、龍翔崎は首を傾げながら鳳凰院に視線を向けた。
「異世界転生だぁ?」
「ああ、なんだか知らねえが最近アニメでよく見かけるやつだ」
「オメェ、アニメとか見てんのかよ」
「多少な」
喧嘩腰だった龍翔崎は鳳凰院の言葉を聞き、感心しながら腕を組んで黙り込んでしまう。
その隙にミキャエルは早口に概要の説明を始めた。
「ならば話は早い! 哀れなものたちよ! 貴様らは異世界の戦争を平定するために使わされる神の御使として選ばれた! 貴様らの長きに渡る戦いは、今から行く異世界の平定を持ってして勝敗が決まる! よって、我らが神より無限の魔力を提供することになっておるから、その大いなる力で異世界の平和を……」
「魔法なんざいらねぇ」
「……えーっと?」
龍翔崎の言葉に、ミキャエルは素っ頓狂な声を上げた。
「だから魔法なんざなくても十分だって言ってんだよ」
「いやでも、これから行く異世界はみんな魔法で戦うから……」
「漢だったらステゴロ上等。 魔法なんざ邪道だ邪道」
「おい落ち着け龍翔崎、魔法が使えるってことはかの有名な俺強え無双がだな……」
「あ? もしかして鳳凰院、てめぇは素手じゃ俺に勝てねえからって、魔法に頼ろうとでもしてんのか?」
龍翔崎の挑発的な態度を見て、鳳凰院は青筋を浮かべる。
「上等だ。 魔法なんざなくてもてめえをボコボコにしてやろうじゃねえか」
バチバチと火花を散らし始める二人を見て、あわあわと両手をばたつかせるミキャエル。
「ふ、二人とも落ち着いてぇ! まだ説明が終わってないからぁ……」
「「うっせー! 外野は黙ってろ!」」
息ぴったりな二人の怒鳴り声に、小さく悲鳴を上げながら頭を抱えるミキャエル。
気がつくと二人は取っ組み合いを始めてしまっており、収拾がつかなくなってしまった。
ミキャエルは自らにその脅威が向かないことを確認すると、やけくそになって必要事項をペラペラと話し出す。
「魔法はいらないと言ったので仕方がないから身体能力を可能な限り上げてあげます、それと最低限言語理解も! 後、争いを平定した方には一つだけ願いを叶えてあげます。 ちなみにここでの記憶は転移後は忘れられてしまうのでご了承ください。 それではお二人とも、良き異世界ライフをお楽しみくださーい。 あでゅー!」
ミキャエルの異世界転移概要など全く聞いていなかっただろうが、どうせこの場所での記憶は残らないし、転移後は二人の深層心理に戦争を止めるという使命感が宿るのだ。
先ほどまでの流れは単なるマニュアルで、本当だったら異世界の知識やら魔法の知識やらを宿らせるのが目的だった。
しかし担当した天使ミキャエルは、予想以上に態度の悪い転移候補たちへの意地悪とばかりに、与えるはずの無限の魔力と異世界の知識を与えずに送り込んだ。
魔法で優劣が決まる異世界で、皮肉とばかりに身体能力強化と異世界言語理解という恩恵だけで立ち向かわせる。
こうして始まるドタバタ異世界冒険録、果たして二人は異世界を平和にできるのか。
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