第47話そろばん4級の検定試験

 それからしばらくたった11月の終わり、私はそろばんの検定試験を受けた。このころには5級まで進級しており、4級への進級テストであった。この級になると、足し算・引き算に加えて、掛け算や割り算、伝票算も検定科目に加わり、より難易度が上がっていた。1科目当たりの制限時間は10分。試験時間は1時間ほどであった。試験問題が配られ、先生が

「計算始め」

の号令をかけるまでの間、ピーンとした緊張感が教室中に張り詰めていた。先生の号令とともに、一斉にそろばんをはじく音が教室中に響き渡る。1科目につき10問出題されるので、1問当たりの制限時間は1分。間違わないように計算して、まずは1科目目である足し算はすべてクリア。引き算・掛け算・割り算も順調にすべてクリアして、最後に残ったのが最大の難関である伝票算。この伝票算はそろばんを使わずに、架空のそろばんを使って指を動かしながら計算していく問題で、一番難しい問題であった。こればかりは数をこなしてなれるしかないので、私も検定試験が行われるかなり前から実戦形式の問題を解いてきたが、やはり一番難しかった。それでも何とか制限時間内にすべての問題をクリアして、解答用紙を提出。結果は後日教室の掲示板に張り出されるということで、あとは結果を待つのみであったが、自己採点ではすべての科目で合格ラインである6問正解している自信はあった。そして、2・3日して試験の結果が掲示板に張り出されていた。いくら自信があったとしても、合格発表の瞬間は緊張するものである。自分の名前を見つけてほっとして、晴れて私は4級へと進級した。そろばん教室から帰って、両親に結果を報告すると

「よく頑張った」

とほめてもらえた。そして4級の問題を見てみると、計算式の桁が一桁増えていた。。一方同じ日に試験を受けた姉も合格しており、姉は3級へと進級していた。ここに来て、ようやく姉の背中を追い続けてきたが、ようやく姉に追いつけそうなところまできたことが嬉しかったのを今でも覚えている。

 クラスメイトの中には、同じ日に検定試験を受けたものも何人かいて、大森佳という女子が

「リンダ君、昨日合格してたやろ。おめでとう。よかったやん」

と言ってくれた。私は

「大森も合格してたやん。大森こそおめでとうな。これで二人とも4級やなぁ」

などと話していた。どうやら同じ日に検定試験を受けたクラスメイトは全員合格していたようである。 

 しかし、このことにもいちゃもんを付けてきたのが増井であった。

「お前、ちょっと合格したからっていい気になるなよ」

などと言ってきた。このことを聞いた私と大森は

「俺は別にいい気になってねぇけど。俺が一生懸命努力したから合格しただけであって、別に自慢なんかしてへんわ」

と言い、大森も

「ちょっと増井さぁ、そんな言い方ないんちゃう?私もリンダ君も頑張ったから合格しただけやん。なんでそんな言い方せんなあかんの?」

などと問い詰めていた。増井は

「俺はな、こいつがおったらめっちゃむかつくねん。お前なんかおらんかったらええねん」

などと言うので、一触即発の険悪な空気が漂い始めていた。私が怒りの表情を浮かべていることを悟った大森が

「リンダ君、腹が立ったからって、変なことしたらあかんで。落ち着きや」

などとなだめてくれたので、どうにか取っ組み合いのけんかになる前に事態は沈静化していった。この時に大森が落ち着かせてくれてなかったら、お互いにけがをするほどのけんかになっていたのではないかと思う。あとで私は

「ありがとうな」

と大森に礼を言ってその日は帰宅した。思い返せば大森と言う女子は、私ががいじめで苦しんでいた時も、励まし続けてくれた。卒業するまでの間に感謝の思いを伝えられないまま、離れ離れになってしまったのが今でも悔やまれる。卒業して以来、私は彼女と会っていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る