第61話 『怒りのランカ』

参上! 怪盗イタッチ




第61話

『怒りのランカ』



 顔を真っ赤にしたランカがネコ刑事へと飛び掛かる。ネコ刑事はハンカチを捨てると、頭に被っていた帽子を手に取った。


「そんなに怒るなよ!? このぉ!!」


 帽子の裏側につけられたボタンを押すと、帽子の先から白い煙が出てくる。その煙を使ってくるランカへと浴びせる。


「な!? なによ、これ!?」


 煙を浴びたランカは動きが止まり、その場で咳をし始める。そして煙を吸ったことで目を細めて、ふらふらと左右に揺れ始めた。


「意識が……何を吸わせたの?」


「催眠ガスさ、無警戒に近づいてきてくれたおかげで簡単に吸わせることができたよ」


「催眠ガス……それで眠気が…………このままじゃ寝てしまう……………。こんなところで寝たら美しくない……」


 ランカは必死に眠気に耐えようと、首を振ったり、瞼をあげたりする。


「寝たくない……寝るなら美しいベッドの上…………そうよ、それ以外では……寝ないわァァァァァ!!!!」


 ランカはどうにか気合いで眠気を吹き飛ばす。


「危ない危ない……。ここで寝たら美しくないからね。私をこんなところで寝させようとして!! 今度こそ華麗に倒してやる!!」


 ランカは再びネコ刑事へと飛び掛かる。両手を握りネコ刑事に向けてパンチを放つ。


「わぁぁ!? こうなったら!!」


 ネコ刑事は今度は腰につけたベルトを触る。そしてベルトに取り付けられたボタンを押した。

 すると、ベルトの正面から大音量で音楽が流れ始めた。


 攻撃をしようとしていたランカだが、大きな音に耳を塞いで立ち止まる。


「ぐぅぅぅ、うるさいよ。私の美しい技が汚れるじゃない」


「そんなことは僕はどうでも良いからね。さぁ、もっと音量を上げよう!」


 ネコ刑事はベルトにつけられた機械を操作して、音量を上げる。すると、ランカは耳を塞ぎながら膝を地面につけて座り込んだ。


「く……この程度で……」


 ランカはポケットから薔薇を取り出すと、薔薇をネコ刑事に向けて投げる。


「え!?」


 薔薇はネコ刑事のつけているベルトに刺さり、機械が不具合を起こしたのか、音楽が止まった。


「しまった!? 壊れたのか!?」


「はぁはぁ、ハナハナハナ!! これでそのベルトは使えなくなったな。今度は何を出す? 次変なものを出したら、それを使われる前に破壊してやるよ」


 ランカは立ち上がると、ニヤリと笑いながらネコ刑事を睨みつける。ネコ刑事はこしにつ腰につけていた警棒を取り出して構える。


「今度はその警棒か? どんな仕掛けがあるかは分からないが、もう掴ませないよ」


 ランカはネコ刑事の警棒を警戒している様子。ネコ刑事はランカの言葉を聞き、額から大量の汗を流した。


 ──これはただの警棒だよォォォォォ、もう僕が作ったアイテムは使い尽くしちゃったよォォォォォ──


 ネコ刑事はすでに持ってきていたアイテムを使い尽くしていた。手元に残ったのは普通の警棒のみだった。


 ネコ刑事は警棒を握りながら、ランカの間合いを調節する。ランカもネコ刑事を警戒して、ゆっくりと部屋を回り始めた。


 ネコ刑事は身体能力はそこまで高くはない。そのため、警棒でランカと戦っても負けてしまう。

 正面から戦うわけにはいかず、ネコ刑事はどうするかを考える。そしてある手段を思いついた。



 ──これで行くしかない──



 ネコ刑事は警棒を天井に向けて投げる。そして大声で叫んだ。


「警棒型、閃光弾!!」


「っ!?」


 叫び声に反応し、ランカは一瞬目を瞑り硬直する。光と爆音が鳴り響くと警戒したが、警棒は天井にぶつかるだけで何も起きず、ランカが状況を理解した時にはネコ刑事が目の前にいた。

 両手を腰に回して、ランカに掴み掛かる。全体重を使ってのタックルで、ネコ刑事はランカを押し倒した。


「しまった!? 嘘だったのね!?」


「そうだよ。僕のアイテムはもう使い切ってる!」


 倒れたランカにネコ刑事はのしかかり、身動きを封じる。ランカは逃げようと抵抗するが、そんなランカを押さえつけて手錠をつけた。


「ランカ、逮捕だ!!」


 ネコ刑事が手錠をつけてランカは逮捕された。展示室にいたテレビ局の人達は拍手をする。

 そしてそれと同時に外にいた残りの警官達が展示室に到着。ランカを連行することに成功した。




 ⭐︎⭐︎⭐︎




「すまねぇっす。ネコ先輩、アタシ、すぐやられちゃって…………」


 ランカを逮捕してその翌日。いつもの警視庁の部屋で三人はイタッチが動くのを待っていた。


 コン刑事は昨日の夜にすぐにやられてしまったことを、ネコ刑事に謝る。しかし、ネコ刑事は首を横に振る。


「いいよ、僕も止めるの遅かったし、もっと早く指示が出せたはずだったんだ。僕の方こそ、ごめんよ」


「先輩……。そういえば、昨日の夜から先輩がテレビにいっぱい映ってたっすよ! もう有名人じゃないすか!」


「あれはランカがやったんだよ。なんで僕があんなに取り上げられなくちゃいけないんだ……」


 ネコ刑事がランカを捕まえた姿は、全世界に報道された。たった一人で犯罪者に立ち向かう姿が映ったことで、ネコ刑事は昨日から英雄扱いだ。


「とか言いながら、嬉しいんじゃないすか?」


 コン刑事が揶揄うように言ってみる。すると、ネコ刑事は顔を赤めながらそっぽを向いた。


「そ、そんなわけないし〜」


「ほら、やっぱり嬉しいんじゃないすか」


「そんなことないって言ってるだろ!?」




 ネコ刑事は一時的なブームではあったが、世界的にその姿が知られることとなった。そしてその影響でこの先、ある事件に巻き込まれることを……。まだ誰も知らない。







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