第58話 『吸血鬼との出会い』

参上! 怪盗イタッチ




第58話

『吸血鬼との出会い』





 ローベルはイタッチに降参して、二人は折り紙に囲まれた世界から戻ってきた。仲間と再開したイタッチは、全員を連れてエミリーの眠る部屋へと向かった。


「あの人が……エミリーさん…………」


 日記を読んでいたラーテルは寝ているエミリーの顔を見て呟く。


 一度寝ている顔を見ていたが、ローベルとの旅の記憶を見てエミリーに対する感情は変わっていた。


 イタッチはマントの裏から折り紙を取り出す。そしてカプセルを作る。薬として処方されるカプセルのように見えるが、見た目は真っ赤である。

 そのカプセルをローベルに渡す。


「これは吸血鬼の減った血を増やす効果のある薬だ。ローベル、お前が飲ませろ」


「………………分かった」


 カプセルを受け取ったローベルはエミリーの元へ行き、エミリーの口にカプセルを入れる。


「エミリー様……薬です…………ゆっくり飲み込んでください」


 意識はないが口に入ったカプセルをエミリーは飲み込む。飲み込めたのを確認したローベルは振り向いて後ろにいるイタッチと目線を合わせる。


「これで良いのか?」


「ああ、後は待つだけだ。少し下で雑談でもしよう」



 ⭐︎⭐︎⭐︎



 フクロウ警部達はイタッチを捕まえたかったが、ローベルの雰囲気を見て今はその気持ちを抑え込む。

 屋敷にやってきた全員で食堂にあるテーブルを囲み、紅茶を飲むことにした。


 紅茶を飲んで一息入れて、シンメンタールはローベルに尋ねた。


「この屋敷の仕掛けは君が作ったのかい?」


 屋敷には至る所にトラップがあり、侵入者を閉じ込める仕掛けになっていた。

 シンメンタールの質問にローベルは頷く。


「ああ、そうだとも。私は昔からこういうものが得意でね。特にエミリー様のいる部屋の扉は誰も開けないと自信があったんだが……」


 ローベルは悔しそうにネコ刑事のことをチラリと見る。ネコ刑事は自身が開けてしまったことを思い出して、頭を掻きながら照れた。


「いやぁ…………」


「ネコ先輩はアイテム使っただけじゃないっすか」


「それも僕が作ったものだけど!?」


 コン刑事にネコ刑事が反論している中、フクロウ警部はローベルにあることを尋ねた。


「なぜ、俺達を襲ったんだ。俺達を襲う理由があったのか?」


「それは……」


 ローベルが答えようとした時、先にラーテルが手を上げる。


「それについてはワタシが答えます」


 ラーテルは日記で読んだ内容について、この場にいる全員に伝える。



 ⭐︎⭐︎⭐︎



 エミリーが動けなくなり、屋敷で過ごすことの増えたローベル達。最初は平和な日々が続いていたが、ある時屋敷に訪問者がやってきた。


 彼らはある噂を聞き、この屋敷にやってきたのである。それはテラーストーンというお宝が、吸血鬼を倒すことで得られるというものであった。

 どこで仕入れたのか、テラーストーンとエミリーの正体を知った宝目的の賊が屋敷にやってくるようになり、ローベルはエミリーを守るために賊を撃退するようになったのである。



 ⭐︎⭐︎⭐︎



 フクロウ警部は腕を組み、はぁっとため息を吐く。


「つまり俺達をお宝を狙った賊と勘違いしたってわけか」


「そういうことになる。すまない……警官さん」


 フクロウ警部は向かいに座っているイタッチを指差す。


「コイツは宝目当ての賊かもしれないが、俺達はコイツを捕まえにしたんだ。事情を話してくれれば、協力したのに!!」


「そうっすね〜、吸血鬼さんが手伝ってくれれば、イタッチも捕まえられたかもしれないっすね……」


 フクロウ警部が悔しそうにしている中、シンメンタールはイタッチに尋ねる。


「それでイタッチ。君はテラーストーンを狙っていたのだろう。どうするつもりだ?」


 全員の視線がイタッチに向けられる。イタッチは皆がどう答えるのか待つ中、まったりと紅茶を飲んで一呼吸を置いてから、


「お宝は頂くぜ」


 そう答えた。その答えに対してシンメンタールは顎に手を当てて、


「つまりローベルかエミリーのどちらかを倒すってことか?」


「チチチッ、違うぜ、探偵。テラーストーンの入手方法は倒すじゃない。確かにかつて討伐で手に入れた吸血鬼ハンターが居たからそんな噂が出たんだろうが、それじゃぁ手に入らない」


「討伐がテラーストーンの入手方法ではないか……」


 シンメンタールが考え込む中、上の階から誰かが素足で走る足音が聞こえてくる。その足音は皆のいる部屋へと近づいてくる。

 その足音は皆のいる部屋の前で止まると、勢いよく扉が開かれた。


「ローベル!!!!」


 現れたのは先ほどまで寝ていたはずのエミリー。寝癖のついた頭でローベルのことを見る。


「エミリー様……」


 エミリーはローベルの元へ駆けると、大きく飛び上がりローベルに抱きついた。


「ローベル!!」


「エミリー様!! もう身体は大丈夫なのですか?」


「この通りよ。元気いっぱいよ!!」


 エミリーとローベルが抱きしめ合う。ローベルはエミリーが元気になったのが嬉しかったのか。身体が震えて、目から涙が出た。


 その涙が地面に落ちると、コロンと音が鳴る。


「出たな。お宝が……」


 イタッチはローベルの涙が地面に落ちて変化した宝石を拾い上げる。


「テラーストーン。ゲットだ」


 落ちた涙が宝石に変化した光景を見て、シンメンタールは頭を抱えた。


「テラーストーンは吸血鬼の涙から生み出される宝石だったのか。イタッチ、君は最初から知っていたのかい?」


「当然だ。お宝について調べたからな」


「事前に分かってたのか……」


 悔しそうにしているシンメンタールの背中をラーテルが摩る。


「今回は負けましたね」


「そのようだよ」


 会話が終わったと同時に抱き合っていたローベルとエミリーが一旦離れる。


「ありがとう、ローベル。そして皆さん、あなた達のおかげです」


 エミリーは皆に頭を下げ、礼を伝える。寝ていたが、何が起きていたのかは知っていたようだ。


 ローベルはエミリーの元気になった姿を見て、安心した後、皆にある提案をする。


「エミリー様、皆さんと一緒に食事でもしませんか?」


「ええ、そうね」



 ローベルの提案にみんなは賛同して、一緒に食事をすることにした。いつもは戦っているみんなだが、この時だけは仲良くテーブルを囲み談笑をする。

 こうして吸血鬼屋敷での騒動は終わるのであった。





 数日後、警視庁のある部屋。


「警部、あの後結局イタッチに逃げられたっすね……」


「次こそは逮捕だ。イタッチ!!」








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