第57話 『吸血鬼との出会い』
参上! 怪盗イタッチ
第57話
『吸血鬼との出会い』
「エミリー……アルカード?」
「そうだ。そして私は君の主君だ。よろしくな、私の眷属君」
少年はエミリーと名乗った女性の顔を見上げて、ポカンと口を開ける。
「眷属……どういうこと?」
「あなたはあの時すでに瀕死だった。栄養不足だけじゃない細菌感染もしていたのか。どんな手を使っても手遅れなほどにね」
「俺はじゃあ……やっぱり死んだのか?」
「何言ってるの。じゃあ、私が喋ってるのは幽霊だとでもいうの?」
「死んでない……のか」
エミリーは少年の隣に座ると、少年が生きている理由について語る。
「森で感染した細菌はすぐにでも細胞を破壊して感染者の命を奪うもの。その細菌に対抗するにはさらに強い細菌を取り入れる必要がある」
両手で少年の顔を掴み、エミリーは自身の顔を少年に見せる。そして口を開けて牙を見せた。
「私は吸血鬼の子孫。色々血も混ざって力は弱まったけど、その特性を受け継いでる」
「牙……!?」
エミリーは口を閉じると顔を少年に近づける。少年の鼻とエミリーの鼻が当たるが、さらにに顔を近づけると唇が重なり合う。
「んっ!?」
少年が動揺する中、エミリーはその口を横に動かして唇、頬、首の順番に唇を当てた後、最終的に首と肩の間辺りで止まった。
「なにを?」
「頂きます」
エミリーは口を開き、牙を少年に突き刺す。
「え!? ……なんだ…………これ、血が抜かれて…………それだけじゃない、何か、何か別の何かが入ってくる!?」
血を吸われた少年は、ふらりと力を失いエミリーに寄りかかる。血を抜き終えて、牙を抜いたエミリーは優しく少年を抱きしめた。
「やっぱり若い血は美味しいわね」
エミリーは腕で血を拭う。
「俺は吸血鬼になったのか……」
「ええ、そうよ。私の血を入れることであなたの身体は回復した」
「……俺は、まだ生きられるのか…………」
少年はエミリーに抱えられていたが、後ろに下がり、深く頭を下げた。
「この恩は一生忘れません。俺、……いや、私はあなた様のためにこの2度目の命を使います!!」
頭を下げて感謝する少年。そんな少年の顎に手を当てて、少年の顔を上げる。
「それはダメよ。あなたを助けたのはあなたにまた辛い思いをしてもらうためじゃない。私と共に生きなさい。それがたった一つ、あなたに与える命令よ」
⭐︎⭐︎⭐︎
それから少年はエミリーの屋敷で働くことにした。エミリーは少年にローベルという名前を与えて、弟のように可愛がる。
屋敷には二人しかおらず、広い屋敷をたった二人で管理するのは大変だったが、楽しく過ごしていた。
そんなある日であった。
「だ、だれか……誰かいませんか…………」
どしゃ降りの雨が降る中、二人の住む屋敷に数名の旅人がやってきた。
旅人の半分以上が高熱を出し、腕には黒いあざが出ていた。エミリーは彼らを屋敷にあげると、病の治療として自身の血を分け与えた。
すると、旅人の体調は良くなり、一瞬にして回復した。
「エミリー様……彼らも眷属にするのですか?」
「いいえ、彼らには私の血を中和できる食べ物を食べさせたわ。だから、普通の人間に戻った」
「それじゃあ、俺もそれを食べれば、普通の人間に!?」
「あなたは無理よ。治療に使った血が多すぎた。私と同じで血を中和すれば、身体が灰になって消滅する」
旅人は治療を終え、屋敷を出て行った。なぜ、旅人に治療をしたのか、ローベルがエミリーに尋ねると、人助けをするのは同然だと答える。
しかし、ローベルからすれば、村での出来事もあり、あまり感心することはできなかった。
そしてローベルの不安は的中する。
旅人達が近くの村や街に屋敷での出来事を伝えたことで、エミリーはどんな病も治せる人物として有名になった。
連日のように病を治してほしいという人が訪ねてくるようになり、エミリーの治療法を疑問に思う人々が増えた。
そしてエミリーは魔女と呼ばれるようになった。魔女と呼ばれるようになり、エミリーの治療法を危険なものだと考えられて、治療を求める人々は減った。
そうしてある日である。エミリー達の住む屋敷は襲撃を受けた。
燃える屋敷の中をローベルはエミリーを連れて脱出。この土地にはもういられないと二人は長い旅に出ることになった。
⭐︎⭐︎⭐︎
エミリーは病を治したが、その返しが襲撃だった。それによりローベルはエミリーのお人好しはもうなくなると思っていた。
だが、ローベルの考えとは違い、旅の道中でもエミリーは困っている人がいたら助け続けた。
自身の血を使い、人々の病を治す。
エミリーもローベルも限界はないものと考えていた。しかし、そうではなかった。
ある時からエミリーは足が動かなくなり、長い旅は終わった。
最後の旅地であった土地に屋敷を買い、二人はそこで住むことにした。しかし、長い旅と血の使いすぎるが原因だろうか。エミリーの身体は少しずつ衰退していき、やがてエミリーは眠人となった。
会話もできなくなったエミリーのそばに、ローベルはずっと居続け、彼女が寂しくないように語り続けていた。
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