第44話 『バッグを取り戻せ!』
参上! 怪盗イタッチ
第44話
『バッグを取り戻せ!』
アンは入店してまずカウンターで注文する。このお店では先に注文して、後から商品が運ばれてくるという仕組みらしい。
コン刑事達が注文を終えて席に座っているのを確認してから、アンはカウンターのメニューを確認する。
「……怪しまれないようなものは頼まないと」
アンは小銭を握りしめて、買えそうなメニューを探す。しかし、どのメニューと値段が高く小銭で買えそうなものはなかなかない。
「こうなったら……これしかないですか…………」
アンはドリンクの牛乳を頼んだ。
注文を終えたアンはコン刑事の後ろの席に座り、ドリンクが来るのを待つ。
コン刑事の後ろに座ったのは、タイミングを見計らってバッグを取り返すためだ。
──バッグから目を離した隙に、ささっと取り返します──
バッグはコン刑事の足元にある。しかし、コン刑事の向かいの席にはヤチネズミとユリシスがいるため、その二人にバレる可能性もある。
二人の視線がこちらに向いていない時がチャンスですね……。
アンがチャンスを待っていると、コン刑事達の席にパンケーキが運ばれてくる。風に揺れるほどふんわりとしており、甘い香りはアンの元まで漂ってくる。そんな匂いにアンは思わず声が漏れてしまう。
「……美味しそうです…………」
口から垂れる涎を拭き、アンは冷静になろうと呼吸を整える。
──今度、ダッチさんに連れて行って貰えば良いんです。その時食べましょう。い、今は我慢です──
アンがパンケーキの匂いに惑わされる中、コン刑事達はまずはその見た目を堪能する。
「美味しそうっすね!」
「でしょ! ほら、コンちゃん、写真撮ろ!」
「すね!」
コン刑事達はパンケーキを中心に置き、三人がテーブルに乗り出す。
それぞれがポーズを決めて写真を撮る中、アンは今がチャンスだとバッグに手を伸ばした。
しかし、アンが手を伸ばすと同時に、タイミング悪く、
「お待たせしました〜」
店員がアンの注文した牛乳を運んできた。このタイミングでバッグを取り返すわけにはいかず、アンは手を引っ込める。
そして牛乳を受け取った。
最大のチャンスを逃してしまった。
アンは牛乳をストローで吸いながら、不貞腐れる。
──あとちょっとだったのに……失敗しちゃったです。今ほどのチャンスがこれから起きるか、怪しいですよね──
アンははぁっとため息を吐いた。
コン刑事達は写真を撮り終えて、パンケーキを食べながら雑談をしている。この様子ではしばらくチャンスがなさそうだ。
アンは牛乳をちゅうちゅうと吸いながら、コン刑事達の様子を監視する。
コン刑事はパンケーキを食べながら、ユリシスに尋ねた。
「ねぇ、前に家庭菜園始めたって言ってたけど、最近どうなんすか?」
「最近はハイビスカスを育ててるわよ。いい蜜が吸えるのよー。今日も吸ってきちゃったわ!」
ユリシスは自慢のストローを二人に見せびらかす。
そのユリシスの咀嚼口を見て、ヤチネズミはうっとりする。
「いつ見ても立派な口よね〜」
「いや〜」
照れてるユリシス。そんな彼女達の話を盗み聞きして、アンは心の中で突っ込む。
羽じゃなくてそこを褒めるのね……。
ユリシスが照れている中、ヤチネズミはコン刑事に質問する。
「コンちゃんは最近どう? なんか噂じゃ、イタッチ専門の課ってやばいって聞いたんだけど?」
「そんなことないっすよ。フクロウ警部もネコ先輩も優しいし頼りになるっすよ!」
コン刑事は二人を褒めたあと、コップを手に取って水を飲む。ヤチネズミはニコリと笑うと、
「へぇ〜、ちなみにコンちゃんはフクロウさんとネコさん、どっちが好み?」
突然の質問にコン刑事は水を吹き出す。
「な、何言い出すんすか!?」
「二人ともテレビで見たことあるから見た目は知ってるけど、フクロウさんって太ってるけど頼りになりそうだし、ちょっとワイルド寄りじゃん。ネコさんはひょろっとしてるけど可愛い系なのよね〜」
「仕事仲間っすよ。そういう感じはないっす」
「え〜、寂しいな〜。コンちゃんまだ昔の彼引きずってるの〜」
コン刑事は再び水を吐き出す。そして机に顎をつけて、顔を赤くした。
「そうっすよ……悪いっすか?」
「いや〜悪くないわよ悪くは……。でもね、付き合ってもなく、名前も知らない相手を引きずりすぎよ」
「でも、初恋だったんすよ……」
コン刑事とヤチネズミの話を横で聞いていたユリシスが話に割り込む。
「えっと、誰だったっけ? ナメクジ先生?」
「なんで先生なんすか……しかもナメクジ先生……」
コン刑事がツッコむ中、ヤチネズミがユリシスに教える。
「学生時代の先輩よ! あの柄の悪かった」
それを聞き、ユリシスは手を叩く。
「あ!! 思い出した! あの改造バイクで登校してた先輩か! ほんと、コンちゃんがあの先輩が好きだったって意外だよね〜」
「そうよね〜、良い子のコンちゃんがね〜」
ヤチネズミとユリシスはニコニコ笑いながら、コン刑事のことを見つめる。
「なんすか……」
目を細めて警戒するコン刑事に、ヤチネズミとユリシスはテーブル越しに抱きついた。
「大丈夫よ! 私達がいるよ!」
「そうよ〜、コンちゃんは私達の嫁よ〜」
抱きつかれたコン刑事は恥ずかしそうにしながら軽く暴れるが、激しくは抵抗せず抱きつかれる。
「なんすか……もう…………」
二人の視線がコン刑事に集まった隙に、アンはバッグに手を伸ばして回収する。そして牛乳を飲み干して、バレないうちに店を出た。
無事にバッグを取り戻して、脱出に成功したアンは急いで店のそばから離れた。しばらく進み、もう見つからないであろう場所まで逃げてから中身を確認する。全て問題なく入っており、アンはホッと息を吐いた。
「は〜、無事に回収完了ですね! しかし、コン刑事にあんな過去があるなんて意外でした……。ネットじゃ得られない情報でしたね!」
アンは安心したのか、スキップをしながら家を目指す。
「さてと、今度ダッチさんにあの店に連れて行ってもらわないとですね!」
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