エイプリル・フール
垂乃宮
第1話
エイプリル・フールが今年も訪れる。今も残るoutlookメールの会話の履歴が呪縛みたいに残っている。ほんとに消せないもので、それは僕にとって春の季節がなくなるくらい不可能なことなのだ。
2018年、僕は小学6年生で夏頃から親の勧めを受けて塾へ通い始めた。小学生から塾へ行く人は少ないのか、6人くらいのクラスだった。小学生なんてみんな人見知りで初めはハブられた。僕のことをハブる仲良し女子組、それがあの子との初対面だ。1か月も経てば能天気な小学生という生き物はすぐ人馴染むようで僕も気づけばなんやかんやあって「いつメン」とか「ずっ友」とか言われるほどに仲良くなった。
僕は小学4年生までテニスの選手育成コースに放課後通っていたから、遊びを通して仲良くなる男友達はいなかった。
僕にとっての最初で最後の「いつメン」は彼女たちであったことは明らかだったし、一人ひとり個性があって尊敬していた。あまりにも波が合いすぎて自分が女の子であることを疑ってしまったほどだった。
メールを交換して、「いつ遊ぶ?」とか「お土産なにがいい?」とか適当にメールしあった。僕の家はパソコンに和室がありただそれだけのことが本当に楽しくて、ずっと和室を独り占めした。親にメールを見られるのが恥ずかしくてタブを消して通知が来れば一番小さく表示させたタブを開いて光より早く返信した。
小学生の時間の流れ方は一年が3か月に感じるほど早い。あっという間に卒業して、何の部活に入るか、あの子と同じクラスになれるか、とか神頼みになることもならないことも関係なく真剣に考えていた。
4/1の午後八時くらいのこと、エイプリルフールのメールが来た。
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うち的には元気なんだけど実は私
肺炎になって、それがひどくて
入院することになった...
なんか、肺炎で脳になんか異常があったんだって😗
手術もするかもだってー
失敗したら、ヤバいらしい...
だから、最後に好きです。
これだけは伝えておきたかったです
今までありがとう
これ誰にも言わないで!
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僕はどうしたらいいかわからなかった。確かに心臓がバクバクと静かな和室に響いた。なんと返せばよいものかと全力で考え、しばらくして今日がエイプリールフールであることに気づいた。今までこんなに本気なメールは見たことがなかったから僕は焦った。嘘と本当の狭間で頭がぐちゃぐちゃだった。
「今日エイプリールフールでしょ笑」とは送れなかった。このメールが本当であるならその思いを茶化すようなことはしたくないと思った。
今まで考えてこなかった恋愛対象としても考え始めた。今分析すると共依存気味だった。一緒にいることが当たり前すぎて一度僕の灰色のパーカーを目隠しにして添い寝した時も安心するだけで恋愛感情はなかったほどに鈍感になっていた自分の恋愛脳が初めて動き始めた気がした。
どちらかといえばずっと一緒にいたかったから、いっそこの機会に乗じて自分も好きだとぶちまけてしまいたいと思った。それと同時に、もし相手は何とも思ってないで自分を茶化しているだけなら大変なことになると思った。
考えに考えた結果、僕の脳みそは人からチキンに変化して、その返事がとにかく怖くて無視してすることにした。4/2の午後二時こんなメールが来た
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返信せーい!
はい。嘘です。嘘。
エイプリルフールね...
ところで、お土産食べ物でもいい????
おねしゃす!
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僕はメールを見たのがエイプリルフールじゃなかったという嘘をエイプリルフールが終わった後についてしまった。人生で唯一ついた嘘かもしれない。
僕は「かぐや様は告らせたい」のような恋愛頭脳戦に勝ったのか負けたのかわからなかった。今考えるのはこの時に僕も好きだよと言ってエイプリールフールする作戦もあったなという発見と最後のメールのエイプリールフールね...のこの点々に込められているかもしれない思いの行方である。
中学生になって関係がこじれて、3年間話さなくなり、中3のはじめに別の好きな子ができて告白する直前に、うわさを聞き付けたのか、告白されたのは今度話そう。
終
エイプリル・フール 垂乃宮 @miya_-2
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