第4話 監禁
「サントエルマの森の魔法使い?」
第五階位の女性ドルイド、ニカ・マルフォイが熱っぽく言った。
「本物を見るのははじめてだ!」
「……本物かどうかは分かりませんよ」
熱した
「それにそもそも、あなた自身が
カイ・エモもなかなかの美青年だといわれるが、フィラーゲンの
鋭いまなざしで観察されている当のフィラーゲンの方は、気の抜けたように肩をすくめた。
「確かに。まあ、それはそうか……」
「その人は本物だよ!」
コノル少年が声を張り上げた。
「僕は、その人に助けられた」
コノル少年の横に立つカーディンが、深々とお辞儀をした。折れ曲がったとんがり帽子のてっぺんが、フィラーゲンの方を向く。
「孫を助けてもらって感謝する、フィラーゲン殿」
それから改めてまじまじとフィラーゲンを見つめ、穏やかだが有無を言わせぬ表情で口を開いた。
「しかし、<黒い森>は神聖な場所だ。よそ者が足を踏み入れることを許可することはできない」
「ドルイド僧たちが森を大切にしていることは知っているし、敬意を払う」
フィラーゲンはしずしずと言った。
「だが、今回の襲撃者は、あなたがたの手にはおえまい。血を吸われて干からびた死体を見たぜ。敵は、
「
マルフォイが納得したようにつぶやく。
群衆のあいだに強い動揺が走った。
ざわめく群衆を見渡し、それからフィラーゲンは改めてドルイドの円卓を見つめた。
「吸血鬼は<黒い森>を
そういいながら、フィラーゲンは周囲の様子を注意深く観察していた。
群衆のざわめきが大きくなる。
ドルイド長のレビックと、第二階位のカイ・エモは一瞬、視線を交わらせた。
その他のドルイドたちは、まるで信じられぬというように驚きと
ざわめきがひときわ大きくなり、やがて潮が引くように静かになっていった。
人々の注目が、こんどはドルイド長のドルヴ・レビックに集まる。ドルイド長の裁可を、人々は待っていた。
レビックはあごひげをしごきながら、渋い表情で若い魔法使いを見つめていた。
だが―――。
「残念だが、<黒い森>へ入ることは許可できない」
レビックはいかめしく告げた。
「<黒い森>は神聖な場所だ。そのような化け物が森を根城にしていると、にわかに信じがたいが、もしもそうならば、我らドルイドが対処しよう」
有無を言わさぬ口調だった。
女性ドルイドのマルフォイは意外そうなまなざしでドルイド長を見た。
だが、彼女以外のドルイドたちは、みなレビックの言に賛同のようだった。
「……残念だったね、我々の社会はいささか
カイ・エモが冗談ぽく柔らかな笑みを浮かべながら、そうつぶやいた。
「そうか」
フィラーゲンは残念そうに肩をすくめた。
「ならばとりあえず、今晩の宿を探すとするかな」
「それには及ばぬ、旅人よ」
レビックが厳格な声で告げる。
「我らドルイドは、貴重な客人としてそなたを扱う。カーディンよ、孫を助けられた
よしみだ、家に泊めてやれ。そしてサントエルマの森の魔法使いよ、カーディンの家から出かけるときには、必ずカーディンの
その言葉を受けて、フィラーゲンは皮肉っぽいまなざしでドルイド長を見た。
「なるほど、それはつまり、もてなしという名の監禁というわけだな」
「……話が早くて助かるよ、クレイ・フィラーゲン」
その日のドルイドの会議は、それにて散会となった。
◆◆◆◆◆
<主な登場人物>
クレイ・フィラーゲン 人間離れした竜のような風貌の男。サントエルマの森の魔法使いと名乗っている。
コノル 村を襲撃され、姉を連れ去れれた少年。黒い影の襲撃の目撃者。
ドルヴ・レビック <黒い森>を管理する七人のドルイドの長。厳めしい表情そのままの、厳格で頑固な性格をしている。樹木のドルイドの異名を持つ。
カイ・エモ 第二階位のドルイド。亜麻色の髪を持つ若い青年。蝶のドルイドの異名を持つ。
アビー・カーディン 第三階位のドルイド。レビックと同年代の古参。コノルの祖父。苔のドルイドの異名を持つ。
ニカ・マルフォイ 第五階位のドルイド。唯一の女性ドルイド。独特の上目づかいが特徴。キノコのドルイドの異名を持つ。若いころ、魔法使いに憧れていたこともあり、ドルイドたちの中では最も魔法に詳しい。
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