第451話 転生少年にとっての普通が異世界を浸食し始めた日。
偶にはほぼ説明なしで(*´Д`)
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何故この義足で普通の足の様に歩けるのか。それは細工自体は精密になされているが、原理自体は実に単純だ、とクリンは試着と試験を終えて義足を外しながら言った。
「義足が宙に浮いている時点ではどこも固定されておらず、各関節がフリー状態になっていて、自由に稼働します。しかし、義足を真直ぐに伸ばした状態で地面に接触すると、先ず足の指がそれを感知します。要するに指が過重で押される訳ですね。その状態で更に足の指に過重を掛けると、先ず仮のロックが掛かり各関節が固定されます。ただ、この状態ですと、急に動かしたり別の方向から過重が掛かれば簡単にロックが外れ、関節が動きます。で、仮ロックが掛かった状態でかかと部分に過重を掛ければ、しっかりと関節が固定される、と言う訳です」
要するに足の指と踵に、連動式のガイドピンがあり、過重によりピンがロック機構を動かして各関節を固定しているという事だ。
「この足の指が実はロックとアンロックの両方の機能を司る起点になっているのですよ。だから、足を横に向けて、つま先が地面によって押されない様に動けば、ロックが外れることが無いので、杖と同じ状態で歩く事が可能と言う訳です」
この機能自体は前世地球の傀儡人形にも実装された個体がある、実在の機能だ。恐ろしい事にここまでやっておきながらゼンマイなどの機械的なギミックは一切使われて居なかったりする。
取り外した義足は、残念ながら装具の差し込み口がタイトすぎて取り外す事が出来ず、断念して装具ごと取り外して持ち帰る事にしたクリンは、カルロが装具を脱ぐのを手伝いながら説明を続ける。
「で、足の指が三本以上地面に接触していて、つま先立ちになる位の荷重がかかると、関節のロックがそこで足首、膝の順番で外れて行くようになっています。それにより、体重移動により歩く際の足の曲げを再現しているという訳なのですね」
「成程、まんま足の動きを再現しているって訳なのよなぁ」
「ええ。昔のにほ……ボッター村の職人は、機械や魔法を使わないで動かす為に、重さを利用する事を覚えたのですね。義足で歩かせるのに、義足を放り投げる様に前に出させるのも、この足の中に木製のウエイトが入っていて、紐やレールに繋がれています。今回はレール式を採用しました。それが足を動かした勢いで下がり、膝関節を固定させます。足首にはロックが掛かりません。そして足が地面に接触し、仮ロックが作動し、足首が真直ぐになった事で膝のロックも掛かっているので真直ぐ状態ですからロックがかかり杖状態になり体重を支えます。そのままの勢いで本来の足である右足を前に出せば、最終的には足が傾いて行って、足の指によってロックが外されます。後は、また義足を前に放り出す様にして仮ロックを掛けて、の繰り返しで人間の足の様に動いて歩かせようって言う原理です」
「えぇ……そんな複雑な事を、本当に魔法とか機械とか使わずに木と紐だけでやってんの、この義足は!?」
使っていたカルロが信じられないとばかりに目を剥く。
「はい。ベアリング……関節をスムーズに動かす為の部品のごく一部に金属を使っていますが、それ以外は全部木と鹿の腱を加工した紐だけですね」
「マジかよ……」
「なぁ、クリンよぅ……これ、人にバレたらヤベェやつじゃねえの?」
話を聞いていたマクエルがジットリとした目でクリンを見て来るが――
「え? 別に。だって特別な事なんて何もしていないじゃないですか」
当の本人はあっけらかんと言い放つ。
「木で関節付きの操り人形なんて、こちらでも普通にあるでしょう。所詮はアレのデカい版です。内部構造だって連動ギミックに加重式ロックにハーフロック、二点式ロックなんて、それこそ紀元前……や、千年か二千年前には生まれているでしょ」
「え、そうなのおやっさん!?」
「俺が知る訳ないのよな……だがクリンの言う通りだとしても、よ。これだけの技術がつぎ込まれた義手に義足なんざ簡単に作れないのよな」
「や、それは当たり前です。僕だって死ぬ程苦労して作ったのですから、この義手と義足。え、もしかして簡単に作ったとか思っています?」
心外だ、とばかりにクリンが頭を振る。
「必死に、カルロさんが便利に使える義肢を考え、それに必要なギミックを思い出し、組み合わせ、それを載せられる様に考え抜いてやっと作った物です。こんなのはね、所詮はピタでゴラスなスイッチみたいな物です。死ぬ気で頭悩ませたのなら、知識のある奴なら同じ物かどうかは知りませんが、近い物を勝手に考え出しますよ」
実際にクリンがこの義手と義足に使った技術は、前世では中世から近世の間に職人たちが頭を悩ませて思い付いた技法だけで出来ている。
かなり近い経緯を辿っているこの世界でなら、考えつく奴が居ない筈がないのだ。この程度の物を特別視するのは、ただの怠慢だとしかクリンには思えない事である。
「そんな怠慢な奴らに見られた所で、どうせこの義肢の構造なんて意味不明ですよ。こんな事をしなくても、別の方法で義肢は作れますから。あくまでも『カルロさんの状態で使う事を前提に』この作り方をしただけです。その、根幹の部分に目を向けなければこの義肢はただの木製の無駄な細工の多い人形の腕と足でしかないですよ」
アイデアの一つ程度にはなるかもですね、とクリンは鼻で笑いながら言ってのけた。圧倒的な知識と技術に支えられた少年の過剰とも言える自信に、マクエルは溜息を吐き、
「要するに、真似できる物ならしてみろって、話なのよな……ったく。復活したと思ったら頑固職人気質にまで拍車が掛かってやがるんだわ、コレが……ま、とは言えコッチで態々見せつける必要はねえのよ。服かなんかで隠せば当面は大丈夫だろうよ」
と、諦めに似た言葉を溜息と共に吐き出すしかなかったのである。
そしてクリンは試着と試験運用を終えた後、一目散に義足を持ち帰り再び森の拠点に籠る日々を送る。
試験運用で見つかった問題点を改善し、新たな機構を取り付ける。装具の方にも手を加えている。足の装具の差し込み式固定を、受けの方である義足に挟み込み式の固定具を付けることで脱着を容易にした。
腕の方は指の挙動と薬指と小指の遊びの改善、そして新たに手首の稼働を手動で段階的に調整できる機能を追加させている。
そして義肢を装着したまま着れる服を実はカルロが持っておらず、他人に義肢を見られて模倣された所でなにも困らないとは言え、自ら目立つ必要も無いので、義肢を隠せて目立たない様な服も新たに作る事となった。
最も、こちらは片手片足のカルロが着やすい服となれば、やはり羽織って紐なりなんなりで留めるだけでいい和服が便利だろうという事で、予め生地に加工してあったリムネル布を使ってクリンの服を元にサイズを変えた物を予備も含めて二着拵えた。
これらの改修と服の加工そしてその他諸々を合わせて五日でやってのけたクリンは再びブロランスの街に向かい、マクエルの宿に向かう。
尚、実はまだハーゲンはこの街でラーメンの屋台を開いているのだが、朝早くからダンジョン街道に仕込みに行きそのまま市場に行く関係で、午前の鐘(九時)が鳴る頃かその少し後に顔を出すクリンとはほぼすれ違い状態である。
既に常連客並みにマクエルの門番屋二号店に裏口から顔を出したクリンは、朝の育児が終わって一段落して、厨の裏で休んでいたヘラザードに挨拶をし、次いでイライザとエルマと軽く会話をした後、クリンが来たことを察したマクエルが顔を出し、連れ立ってカルロの部屋に向かう。
扉をノックして開けると、既にカルロは椅子に座って二人が入って来るのを待ち構えていた様で、手招きして中に招き入れる。
その際にカルロはふと思い出した様な口調でクリンに声を掛ける。
「なぁ。そう言えば、お前が帰った後気が付いたら俺の剣鉈とシズラの剣がみあたらねえんだわ。クリン、お前何か知らないか?」
「え、そうなのです? どこかに置いて忘れているだけでは無いですかね」
スッとカルロから視線を外し、シレっと言い捨てるクリンをカルロは暫しの間ジットリとした目で見やっていたが、やがて諦めた様に溜息を吐く。
「まぁ良いや。んで、今日来たのはあれか? この前の義手と義足、もう改修が終わったって事なのか?」
「ええ。カルロさんも今の状態では色々不便でしょうし、装着した後も慣れるのに時間がかかるでしょうから、急いで改修しまそたとも。ま、それでももう一回位、微調整が必要ですがほぼ今回の物が完品ですよ」
言いつつ、クリンは背負って来たリュックから、布に包まれた義手と義足、そして手が加えられた装具を取り出し、自ら手伝ってカルロに装着させていった。
「お……何か前よりも少し軽いか? それに指の動きも滑らかだ……おお、膝のフニャフニャ感が減ったな。お、足首の回転もいいな……そしてコレも足の指が更に滑らかで余計キモイぜ。あと変な部品が幾つか増えている気がするな?」
義手と義足を装着し、一通り使用感を試したカルロが言う。
「少しだけ関節にシブミを持たせて、勢いよく動かない様に調整しました。その代わりに引っかからないで動かせる様に調整するのに苦労しましたが。後、新しい部品は、手首の角度を手動で調節できる機構だったり、親指の角度を調整する為の物が腕に増えて、足の方は膝を曲げた状態で保持できるような機構も入れてみました。後、各関節のベアリングをオイルに漬け込んであるので、腕も足もシブミがあっても前回以上に動くと思います。後、実際に歩く時は靴を履いて貰う予定なので、その為に少々サイズを変更しているので、その辺でも軽量化になっていると思います」
「靴?」
「はい。今は動きを確認する為に素足で動いて貰っていますが、御覧の様に動きが繊細です。ですからゴミや埃に実は弱いです。この位の広さの部屋で動く分には良いですが、やはり機構の保護という面では靴を履いて貰う方が不具合が起き難いです」
「言われてみれば納得なのよな。ウチとしても義足でも裸足で歩かれるのは風聞悪いんだわ、コレが。靴は何でもいいのよな?」
将来的に雇用主となるマクエルがカルロの代わりに聞いて来たので首を横に振る。
「出来れば革製の靴がいいです。ですが、もっと言えば足首も保護できるブーツが良いです。一応、今回は僕が作ってきたのでそれを使ってもらいますが、買い替える時はこれと似た物をお勧めします」
「靴まで……この短期間で……マジかよ」
「こう言う芸の細かい所がクリンなんだわなぁ」
二人が溜息交じりに漏らしていると、クリンは片手にカルロ用のブーツを持ちつつ、
「何終わった感だしているんです? 当然、手の方も手袋を嵌めて貰います。指の方が足よりも余程繊細ですから、こちらの方がハッキリ言って重要事項です」
と、手製らしい手袋を取り出して二人の目の前にぶら下げて見せるのであった。
「……マジで用意よすぎじゃねぇの、クリン?」
「全くなのよな……つうかマジで金貨一枚安すぎんだわ、コレが」
「フフフフ……『こんな事も有ろうか』と!! アレコレ準備して用意しておくのはクラフターの伝統なのですよっ! 常識ですよ、常識!!」
と、クリンは自慢げに胸を逸らすが――
「そんな伝統聞いた事ねえよ」
「知らねえんだわ、んな常識」
前世地球の偉大な工作班長の名台詞を知らない二人によって、一斉にダメ出しを食らっていた。
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まだ続くんじゃよ(´_ゝ`)
あ、明日からまた二日に一度ペースに戻るのでお休みですm(__)m
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