第432話 老婆の診断。



あるぇ……?

3000文字位しか無いから今日は諦めて明日に伸ばそうかとか考えていたら、なんか余裕で4500文字あるぞぉ?




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「アタシも薬師だ。今回は疲労が溜まったせいで風邪をひいた程度さ。だがね、歳と共に体が言う事を聞かなくなってきている事は十分自覚しているのさ。小僧が持ち込んだ薬草で薬が作れたし、対処も早かったから今回は多分持ち直すだろうよ。だが次は? その次の次は? 体力が戻り切る前に次の病気を貰えばひとたまりもないよ。何時ポックリと行くか解らないのは本当の話さね」


 クリンが魔改造した介護ベッドの上に半身を起こしているテオドラが、淡々と事実を語る様に言って聞かせる。


「アタシにもう少し時間が有れば……小僧が成人するまでの面倒が見れたのなら話は違ったんだけどね。残念だけど、その時間はアタシにゃ残って居ないだろうさ……この調子じゃぁね。四年も持てば御の字だろうね」


 何時にも無く弱気なテオドラの言葉。だがクリンは前世で長い間病院で闘病して来た身だ。診断こそ出来ないが相手の体調を見るのは慣れている。何せ自分自身が闘病していた身であり、特に彼が居た病棟は「そう言う人間」が集められて治療されている病棟。


 寿命が限られてきた人間と言うのを嫌と言う程見て来た。だから。診察できなくても経験則で何となくわかってしまう。


 老婆がそんなに長くない事を。特に何か重篤な病に掛かっている訳ではない。だが、全ては魔法薬(ポーション)頼みのこの世界。


 表面的に体の疾患は簡単に治ってもその他の面で前世とは大きく劣るこの世界。毎日栄養剤代わりに魔法薬を飲めるような環境でも無ければ、六十を過ぎれば急激に病に弱くなるのは道理だ。


 その道理が分かってしまうクリンは何か言う事が出来ず、黙って居るしかなかった。


 だが、多少なりとも前世の先進医学知識が「実体験」としてある少年が側に居れば。数年を十年位には伸ばす事は出来るかもしれない。


 しかし、そんな思いも――


「ああ、アタシゃ小僧に面倒見て貰う気は無いよ。フン……『僕は薬師を目指してはいない』か。成程、今ならその意味が良く分かるって物さ。小僧は何処まで行っても薬を『作る事』にしか興味が無い。薬師は患者の容態を見て、どんな薬を使えば治るかも調べるのが生業だ。小僧はそこをすっ飛ばして『治せる薬』を作る事に特化している。確かにそりゃぁ薬師じゃないね。敢えて言うのなら……調剤師とでも言うのかね。薬師から指示が出されて初めて薬が作れる。ハッ! それはそれで確かに面白い存在さ。でもね薬師でないのなら、アタシの弟子じゃないし、弟子でもない奴に面倒を見てもらう筋合いは何処にもないさね」


 老婆自身に否定される。更には、


「それに小僧。今のお前には……その薬自体が自分で作れないだろう?」

「!? ……気が付いていたのですか?」


 何段階もすっ飛ばして核心を突かれてクリンは目を見張る。


「何年薬師やってきていると思ってんだい。これまで頼みもしない薬を量産していた小僧がいきなり材料だけ集めて渡して来れば嫌でも解るさね。あれだろ、『怖くなった』んだろう、小僧? なんなら薬以外の物も、殆どの物が自分で作れなくなってんじゃないか?」


 そう言われて、クリンは何も答える事が出来ずに老婆から視線を逸らした。


 実の所、無意識を装ってはいたが、クリン自身はとうに自覚していた。そもそもこの少年が、自分で集めた素材を自分で加工する気力が起きない時点で青天の霹靂だ。


 丸太を見ただけで抱き着き、狩りに行く道中で発見した採取物で荷物が一杯になる様な人間が、自分が物を作れなくなっている自覚が無い訳が無い。


「楽しく、興味の向くまま面白がって薬を作りまくって来た小僧も、この前あの馬鹿小僧が死にかけた事で、怖さを覚えちまったんだろう? 『自分が作った薬がもし効かなかったらどうしよう』とかなんとか。それとも『薬の効きが悪かったから馬鹿小僧が半端な回復した』とか考えたかい? 一度そう考えちまったらそりゃぁ怖くて、もう自由勝手に薬なんて作れないだろうさ」


 テオドラの指摘は正しくクリンの図星を指している。コレはゲーム世界だけで物を作って来た弊害の一つと言える。


 クリンは確かにHTWではトップ層のクラフターだ。この少年が作る物はどれも性能が良くゲームでの数値補正も最大値に近い物を量産できる程の腕前を誇っていた。


 勿論、その中にはポーションも含まれる。少年が作るポーションはその精度の高さからHTWで初級とされるポーションでも回復補正がゲーム上の上限である+三十%に届く物しか作らないし売らなかった。


 しかし。ココはゲームの世界では無い。ゲームの世界ではポーションとして「完成」したのなら、それは例え補正が無くても「必ず設定数値分は回復する」のが仕様だ。


 それは粗悪品でも同じだ。必ず設定された数字分は回復する。それがゲームと言う物だから。飲んでも回復しない様な物は、ゲームシステム上失敗と見なされて存在そのものが消滅してしまう。ゲーム用語でLOST判定を受ける。


 しかし、現実のこの世界では違う。必ず想定した通りに回復するとは限らない。何かの要因で回復率が阻害される事もあるし、カルロの時の様に体力が足りなくて逆に身体を傷つけるケースも出て来る。


 回復薬なのに回復しない事も有る。それは腕前に関係無く起こる時は起こる。その事実は――クリンにとっては正しく恐怖だ。


 自分が作れば魔法薬(ポーション)は魔法薬として必ず機能する。何故ならソレがゲームだからだ。だが現実では魔法薬として完成しても必ず回復する訳ではない。


 そんな発想など今までの少年には無かった事だ。そして、それは魔法薬(ポーション)だけの事ではない。


 クリンが最も得意とする鍛冶。それもゲームと現実の差を思い知らされている。ゲームで作る武器には耐久値と言う物が存在する。


 それは使えば使う程減って行き耐久値が0になればその武器は消滅する。鍛冶師がメンテナンス作業を行う事でその耐久値を回復できる。ただし、完全に百%回復する訳ではなく徐々に上限が下がっていくのがHTWでの仕様。


 最終的には耐久値の最大が限りなく0に近づき壊れやすくなる。壊れればその場でLOSTだ。だからプレーヤーは耐久力の最大値を下げない様にアレコレ工夫するし、下がってきたら作り替える。


 だが裏を返せば「耐久値が一でもある限りそれは壊れない」のがゲームの世界だ。現実は違う。普通の剣鉈の三倍もの厚重ねの剣鉈で、しかもメンテナンスもしっかり行っているので耐久値は最大に近かった筈。だがそれでもたった一撃で切り裂かれてしまった。


 ゲームであるのならコレはあり得ない。一撃で耐久値をゼロに出来るような攻撃など、ボスモンスターの特殊攻撃を除けばまずありえない。しかも剣が壊れたらダメージは全部剣が負ってくれており、使用者にダメージが行く事は無い。


 だが現実ではカルロはそのまま切り捨てられている。彼が生き残ったのは本当にただの偶然だった。その事を自覚してしまったクリンは。


 テオドラの言う通り、何かを作るのが怖くなっていた。何か見落としているのではないか。


 この世界では実は自分の作る物はそこまで役に立つ物では無いかも知れない。


 そう思ってしまったらもう駄目だった。クリンは無言でテオドラから視線を逸らし続けるしかなかったのである。


「やっぱり思い当たる様子だね小僧……やれやれ、薬師なら一度は通る道とは言え……小僧程に老成していると、ついまだ一桁のガキだという事を忘れちまうねぇ。ついその程度は軽く超えて来ると考えちまう、年寄りの悪い癖だろうね」


 クリンの仕草に、テオドラは弱弱しい苦笑いを浮かべる。


「なぁ小僧。悪い事ぁ言わない。それを乗り越えるのにどれ位時間がいるかは誰にもわからない。だからさ……早い内に、お前さんはココを出て行くべきだ」


 キッパリとそう言い切られ、クリンは逸らしていた視線をテオドラに戻す。その顔には先程と同じ苦笑が浮かんでいた。


「お前さんのソレは、多分時間が有れば自然と解決するだろうよ。若しくは、アタシが尻を引っ叩いて何とかしてやれるかもしれない。でもね、やはりそれでも時間が掛かるんだよ。それが治り切るまで付き合える時間が、アタシには無いのさ」


 今度はテオドラの方がクリンから視線を逸らし、手元を見つめながら自嘲する様に言って来る。


「あの時、オーランド様のオヤジに小僧を押し付けられて居れば良かったんだけどね。小僧が優秀過ぎてはみ出てさっさと戻ってきちまった。だから、今度はもっと時間を掛けて、多くの物を見て、多くの事を考えられるよう、何処か遠くへ旅してくると良い。小僧は確実に『頭で物を考えてから動く』タイプだ。そう言う人間はね自分の心を『納得させる』必要があるのさ。そして、その為にはお前さんの知識や見識を増やすのが一番早いのさ」


 苦笑に歪んだ顔を穏やかな物に変じさせ、まるでクリンに囁く様に言う。


「心のままに……とはこの辺りじゃよく言われるけどね。お前さんの場合は『先ず知れ』そして『考えろ』の方が性にあっているだろう。小僧は心のままに動く前に、先ずは知識さ。そして次に理屈さ。この街で得られる知識と理屈はお前さんはもうとっくに学んじまっているだろう? なら新しい知識と理屈を探しに行くしかないよ。お前さんがこれからも何かを作って生きて行きたいってのならね。この街はお前さんには暮らし易かったのかも知れないが、小僧の心には狭すぎるんだよ、きっと。もっと広い所に出て行く、その時期が近づいて来た事の一端が今回の件じゃなかろうかね」


 淡々とした言葉で言われ――クリンは顔を天に向ける。


「ああ、そうですか……つまり……『ここらが引き上げ時』と、ドーラばぁちゃんはそう言う訳ですね?」

「それは……いや、そうだね。その通りかもしれないね。小僧がアタシの所に来たのはそもそもが『知識を得る為』だろう? そして、その知識はとうに吸収しちまっているだろう。アタシだけじゃなく、この街……いや、この領で得られる物はほぼ吸収しただろうさ。アタシが見るに、小僧の原動力はその『知識欲』さ。その欲がお前さんを突き動かして来たんじゃないのかい?」


「……そうですね……その通りかもしれません」

「なら、もうここでは得られる物は無いと、小僧の中の『欲』が騒ぎ出したのだろうさ。それが小僧の心にブレーキを掛けさせて物を作れなくしているんじゃないかね。『もういい』と思うよ小僧。無理にこの街に合わせて生きる必要なんてないさ。アンタの欲が叫ぶままに、突き進むのも小僧らしい生き方じゃなかろうかね」


 ベッドに半身を起こした老婆は「ちょっと喋りすぎて疲れたね」と言って話を切り上げ、ベッドの脇のハンドルを操作して横に寝られる様にすると、そのままクリンに背を向けて寝転がってしまった。


 クリンはその背中に向けて――


「そうですか……ドーラばぁちゃんはそう思いますか……ちょっと考えてみます」


 絞り出す様にそう言うと「有難う御座いました」と声を掛けてからテオドラの手習い所を後にするのであった。







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クリンに起きている事の、テオドラによる見立ての回でございました(*‘∀‘)


そして……ギフトパワーで余裕で書きあげられたでゴザル(;´・ω・)

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